花の女たち
女は美しい。特に俺に飼われ育てられている女たちは。名づけた花の名に相応しい美しさで、俺の目をいつも楽しませる。
彼女らは俺をお父様と呼ぶ。その可憐で透明な声に呼ばれるたび、俺の背筋は震えたものだった。一人一人のこともしっかり記憶している。ペチュニアは雨の金沢の交差点で見つけた。サルビアは横浜の公園でベビーカーごと拾った。俺好みに育った彼女たちは、俺が買い与えた衣装に美しく包まれ、小鳥のような声でさえずる。各自の部屋であるトランクケースに押し込むように仕舞われた姿など至上だった。体を丸く折り畳み、苦しげに収まる肢体……。
ある日濃紺のトランクケースを開けると、中でスズランが死んでいた。どうして、昨日まで元気だったのに……。しかし彼女だけではなかった。翌日にキキョウ、その次の日にサルビアが死んだ。流行病だと確信した。俺はここ数ヶ月の住まいを引き払った。彼女らの死体を置いて。
ところが住居を転々としても俺の娘たちは次々と死んでいく。ダリア、デイジー、ブルーベル……。俺が丹精して育てた花たちは、どれだけ引き留めても引き留めても散っていく。
そしてついに、ペチュニアだけになってしまった。
「お父様」
ペチュニアは美しいワンピースドレスに身を包み、小鳥のような透明な声でさえずる。
俺は玄関の鍵を開けた。そして部屋の奥に座り、ペチュニアに背を向けた。
ペチュニアはしばらく戸惑って立ち尽くしていたようだが、やがて足音が玄関の方へと遠ざかった。
ばたんと扉が閉まる。
ああ、行ってしまった。
うずくまる俺に、静寂だけが耳を打つ。