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Grand Hearts  作者: Diverくん
6/12

No,6

前日の任務のその後。

 GAアメリカからは多額の賠償金が支払われ、金輪際、長月研究所との一切の関係を断つという事が約束された。

 そして数日の間、研究所にはそれなりの平穏が訪れた。


「長月所長、コーヒーです」

「ああ、ありがとう」


 普段は慌ただしい研究所内も、作業が一段落したその後は中々静かなものである。

 ハナは研究員兼お茶汲み係として働いている新人だ。

 取り柄と言ったらコーヒーくらいのもので、その腕前は学生時代のアルバイトで培ったという。

 入社時は特にこれと言った趣味もなかった。

 だが、長月に初めてコーヒーを淹れたときに褒められた事をきっかけに、自然とコーヒーを淹れる為の良い道具や良い豆を探すようになっていた。

 今ではそれが彼女の趣味と言っても過言ではない。

 全員にコーヒーを配り終わったハナは、自分の残った仕事をすべく資料室へと向かう。

 その途中の通路で、窓の外を眺める黒髪のボサボサ頭と出会った。

 あまり面識は無いが、確か長月が雇った傭兵の一人で、ツヴァイとかいう男だ。

 声をかけるか否か悩んだが、こちらに気付いていないとはいえ無視して通り過ぎるの

は無礼の極みというものである。

 せめて軽い挨拶だけでもしようとすると、先にツヴァイの方がハナに気付いた。


 「あー、どーも。あんたは、えーっと……」

 「ハナです。ところで、ここで何を?」

 「外を見てた」

 「見れば分かりますよ。そうじゃなくて、何で外を見ていたんですか?って事です」

 「……残してきた妹の事を考えてた」

 「妹さんがいらっしゃるんですか?」

 「あぁ。両親が死んでからは俺が親替わりだかからさ、心配なんだ。俺がいないときはアインが傍にいてやってたけど。今は一人きりだし」

 「そうなんですか……」


 少し挨拶をして通り過ぎるつもりだったが、お人好しなハナは質問や長々とした話を続けてしまった。

 ツヴァイはシティ外の貧民街に住む青年というだけではなく、アインと一緒に貧民街で路頭に迷ってしまった子供達を孤児院まで導き、養っているという。

 かつてはツヴァイも路頭に迷ってしまった孤児だった。

 アインとは孤児院で出会ったらしい。

 その後成長したアインは孤児院を支える教会の神父となり、ツヴァイは出稼ぎに出た。

 しかしそれだけでは孤児院を支え続けるのは難しく、危険ではあるが傭兵になったのだという。


 「悪いな、呼び止めて。仕事あるんだろ?」

 「大丈夫です。普段聞けないお話なので……」

 「まぁ別に暇だったら話相手くらいにはなるからさ」

 「ありがとうございます。じゃあ、私行きます。また今度」

 「ああ」


 結局、予定していたより三十分ほど遅れて資料室に到着した。

 ここには何年分、何十年分かも分からないが、途方も無い情報量で埋まっている。

 全て把握するのは、きっと長月でさえも無理だろう。

 必要な資料だけを手にして部屋を後にする。

 研究室に戻る途中、ニキータに出会った。

 ニキータはハナを見るなり小さく手を振り、駆け寄ってきた。


 「これからケーキ買いに行くんだけど、ハナちゃんも一緒に行かない?」

 「ケーキですか?」

 「そーそー。所長さんったら、急にケーキが食べたいとか言い出すのよ。アタシ美味しいケーキ屋さんなんて知らないから困っちゃってぇ~~」

 「そうなんですか……。私、シティ内の美味しいケーキ屋さん知ってますので、そこに行きましょう」

 「ほんと?助かるわぁ~」


 こうしてニキータと共にケーキを買いに行くことになったハナ。

 当初の目的は残った仕事を進める事だったが、その予定も長月の為にケーキを買いに行くという重要な仕事により後回しである。

 シティの内側へ行く手段は二つほどある。

 一つは各地区に設置されている駅からシティ直通の列車に乗って行く方法。

 もう一つは不法侵入だ。

 しかしハナもニキータもシティ内の住人であり、住民権も所有している。

 パスポートを関所にて提示すれば不法侵入をする必要など全く無いのだ。

 二人がやってきたのはシティの中でも特に賑わうセントラルエリアだ。

 流行りのものや最先端をいくものは大体このエリアで取り扱われている。

 可愛らしい洋服やアクセサリーのショップが多いこの場所は、ハナにとってはどうにも気になるものが多すぎる。

