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***蝶々の粒子***  作者: 音羽
新世界の標的
13/33

親密の手口

「ここね。」

真昼さんが足を止めて、閉じた木製のドア横に刺さった国旗を確認する。

案の定、ここがレストランだと判断するにはその要素が外観からでは不十分な佇まいをした建物に、何の躊躇もなく足を進める彼女の後ろをついていく。


「いらっしゃいませ」


一歩店に入ってすぐ、私の行った事がない異国の空間が広がっているのが感じられた。

音もなく現れた店員の女性が日本人で、日本語を喋っているのに違和感を覚えてしまうくらいだ。

 真昼さんは手にしていた白いカードを何気なく相手へ見せて、案内されるままに

"prenotato"のカードが立てられたテーブルへ移動する。


そこは一番奥まった空間で、ホールと一続きになっているものの

アーチで区切られた半個室になっている窓際のソファ席だった。


「すぐ見つかって良かった。夜子ちゃん凄い。」

真昼さんが両の指先を合わせて微笑む。


「この辺りの道はお爺さまに連れられて何度か来たことあったけど、

見慣れないイタリアンのお店だなって通り過ぎる時に思ったんだよね。」


私が言い終わる前に、真昼さんの目線は急に隣にやってきた長身の男へと移った。

長いコック帽を小脇に抱えた茶髪の外国人。


「来てくれたんだね!!」

「ブルーノ。」


やけにハイテンションな相手に対し、やや落ち着いた態度で真昼さんは返して立ち上がり、海外の挨拶の定番であるハグ、そして頬に顔を寄せる仕草をし合った。


私は椅子に座ったまま、日本では密すぎるそのやり取りを、黙って眺めているしかない。

二人は幾つかイタリア語で親し気に言葉を交わし、真昼さんが私へ手の平を向けた。


「ブルーノ、私のお友達の夜子ちゃんよ。そして夜子ちゃん、この人がこのレストランのシェフでオーナーのブルーノ。」


興奮冷めやらぬ笑顔満開のブルーノがのばす手に、ぎこちない薄笑いを顔に張り付けた私は握手して、

「こんばんは」と呟き腰をおろす。


さっき真昼さんにしたみたいなスキンシップをされるのは御免だった。


……間接ハグ……と一瞬気色悪い考えが脳裏に浮かんだのは否定できないけど。


「こんな素敵な女性たちが来てくれるなら貸切にしても良かったんだけど……、ボクの店、結構人気なんだ。」

「ふふ。なのにテーブル空けてくれて、ありがとう。」


真昼さんはブルーノの降ろした手にそっと触れて、感謝の意を示した。


店内には結構お客さんがいて、ブルーノの言葉通り繁盛しているのが解る。

 そして席について食事をしている皆が、こちらの様子を密かに気にしている。


 カッコいいイタリア人オーナーと旧知の仲であるらしい、イタリア語の出来る美女が醸し出すオーラは眩くて、確かに目線は引き付けられることだろう。

そのうえ、不釣り合いなオマケみたいにくっ付いている地味な十代の娘という取り合わせ。

どういう関係だ、と好奇の眼が向けられているのが嫌でも伝わってきて、なるべく目立たないように私は身を縮めた。


学校内でも、目立ちまくるキコや晴ちゃんと並んで歩くときは卑屈になるけど、

今回はその非じゃない。

もしかしたら私って、引き立て役としてずば抜けた才能を持っているのかな?


なんてポジティブに考えて心の気まずさをやり過ごす。


「お料理はお任せしても良い?夜子ちゃんは、苦手なものとかある?」


尋ねられて、私は首を横に振る。


喜びを隠せない様子でいそいそと厨房へ戻っていくブルーノの後ろ姿を確認してから、真昼さんは私の向かいに座って静かに息を吐いた。


「夜子ちゃん、緊張する?

こんなとこ連れ出して迷惑だったなら、ごめんね。」


月の白さを塗りこんだような美しい腕が伸びて、さっきブルーノに触れた様に

私の指先が捕まえられた。


「そんなこと、ないよ。」



私は慌てて言った。

真昼さんと手を繋げたこと、学校とはまるで違う私生活の姿を見れたこと、それだけで凄く贅沢なのに、

迷惑だなんて思うはずがない。


 ただ、苦しく思うのは私が彼の様に親密になれないことで、

それは、今更どうこう言える物じゃないのは理解している。


「家族や親戚以外と、こういうお店に来た事って無いから、それが緊張しただけ。

真昼さんは、ブルーノ、さんと……お友達なの?」



私は意を決して聞いた。



「そう、留学時代にお世話になった友人。」


 恋人じゃない、という返答に取り敢えず安堵する。

漏れ出しそうになる息をグッとのみ込んだ。



「じゃあ、真昼さんはっ恋人とか、いないの?」



その代わりに、ずっと聞きたかったことを一息で勢いよく聞いた。

でもこれには少し希望の光が見えていて、もし彼氏がいたなら普通は、

ここにいるのは私ではないハズだから。



こんなお洒落ですてきな雰囲気のレストランに、恋人がいるのに私を誘う?



 いないから、連れてきてくれたに違いないという希望混じりの推測。

期待を込めてその後の言葉を待っていると、真昼さんは瞳に怪しげな光を湛えて口を開いた。




「夜子ちゃんって、わたしに興味あるの?」






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