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短編

作者: 一星屋

 彼女はクラスメイトで、隣の席で、昔からの馴染みで。とにかく平たく言うのなら、よく知った相手である。

 幼い時分からの、セピアがかるような思い出の中に、彼女の姿は必ずあったし。彼女の思い出の中にも、僕の姿が必ずあるだろうことは、傲慢だとは思うが確実なはずだ。

 絡め合う指の温もりを知っている。握った手の平の柔らかさを知っている。長く艶やかな黒髪がはらむ芳香までも。そして彼女も、僕のそうした部分はよく知っている。

 近くて、近い。家の壁だけが互いの私事を別ち、秘密を約束してくれるような、アンドロギュノスを思わせる関係。そう、アンドロギュノス。彼女と触れ合っていた時、これこそが自分たちのあるべき姿であると感じ得た喜び。

 あれは、とうてい忘れられるものでなかったのを覚えている。


 ある日のことだ。

 いつものように家を出て彼女を待ち、そして迎えた時に。常になく力なく、陰を帯びて俯く彼女に気づいたのは。無論、俯いた顔が日差しを帯びて陰を作っていたのは確かだろう。

 けれどもそれだけではない。心もまた陰差すもの。日を浴びてなおそんな陰が見えるということは、心までもが俯いている証だった。

 何事があったのかと僕は訊ねた。彼女は答えない。

 返ってきたのはひたすらに驚き。僕が解せない顔をしたことに気づいたのだろう、それはすぐに困惑へと変じた。

 さていよいよ何があったのか?

 僕は顔を寄せて彼女に再び訊ねた。

 僅かの間口を噤み。つい、と、一通の便箋を僕に手渡してきた。

 恋文であった。

 なるほど、それで困っていたのか、とおもいきや。文面を読み進めるに穏やかではない。恋文めいた、脅迫状である。

 曰く、盗撮の憂き目に会い、これによって脅しをかけられ。ついに金銭はおろか、此度は貞操が求められたというのだ。

 それを父母に言い出せず、今初めて言ったという。

 なんと弱く、優しいことか。ご両親に心配かけまいとするとは。

 さて、僕の心は決まっていた。これなる脅迫者を徹底的にいたぶることである。

 学校につき次第、それを成すことに決めた。

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