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Grand Hearts  作者: Diverくん
4/12

No,4

 午後の刻。

 突然傭兵達に召集がかかった。

 しかし警報は鳴っていない。救難信号が来ている訳でもない。

 長月からの通信によると、今回はガレージで待てとの事だった。

 四人がガレージに行くと、そこには黒いバインダーを抱えたニキータと、四台のバイクが。

 

 「やっと来たわね。早く早くぅ」


 傭兵達はニキータに急かされるままに整列をする。


「じゃあこれから今回の任務のブリーフィングを始めます」

「任務?何も聞いてないぞ」

「だーからこれから説明するって言ってんでしょ。黙って聞いてちょうだい。質問は後で聞くから」


 今回の任務。

 先日襲撃してきた組織の所在が判明したという事らしい。

 GSアメリカ。それが先日の襲撃の元凶である。

 この組織はもともとジェット機のエンジンを開発している会社だ。

 何故研究所に忍び込むような真似をしたのかは不明である。

 前回殺害した侵入者を調べた結果、此度の件がGSアメリカの仕業だということが分かったという事だ。

 しかし研究所側に損害が無かった訳ではない。

 そこで賠償請求がてら一矢報いてやろうというわけである。


 「十分後に如月副所長が輸送機でGSアメリカ本社ビルの1キロ手前まで送ってくれま

す。着いたら所長さんから通信が入る筈なので、待機してください」

 「随分と至近距離からだが、相手の探査網はどうなっている?」

 「その辺はこちらで死角になる場所を探しておきました。あなた達は所長さんの指示に従って、速やかに侵入して。それを使って多少強引に突破するんでもいいわ」


 ニキータは四人の後方に置いてある人数分のバイクに目をやった。

 十分後、予定通りルイの操縦で傭兵とバイクを乗せた輸送機はGSアメリカ本拠地へと向かった。

 途中、何度か長月から無線が入った。


 『チャイカ君に言うのを忘れていたが、今回の目的はGSアメリカに脅しをかける事と、損害賠償の請求だ。警備は殺しても構わないけど社長は殺しちゃダメだよ』

 「あんたやる気あんの?」

 『いやアンナさん、殺すのは私の仕事ではないからね』

 「こいつ……」

 『それと、君達に支給した移動手段だが……まだ開発途中なんだ。使用中に変な音や爆発したりしたら直ちに使用を停止してくれ』


 それきり無線は途絶えてしまった。

 変な音や爆発……。四人は一斉にバイクを怪訝な顔で見た。

 何も無いことを願うばかりだ。

 やがて目的地一歩手前で輸送機は一時的に着陸する。

 操縦室からはいつもより若干深く眉間に皺を寄せたルイが足早に出てきた。


 「思ったより警備の範囲が広い。悪いがここから行ってくれ」


 ブリーフィングの甲斐もなく、本来の予定は慈悲もなく崩れていく。

 GSアメリカの連中も、長月研究所に喧嘩を売った場合はただでは済まない事は承知の上での犯行だったのだろう。

 探査網は通常の約三倍にまで広げられ、予定通りの場所に輸送機を飛ばしていた場合

はGSアメリカ本社ビルに設置されている対空掃射砲に蜂の巣にされていただろう。

 しかし探査網に逸早く気付いたからと言って、まだ安心できたわけではない。

 結局侵入するのだから、敵警備兵は避けては通れないだろう。

 そしてGSアメリカ本拠地には対空掃射砲だけではなく、対地掃射砲も嫌というほどに備え付けられている。

 以上の事は全てギリギリ輸送機を出る前に長月から入った無線の情報だ。


 「何のためのブリーフィングだったんだ?馬鹿馬鹿しいっ!」


 アインが声を荒らげた。

 ヘルメットを被っていて表情は伺えないが、アンナも相当イライラしている様子だった。


 『ほら、時間が勿体ない』


 無線からは長月の急かす声が聞こえる。

 半ば半狂乱のアンナは無線を投げ捨て先行した。

 後に続くように残りの三人も支給された少し心配なバイクで後を追った。


 敵地突入時、既に敵の哨戒網に探知されていたのか、前方と後方から複数の警備兵が迫っていた。

 彼らも傭兵と同じようにバイクに乗っている。

 四人はやむを得ず二手に分かれた。

 アインとレオンは西へ。正面入口の方角へ向かった。

 ツヴァイとアンナは東へ向かったが、向かった先に敵兵に回り込まれてしまった。

 そこでも二手に分かれたため、ツヴァイとアンナは単独行動になる。

 ところで、傭兵にはそれぞれ長月が事前に作ったGPSが取り付けられている。

 長月は傭兵の動きを見ながらオペレーションをするわけだが、こうもバラバラになられると彼とてやり辛い。

 そこで長月は提案した。


 『君達傭兵の協調性の無さに流石の私もお手上げだ。そこでだ、アイン君とレオン君のオペレーションは如月君に任せる事にする。よく言うことを聞くように』

 「なんだと?」

