指輪
待ち望んだその日の夜は、
雪でした。
[光輝く中で告げたカウントダウン]
そっと手を繋ぐ。周りにバレないように、貴方には寒いからと言って。
周りは似合わないと言うかもしれないけど、心の奥では好きなんだ。
現に向こうにいる子供が指差して笑ってる。
気にすんな、とでも言いたげにぎゅっと手を握られる。
こんなことじゃ離せない、だってもうすぐ不可抗力で離れちゃうから。いくら恋人繋ぎでも。
自分から絡めた指をそっと見て、その先が貴方に繋がっていることを確認して安心した。
怖かったなんて言えなかったけど、もしかしたらその不安を拭うために無理して時間を作ってくれたのかもしれない。
私は貴方が隣に居ることだけで嬉しかった。
「ねえ、何が欲しい?」
私の我が儘を、苦笑しながらも聞いてくれる貴方だから。私はライトに輝いて良く見えないショーケースを指差した。
私たちはそれに近づく。
壁の陳列棚にあるアクセサリーとは違う、高級感溢れるものばかり。
染み付いた貧乏性のため、値札を見ることは忘れない。
げっ、高い……申し訳なくなってきて、私は引っ張って陳列棚へ行く。
「んー」
悩んでいると、見慣れた貴方の困ったような笑いと共に頭を撫でられた。
「買ってあげるのに」
再びショーケースの前に立つ。私たち、似合わない。
だけどね、もしかしたら"そういう風"に見えたかもしれないと思って、嬉しかったんだ。
「あれ」
私が指差したのは、シンプルだけど如何にも女子が好きそうなスワロフスキーのついたリング。
値段は言えない。これでもショーケースの中で一番安いものを選んだのだ。
「いいよ。……すみません、あれ出して下さい」
右の薬指にはめて大きさを決める。
「じゃあこれ下さい」
「ありがとう!」
素直に嬉しくて、すぐに指にはめてまた指を絡めた。
「良かったね」
そう言って笑う横顔を見上げて覗けば、やっぱりいつもの困った表情だった。
夜までずっと振り回して遊んで、だけどきっと貴方も楽しかったと思う。
たまに零す言葉も、その日の私には何のダメージも与えなかったから。
気付いてたから、お互いに訪れる別れの時間が。
シンデレラのように、12時の鐘が鳴ったら魔法が解けてしまうような。でもそのお話と違うのは、追いかけてこないこと。
夜の綺麗な都会の明かりを、高台から見下ろす。
「やっぱり冬は寒いね」
肩を竦めて苦笑いしながら、貴方を見る。寒いのを良いことに私は近付いた。
「うん……あ」
「雪だ、どうりで寒いわけだ」
手のひらに落ちて、すぐ溶けてしまった雪の結晶。私たちの関係も、あんな風に溶けてしまうのかな。
でもこの手も、指輪も、全部外したくないよ。
「もっと近くまで行こうか」
手すりのギリギリまで。困ったような笑いじゃなくて、珍しい笑顔で手を引く。貴方はいつもそう、突き放してから優しくなる。
「うん」
この日はあとどれだけ続くのだろう。幸せな時間、シンデレラの魔法使いおばあさんが魔法をかけてくれたらしい。
だけど、次の日へのカウントダウンは確実に始まっていたんだ。
さようならも言わなかった。終わったことは目に見えていた。
「嫌いだよ」と笑って、平気そうな顔をする。
だけどね、本当は嫌いになんてなってない。心の奥底では大切な人のポジションのままだから。
だからいつか右薬指にはめた指輪を見て、私を見つけて。
(私の中で一番大切な物)
大切な人、だけど「嫌い」と笑わざるをえない。
嫌な思いをした、同じ分だけ幸せだったんだ。
だから忘れないよ。