彼女の一歩
私は今日、己が使命を果たす最初の一歩を踏み出します。
誰に呟くでもなく、ただ心の中でそう言葉を落とし、深呼吸をして彼女は目線の先の舞台を見つめた。
16年という月日を彼女は待った。すべては国のため、この国に夏を、そして恒久の絶対と平和を。
その思いがやっと、やっと一歩踏み出せる。
彼女の内には溢れんばかりの歓喜があった。
はやくこの思いを伝えたい。届けたい。共有したい。
「理事長代理、挨拶」
会場に染み渡るように響く声をきっかけ、彼女は少しだけ上がったヒールをかつりと鳴らす。
寄せられた幕にドレスが当たり、ゆらゆらと真っ赤な幕が揺れた。
壇上に立ち、ゆっくりと目を開けると、ホールを埋め尽くす人、人、人。
舞台に一番近い席は初々しく花を胸元に飾った若者たち、そして遠くなるごとに年齢層はまばらになっていき、席が足りず立っている者もいる。
すべての人間が、自分を一目見るためにここに来ているのだと、彼女は確信していた。
そしてその責任を持って彼女は口を開く。
溢れんばかりの愛を込めて。
「皆様、はじめまして。理事長代理、そして国王リチャードの娘、レミュリアント・ジェノルド・ファムリングです。国立魔術専修学院へのご入学を、心より祝福いたします」