表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

花の女たち

作者: 佐々原 比乃

 女は美しい。特に俺に飼われ育てられている女たちは。名づけた花の名に相応しい美しさで、俺の目をいつも楽しませる。


 彼女らは俺をお父様と呼ぶ。その可憐で透明な声に呼ばれるたび、俺の背筋は震えたものだった。一人一人のこともしっかり記憶している。ペチュニアは雨の金沢の交差点で見つけた。サルビアは横浜の公園でベビーカーごと拾った。俺好みに育った彼女たちは、俺が買い与えた衣装に美しく包まれ、小鳥のような声でさえずる。各自の部屋であるトランクケースに押し込むように仕舞われた姿など至上だった。体を丸く折り畳み、苦しげに収まる肢体……。


 ある日濃紺のトランクケースを開けると、中でスズランが死んでいた。どうして、昨日まで元気だったのに……。しかし彼女だけではなかった。翌日にキキョウ、その次の日にサルビアが死んだ。流行病だと確信した。俺はここ数ヶ月の住まいを引き払った。彼女らの死体を置いて。


 ところが住居を転々としても俺の娘たちは次々と死んでいく。ダリア、デイジー、ブルーベル……。俺が丹精して育てた花たちは、どれだけ引き留めても引き留めても散っていく。


 そしてついに、ペチュニアだけになってしまった。


「お父様」


 ペチュニアは美しいワンピースドレスに身を包み、小鳥のような透明な声でさえずる。


 俺は玄関の鍵を開けた。そして部屋の奥に座り、ペチュニアに背を向けた。


 ペチュニアはしばらく戸惑って立ち尽くしていたようだが、やがて足音が玄関の方へと遠ざかった。


 ばたんと扉が閉まる。


 ああ、行ってしまった。


 うずくまる俺に、静寂だけが耳を打つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