 『私はどうしようもないレオン君の姉君と、どうしようもないツヴァイ君をどうにかしなければならない。ごきげんよう』

 「おい、こっちの意見は……」

 「ダメみたいっスねぇ」

 「なぜいつもこうなる……」


 追手を上手く巻き、敵に見つからない場所で潜伏している最中の会話である。

 ここから先、アイン達はルイの指示に従って動かなければならない。

 ルイは現在、対空掃射砲の射程距離外で待機しているはずだ。


 『こちら如月。聞こえるか』


 長月からの無線が切れた数秒後、ルイからの無線が入った。


 「ああ、聞こえる」

 『それは良かった。所長からお前達の指示を任された。お前達が今いる地点は正面入口からたった百メートルの距離しかない』

 「なんだ、じゃあさっさと警備ぶっ殺して、中入っちゃいましょうよ」

 『入口付近に対地掃射砲が二機設置してある。近づけば撃たれるぞ』

 「どうすればいい?」

 『俺と所長で別の入口を探す。その間にできるだけ警備を減らせ。以上だ』


 ルイは手短に要点だけ伝えると、返事を待たずに無線を切った。

 アインは黙って無線機を懐にしまうと、レオンに向き直った。


 「何スか」

 「いや、別に。お前は楽しそうだな……」

 「え~?何スか?何スか何スか?俺そんな風に見えます?」

 「あぁ、仕事をしよう」

 「分かんない人っスね~あんた」


 レオンは歩き出すアインに着いて物陰から出ると、間も無く複数の銃声が辺りに響き渡った。

 一方、アンナとはぐれたツヴァイは敵に追われていた。

 まだ彼が使っているバイクには長月が言っていた変な音や爆発のような事態は訪れていない。

 しかし敵を振り切る為に速度を上げた瞬間、エンジンから焦げる臭いと煙が立ち込めた。

 ツヴァイは己の身の危機を感じ、後先考えずにバイクから飛び降りた。

 その拍子、バランスを崩して横倒しになったバイクは敵の乗っているバイクと衝突し、中規模の爆発を起こしてバラバラになってしまった。

 だがその爆発のおかげで敵の数は半分以下まで減った。

 ツヴァイは近くにあった管理室やら何やらが集合して建っている場所に逃げ込んだ。

 そこはバイクのような乗り物ではとてもではないが入れない場所だ。

 複数で来れば危険も増すだろう。

 敵兵もやむなく乗り物を捨てて追いかけてきた。

 しばらく敵と追いかけっこをしていたツヴァイだが、やはり迷路というものには行き止まりが付き物だ。


 「げぇっ、行き止まり」


 引き返そうと振り返ると、既に退路は塞がれていた。

 長月からの通信は今だに無い。

 まさに絶体絶命の状況である。

 退路を完全に塞いだ敵兵達が一斉に銃を構える。

 反撃しても突破できる見込みは無い。

 しかしツヴァイは最後の可能性に賭け、行動に出た。


 「こ、降参!俺傭われだからさ、許してくれよ!」


 ツヴァイは銃を地面に投げ捨て、両手を上げて降参を認めた。

 敵兵は一瞬たじろぎ、銃を下ろすか否か仲間内で目配せしているようだった。

 反応があったのを見逃さなかったツヴァイは更に続けた。


 「……妹を家に残してきてるんだ!俺がいなくなったら妹の生活はどうなる?!あ、あんたらにだって家族はいるだろ?」


 情に流されたのか、一人の敵兵が銃を下ろしかけた瞬間、ツヴァイから見て右の通路から敵兵の叫び声と、耳を劈くエンジンの咆哮が轟いた。

 猛スピードで敵兵を蹴散らしながら現れたのは、バイクに乗ったアンナだった。

 アンナはツヴァイの目の前で停まるやいなや、颯爽とバイクから降り、ズカズカとやって来てツヴァイの胸ぐらを掴んだ。


 「お前には、プライドとか、無いのか?!」

 「いや俺、命大事にって感じなんで……」

 「ヘタレ!馬鹿!さっさと後ろ乗れ!」

 「……お姉ちゃんかっこいい……!」

 「お前のお姉ちゃんになった覚えはない!」


 長月は見覚えがあった。GSアメリカの本社ビルに設置された対空掃射砲と対地掃射砲に。

 そしてどこでそれを見たのか思い出せずにもいた。

 長月はルイに無線を繋ごうとした瞬間、先にルイから無線が入った。


 『所長、あの掃射砲に見覚えがあります』

 『君もか。ちょうど私もそう思っていたんだ。どこで見たかな……』


 無線越しに二人で考え込んでいると、ニキータが一枚の設計図と顧客リストの一部を長月に笑顔で渡した。

 それを見た長月は、愉快でたまらなくなり声を上げて笑った。


 『分かったぞ。聞いてくれ』

 『如何しましたか』

 『それは私が設計したものだ。五年前にな。傑作だ』

 『忘れていたんですか』

 『君もだろう?』

 『えぇ』

 『まぁいい。私が作ったものなら私がどうにかしよう。傭兵にも伝えてくれ。通信終了』


 アンナとツヴァイは一時的に追手を減らすことは出来たものの、追手は増えるばかりだ。

 バイクは速度を上げるが、二人分の重さには耐えられなかったのか、異変はすぐに起きた。


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