ダイサンワァ!
書き溜め終了
思い返せば。
思い返せば僕って相当数奇な運命辿ってるんだなぁ、なんて思った。
二次元に生きる、人を『萌え』させるためだけに造られたキャラクターたちすら超越する可愛い女の子、じゃなく男の子。いやいや男の娘。
生まれてこのかた初見で男と見破られたことのない、異形の生物。
そして今回のトリップだ。もう笑うしかねえ……。
現在地、どっか森の奥。
神様、あなたは僕に迷子になった末餓死しろと言うのですか?
僕の運動神経はゼロだ。比喩ではなく、完全完璧、某眼鏡の駄目小学生ですらびっくりな運動能力を僕は持つ。ついでに筋力もない。
三歩走れば転び、腕相撲で小学一年生に負け、十分以上歩き続けると呼吸困難に陥るという徹底ぶりだ。
そんな僕を森の奥に放り込むなんて……爺さん、あんた頭おかしいのか。
(ま、しゃあないか。文句は生き残ってからたっぷり言おう。とりあえず今は――)
――生きてこの森から出ることを、考えよう。
*****
地獄で仏とはよく言ったものである。
能力と一緒に付いてきた魔力が作用してるのかしらんが、何だか僕の身体能力があがってるのだ。
具体的に言うと、五歩走っても転ばなかった。
これ以上は怖くて試して無いが、兎に角これでなんとか希望が持てたのである。
しかし、今気付いたが僕ってメイド服着てるんだよね。黒色の生地に、真っ白なリボンがトレードマークのミニスカメイド服。
森の中歩く格好じゃないね、うん。慣れすぎて忘れてたよ。
そう思い、僕は能力の一つを発動させる。
《複製》。
この能力で出来ることは主に二つ、『自己の記憶からの複製』と『解析による複製』。
詳しくは省くが、とりあえず僕の記憶に残ってるものなら有機物無機物問わずなんでも複製できるのだ。
まあとはいったものの生物は数分しか維持出来ないし、服とか武器とかだと多少質が落ちるのだ。
ま、説明はこんなもんか。
僕はなるべく動きやすい服をイメージする。
イメージ……イメー……。
あれ? おかしいな、何故かナース服やメイド服とかのあきらかにコスプレ目的の動きにくい服しか思い浮かばないぞ?
ていうかここ数年……というか生まれてこのかた男物の服を着たこと無い気が……。
「……な、泣いてなんて無いもん! ただ、ただ目にゴミが入っただけだもん!」
誰もいないけどこの頬から伝わる液体について言い訳する。
うん、虚しくなってきた。
しかたなく、爛が着てたうちの大学のブレザーをイメージする。
「……複製、開始」
ついでにチェック模様の長ズボンもイメージする。
すると、オレンジと紫の光が瞬き、いくつもの魔法陣が重なり、それはもう幻想的な光景が広がった後、僕の手には緑色のブレザーと、チェック柄の……スカートが……。
「…………おいちょっと待て」
何だこれ? 何だこれ? 新手のいじめ?
僕が女装するのは、もはや宿命とでもいいたいのか?
つーか、これ絶対あの爺さんの所為だろ、それ以外考えられねえ……。
まあ愚痴ってもしょうがない、メイド服よりはマシだから着替えるとするか。
「うんしょと、うーん、やっぱ爛のをイメージした所為かぶかぶかだなぁ……」
無いよりましか。そう考え、脱いだメイド服を固有結界内に入れる。
ススス……と溶けるようにメイド服は僕の固有結界へ入って行った。
それを確認して、また歩き出す。
え? 固有結界の詳細? ……まだ秘密ってことで。
「――お」
そんなこんなで、見えてきた。
「――街だ」
やっと、森を抜け出せた。
眼前に広がった城壁に、僕は思わず息をのむのであった。




