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第3話・卵黄のダンジョン

「郵斗ー!起きろー!!」

毎朝毎朝ギャアギャア騒がしいね我が母親は。こんな朝早くに起きて安らかな眠りを楽しむ息子を叩き起こすとは、本当にどうかしてる。俺は部屋のドアの前で喚いている母親を無視し布団に潜り込んだ。

「郵斗!!」

母親が声を荒げる。

「うーん、うっせえなあ。昨日遅かったんだよ!もうちょい寝かせろ」

「何言ってんのよバカタレ!もう7時20分!充分寝たでしょ!」

「ハァァッ!?」

7時20分と言う単語に反応して飛び起きる。俺の学校は8時始業だ。この家から学校まで徒歩40分。つまり、もう出なければならない。と、その時。

ズバァァァァン!!!!

バズーカ顔負けの凄まじい轟音が響いた。

「お袋、客だぞ」

「分かってるって」

ちなみに今の音(轟音)はインターホンである。決して軍隊がバズーカ担いで殴り込んできた訳ではない。俺の親父が面白がっていじくり、こんな音になったのだ。迷惑千万だ。

目の覚めた俺はとりあえず服をジャージから制服に着替え鞄を担ぎ、携帯をポケットに放り込むと自室のドアを開けようとした。

「アゥッ!」

が、足元の広辞苑に足を取られてこけた。

「イッテ・・・・誰だよこんなトコに広辞苑置いた奴」

無論俺だ。

俺の部屋はお世辞でも綺麗だとは言い難く、本棚があるのに漫画やら小説やらが散乱し、カップラーメンのカップやスナック菓子の空き袋が放り出され、広辞苑が床に置かれ、箪笥があるにも関わらず衣類が床を埋め尽くし、ゴミ箱からゴミが溢れ、机の上は鉛筆や消ゴムが転がり、原稿用紙が積まれている。床には砂、壁には染み、天井裏にはエロ本&原稿用紙と言う始末。埃が舞い、ハウスダストが踊り、ゴキブリが巣食い、ダニが蔓延り、蚤が住み着いている。汚いとしか言い様がない。よって、別に部屋の中でコケることなどしょっちゅうなのだ。

とりあえずドアに辿り着いき開け、下に降りる。俺の部屋は2階である。俺の家自体は2階建てなので一応最上階に位置する。ちなみに隣の部屋は弟の部屋だ。

「郵斗っ!おはよっ!」

下に降りた瞬間、聞いた女の声である。少なくともお袋ではない。俺に姉や妹がいた訳でもない。信楽香月だった。

「か、香月ぃ!?何でここにいんだよ!?」「えー、だって昨日『明日一緒に学校行こう』って言ったじゃん」

「あ、あぁあぁ、あれか」

「おぅ郵斗、おはよう」

「おう親父、おはよう」

食卓には既に親父が座っていた。

「親父、郵次は?」

「もう行ったぞ」

「やっぱ早いなああいつは」

「お前が遅いだけだ」

ハハハと笑って、親父はカップラーメンを啜る。

「おい親父、朝からカップ麺かよ。栄養偏るぞ」

「良いんだよ、旨けりゃ。それより郵斗、なんだよその娘。お前のコレか?」

親父はそう言って小指を立てる。

「ち、ちげえよ」

「またまた、照れおって。ビックリしたぞ、いきなりこんな可愛い娘が入ってきて『郵斗君いますか?』だぞ?彼女いない歴17年のお前を訪ねてくる娘がいるとは思わんかった」

「悪かったな、彼女いない歴17年で。好きでいない訳じゃ無いんだよ」

「えー、郵斗って結構モテそうなのに」

「いやいや君、こいつは顔は良いんだがガサツだしいまいち頼り無くてなあ。女の子との待ち合わせ忘れたり中学の時学校遅刻記録を更新したり、夏休みの宿題提出しなかったり」