 ついフラフラとそちらの方に行ってしまいたい気分になるが、ケーキの為にぐっと堪えた。

 歩く事数十分、二人は目的地のケーキショップへとたどり着いた。


 「キャーすごーい!」


 ケーキショップに入るや否や、ニキータは歓喜の悲鳴を上げた。

 ショーケースの中に陳列されているケーキの数々は、ケース内のライトの光を浴びて宝石の如く輝いている。

 世の女性は本物の宝石をプレゼントされるよりも、むしろこっちの方が嬉しいのではないのだろうか。

 遊園地に連れてこられた子供のようにはしゃぐニキータを横目に、ハナは長月にどのようなケーキを持ち帰れば良いものかと真剣にショーケースとにらめっこをしていた。

 あまりにも真面目に悩んでいたせいか、ショップの店員に声をかけられた。


 「どのようなケーキのお探しですか?」

 「はぇ?!え、えっと……贈り物用なんですけど……どれも素敵だから迷っちゃって」

 「そうそう。この子が好きな人にあげたいんだって」


 すると先ほどまであちらこちらを忙しなく見ていたニキータが突然口を挟んだ。

 店員も間に受けて「恋人さんへのプレゼントでしたら」と砂糖細工のピンクのバラがあしらわれた如何にも高級そうなケーキを薦められた。


 「ニ、ニキータさんっ?!ななな、何を仰るんですか?!」

 「あら~。違うの?」

 「違いますよ!!そんな、恋人だなんて滅相もないっっ」

 「満更でもない顔してたじゃない」

 「そんなことないです!断じて!フツーのやつでいいです!!フツーのやつで!!」


 ハナを顔を真っ赤にしながら店員に恋人へ送るものではないと訂正した。

 店員もにこやかに状況を察したのか、にこやかに「ではこちらで」と至ってシンプルなショートケーキを差し出した。

 二人はこれを購入してケーキショップを後にした。

 研究所に戻る途中、ハナは「恋人」という言葉が頭をチラついて離れなかった。


 「ただ今戻りました~」


 研究所に戻り、ニキータが研究室の扉を開けようとした瞬間、扉の向こうからでもはっきり聞こえる怒声が響く。

 聞くとそれは女性の声だった。

 そんな怒声を上げる女性などここではアンナしかいないと思われたが、どうやらそうでもないらしい。

 慌てて扉を開けると、そこには長月の胸ぐらを掴む女性の姿があった。

 長月は至ってにこやかだが、女性の方は鬼の形相で声を荒らげていた。


 「てめぇ長月この野郎!!この間作ったやつ全滅ってどういう事だよ!!サンプルが

取れねえじゃねぇか!!!」

 「それが結果なんだ。分かってくれ」

 「このクソメガネが……。てめぇの無理難題に応えるこっちの身にもなりやがれってんだよ」

 「今まで応えられてきたんだから同じようにやればいいじゃないか」


 長月は胸ぐらを掴む女性の手を振り払うと、乱れた襟元を直しながら言った。


 「尤里、君はもう少し大人しくなるべきだよ。今は一人の女性なのだから」

 「うるせえほっとけ」


 長月はその女性を「尤里」と呼んだ。

 どうやら彼女はこの地域の人間ではないらしい。

 尤里は扉を開けたところで呆然としているニキータとハナを見止めると悠然と近づいて来て、二人の目の前で止まった。

 至近距離で見ると、尤里は普通の女性よりも幾分か長身で、ニキータはともかくハナは見下ろされる形になった。


 「ど、どうも……」

 「こんにちは。新人?」

 「去年入社しました。新人……です」

 「そ。アタシ神尤里。これから度々来ると思うけどよろしく」

 「はぁ」


 軽い挨拶だった。

 尤里は既にニキータとも面識があるらしく、軽く手を振って部屋から出て行ってしまった。

 しかし数秒後、尤里はすぐに引き返してきた。


 「一ヶ月後にまた来るからな」


 尤里は扉の外から上半身だけを覗かせて長月に言い放った。

 すると長月は黙って首を横に降ったので、尤里は眉間にシワを寄せて、二週間後にと言った。

 しかし長月はそれでも首を横に振った。


 「一週間後」

 「はあ?!」

 「もう一度言おうか?」

 「言わなくていい!ふざけやがって!覚えてろよ!!」


 尤里は捨て台詞のように叫ぶと、一目散に研究所を出て行った。

 その後激しいエンジン音が聞こえたと思ったら、もう尤里が乗っているであろうジープが砂を巻き上げて外を走っているのが見えた。

個人的イチャイチャ回

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