ダイ……ヨン、ワ
さて、一度この世界について説明をしておこう。
剣と魔法の国というごくありきたりな世界観を持つこの世界の名前は、『アシアスラ』、なんだかモンハンに出てきそうな名前だ。
まあ説明するまでもなく、所謂オーソドックスな王道ファンタジーな世界で、ヨーロッパのような街並みと、エルフや獣人、ドワーフなどの亜人が普通に住みつくどこかで聞いたことあるような世界観だ。
ん? なんでそんな知識があるかって?
この世界に来た時に頭ん中に知識として流れ込んで来たんだよ、多分、あの爺さんの計らいだな。
ああ、一番重要なことを言うの忘れていた。
世界を救うために派遣された僕だが、別にこの世界は滅亡の危機なんかに陥っていない。
なら何で僕がここに派遣されたかというと、所謂チュートリアルみたいなものらしい。
まあ戦うスキルを持たない僕が単身でいきなり滅亡の危機に陥ってる世界に放り出されても困るからな。
……仲間、出来ればいいな。
や、作らないと拙いよな。
そんなことを考えながらやっと辿り着いた街に、僕は興奮しながらも入る。
やー、疲れた。色々やることはあるけど、とりあえず宿屋だな、宿屋。
もうね、体力が限界なの、足ガックガクなの、早いとこ宿捜して休まなきゃ死んじゃう。
おっと、その前に……よし、見た。
何を見たかって? 通貨だよ、通貨。
『複製』で一回でも見ればいくらでも複製できるからな、とりあえず露天のおっちゃんが持ってる銀貨を見させて貰った。
これで僕は晴れてお金持ちということだ、ぐへへ……。おっと、はしたない発言をしてしまった。自重自重。
さてと、宿屋は……あった。
見つけたのは少し大きめの宿屋だった。
『宿屋:オーバーザトップキル』とこの世界の字で銘打たれた看板を見て、軽く――いや、ドン引きしたが、宿屋は宿屋、すぐにでも休みたいし、もう僕の体力ゲージは限界である、レッドゾーンである。
ああ、ちなみに描写が省かれてたけど神様はちゃんと僕に翻訳機能を付けてくれたから言語には全く困らないよ。後付け設定なんかじゃないよ、忘れてたとかでもないんだよ、うん。
ほ、本当なんだからねっ!
「いらっしゃーい」
宿屋に入ると、野太いおっさんの声が僕を出迎えた。
ロビーなのだろう、数人の人がたむろっている。
そして受付らしき場所にさっきの声の発信源であろうおっさんが煙草を吸いながらなにやら本を読んでいた。
「? どうしたんだいお嬢ちゃん」
最早当然のように女の子扱いを受けるが、もういつものことなので特に気にせず、僕は言う。
「部屋、貸して、くださ、い……」
息切れで途切れ途切れのセリフになってしまったが、受付のおっさんは部屋の鍵らしきものを取り出し、「銀貨一枚」とだけ言った。
僕は懐に手を入れ、銀貨を複製、取り出す。
それを渡すと、おっさんは「部屋は四階の奥だ、気を付けな」とだけ言ってまた本を見だした。
四階かー、まあそれはいいんだけど昼間っからお酒飲んでたのか? 少し顔が赤いぞ?
まあ僕には関係ないか。
「ん、ありがとうございます」
礼を言い、まだ少しおぼつかない足取りで階段に向かう。
しかし、なんか視線を感じるな。やっぱブレザーは目立つか、早めにこの世界の服も買わなきゃなー。
あ、ちなみにこの世界の服装はやはりというか中世ヨーロッパみたいな感じで、ブレザーは流石に無い。
「あ、あの……」
「はい?」
突然声をかけられた。
誰だ? と思って振り返ると、そこには好青年っぽい青毛の男の子がいた。
「なんでしょう?」
何かやっちゃったか? いや、でも注意しようとしている表情じゃないな。
もしかしてナンパか? おいおい冗談じゃねーぞ。
「その……服、似合いますね。見ない服ですが……一体どういう……」
「服?」
ああ、なんだ、多分彼はファッションデザイナー志望なのだろう。
会っていきなり服のことを訊くとは……よほど勉強熱心なのだろう、でもまあ正直に答えるわけにはいかないし少し嘘を交えて説明しよう。
「えっと、これはブレザーって言ってね、僕の部族に伝わる伝統工芸で出来てるんですよ」
「へ、へぇ、そうなんだ。く、詳しく訊きたいからちょっとそこでお茶しませんか?」
うお、本当勉強熱心だなぁ、家の腐姉も見習ってほしいや。
でも、
「ごめんなさい、長旅してきたところだから疲れてるんです。また今度でいいですか?」
そう言うと、青年はあからさまにシュンとし、去って行った。
うーん、本当にごめんね、そんな頬が紅潮するほど興奮してたのにブレザーのこと詳しく教えられなくて。
今度会ったら改めて教えてあげよう、うん。
そんなこんなでタイムロスがあったが、僕は階段を上がる。
一段、二段、三段とあがったところで、僕は立ち止まる。
「ぜぇー、ぜぇー……」
体力切れだ。くそ! 爛が居てくれたらおんぶしてもらったのに!
膝に手を付き、呼吸を整える。
震える足を全力で動かし、四段目に足を踏み入れる。
「っはぁー……ぜぇ……」
こ、こんな調子で四階まで登るとか……無理ゲだろ……。
「だ、大丈夫ですか?」
お、さっきのファッションデザイナー希望の好青年じゃないか、うん、大丈夫じゃないよ。
「お……」
「お?」
「おん、ぶ……してくれませんか?」
青年は数秒フリーズした後、顔を紅潮させながらも頷いてくれた。
助かった。これで四階に辿り着ける。
見知らぬ人におんぶしてもらうのは思いのほか恥ずかしかったが、サイズが小さいブルマを履かされるよりはましだった。
いやー、あれはやばかった、羞恥心で死ねると思ったもん。
まあ何はともあれ部屋に辿り着いた。
青年にお礼を言い、別れ、部屋に入る。
おお、なかなか良い部屋じゃないか。
木目調の壁と床、ベッドも大人二人くらいなら寝れそうなほど広く、置いてある椅子や机もなかなか上等なものだ。
「結構高級な宿屋だったのかなぁ」
だとしたら銀貨の価値は結構高いのかもしれない、まだ通貨の価値とか分からないから何とも言えないけど。
「あー、シャワー浴びたい」
ベッドに寝転がりながら呟く、そういえば風呂とかってあるのかなぁ……無かったらどうしよう……。
でも今はもう眠……ぃ……。