「ええー、結構成績良いのに」

「頭は良いんだがな。内申良かったらもうちょいレベル高い学校行ってるだろうし」

「まあ確かに」

「うるせえよ。近所が良かったんだよ」

「イスラエル高校の方が近いぞ」

「喧しい。あんな偏差値高いとこ行けるか」

「だからブロートタケ・・・・・・なんとかかんとかなんだ」

「郵斗!!いつまでいるの!?さっさと行きなさい!!」

「だとさ。あんまり美少女待たせるんじゃないぞ、なあ君」

「イヤだあ美少女だなんて、お兄さんお上手!」

「そうだろうそうだろう。ホラ郵斗、さっさと行けよ。もう30分だぞ」

「へ?ウゲッ!マズイ!遅刻だ!」

「あ、ホントだ〜」

「香月、何が『ホントだ〜』だよ、急ぐぞ」

「何さぁ、郵斗が待たせたくせにぃ」

「じゃあ親父、行ってくる」

「おう。じゃあね、えーと」

「信楽香月です。香月って呼んで下さい」

「じゃあ香月ちゃん、頑張っておいで」

「ハーイ」

「香月、急ぐぞ!」

俺はさっさと玄関に行き、靴を履く。程無く、香月が玄関に来た。

「あっ、待ってよ郵斗ー」

香月が靴を履くと、俺は香月の手をひっ掴んで家を飛び出した。




「郵斗、握る力強すぎだよ。美少女の手を棒みたいに持つなんて、ホントにガサツだね」

「うるさい。急いでたんだよ」

「寝坊した郵斗が悪いんじゃない」

「それはお前が夜バンバンメールしてくるからだろ」

「えー、その位当たり前じゃん。最終的に無視したくせに」

「だってお前が『好きな女の子のタイプは?岸田先生?』とか聞くからだ」

「で、結局岸田先生はタイプなの?」

「んな訳あるか。あんな貧乳の暴力女」

「えー、なら胸が大きかったら良いの?」

「そんな問題じゃない」

「私は?胸」

「はっ?」

香月にいきなり胸の事を聞かれ、思わず上擦った声を出し、胸を凝視した。

確かに、香月の胸は結構デカい。少なくとも岸田よりは。

「え〜っと、ちなみに香月さん、何カップ?」

「ん?Fだよ」

「F!?」

「あ、いや、Gかも」

「G!?」

「ん?何?興味ある?」

「い、いや、あるわけねえだろ。それより、明日も一緒に行くのか?」

「うん、勿論。毎日行くつもり」

「毎日かよ。・・・・しゃあねえな」

「でさぁ郵斗、ちょっと面白い話があるんだけどさ」

「なんだ?面白い話って」

「卵黄のダンジョンって知ってる?」

「何それ?」

「知らないか。まああんまり知ってる人いないけど。で、卵黄のダンジョンってね、どこにあるか分からないし、万が一見つけて入っても二度と出れないんだって」

「入らなきゃ良いじゃねえか」

「それがね、入らなかった人はいないらしいんだよ。1人だけ出れた人がいて、その人が言うには『気付いたら足が勝手に動いて、入った』んだって」

「出れた人がいるのか。なら場所も分かるだろ」

「それがね、その人は場所を覚えてないらしいんだ」

「へえ。不思議だな」

「でしょ。で、そこに入ると、時間が止まっちゃうらしいの」

「時間が止まる?」

「いや、正確には時間の経ち方が遅くなるんだって。時計の短針の速度が1時間経っても5ミリぐらいしか進まないぐらい遅くなって、入ってから3日ぐらい経ったはずなのに出た時は入った時とおんなじ日付だったんだって。つまり、その世界での1時間はこの世界での1分らしいの」

「ほう」

「更にその唯一の生還者によると、魔物がいたらしいよ」

「ほうほう」

「まずその人は、友達と一緒にダンジョンに入ったんだって。周りの情景は忘れたけどダンジョンの入り口の様子は覚えるらしくて、見た目は防空壕らしいの。でも中から紫の光が見えて、中を覗こうとしたら体が中に引っ張られたんだってさ。でね、一歩踏み込んだら、意識が飛んだって言うんだよ。で、気が付いたら魔物がいたって。ね、ね、不思議でしょ」

「ああ。確かに不思議だな」

「ね、ね、行ってみたくない?」

「はあ!?」

「だから、行ってみたくない?」

「場所分かってないんだろ!?」

「んー、目星はついてる。なんか行方不明者が後を絶えなくて、防空壕の多い山が県内にあるらしいから」

「で、そこに二人で行くと?」

「二人でとは言ってないよ。仲間は多い方が良いし。桜山君とか有とか誘えば良いじゃん」

「いつ行くんだよ?」

「ゴールデンウィーク。今年は6連休だから」

「あああれか。30日の土曜が特別研修で休みで、2日が建校記念日だからな」

「あっちの世界での24時間はこっちの世界での24分だしね」

「で、有って誰?」

「あ、私の親友。おんなじクラスの橋本有だよ」

「?・・・・覚えてねえな」

「まあ良いよ。今度紹介するから。あ、もう学校だ」

「ギリギリ遅刻みたいだな」

「まあ良いんじゃない、遅刻ぐらい」

「まあ良いだろ」

俺達は上靴に履き替え教室に向かった。




「クォラァ栃香に信楽ー!!初っ最初(しょっぱな)から遅刻とはどう言う了見だ!!」

「は、はぁ・・・・・・」

「すみません・・・・・・」

「なんだその気の抜けた返事はぁ!?貴様らそんなに死にたいかぁ!?」

俺としたことが不覚だった。岸田が担任と言うことをすっかり忘れてた。今岸田は目を吊り上げて竹刀を振り回して怒鳴り散らしている。唾飛んでんですけど。

岸田の地を知らない奴らは今まさに呆然としている。当たり前だろう。童顔、低身長、貧乳、アニメ声と言うロリ以外何物でもない岸田がキレているのだ。岸田自体はあんまり怖くはないが竹刀が怖い。自分の目の前を竹刀が高速で通過するのだ。怖いったりゃありゃしない。

「返事はぁ!?」

「「は、はい!!」」「よろしい。今回は許してやる。自分の席に座れ」

岸田の許可が下り俺達はそれぞれ自分の席に着く。

「じゃあ出席を取りまーす。1番、相川くーん」

「はーい」

「2番、石井さーん・・・・・・」


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