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LaLa7~深淵の帝國と硝子の世界~  作者: 長良 橘
第3章 碧き海は燃えているか
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ⅩⅩⅩ 機は熟していく

「潜水艦、そして偵察機・哨戒機からの情報を統合いたしますと……フランス艦隊は、確認できている限りで三グループで編成されているもようです。

まず、巡洋艦『トゥールヴィル』、ル・ファンタスク級駆逐艦四隻で編制された水雷戦隊。恐らく前衛部隊と思われます。

次に、後続している空母航空部隊。アルザス級空母『アルザス』・『ノルマンディー』に中型空母『ジョッフル』・『ベアルン』そして護衛空母『サン・ルイ』、軽空母『アローマンシュ』……六隻の空母と大型巡洋艦『エミール・ベルタン』、巡洋艦『ギッシャン』、スルクフ級駆逐艦一二隻で編成されています。

最後に、哨戒機が確認した潜水艦部隊です。詳しい数は不明ですが、フランス潜水艦隊の規模から計算するに、精々一五、六隻程度と言うのが情報局の試算であります。潜水艦の目的は、哨戒、或いは攻撃・機雷敷設などかと思われます……」



セイロン島における帝國国防海軍の最大基地、コロンボ基地では、次々と入ってくる情報を司令部が吟味していた。



「我々は此の水雷戦隊を“ターゲットA”、空母部隊を“ターゲットB”、潜水艦隊を“ターゲットC”と命名しました」


「確認するが、上陸部隊は確認できていないのだな?」


「現在、フランス揚陸部隊を運送しているであろう船団や護衛部隊は確認できておりません」


「戦艦も、か」


「はい、『ガスコーニュ』は仏本国付近の海域で確認しているとのことです」


「フム……狙いが見えんな」



司令官と幕僚が協議を進めている中、一人の幕僚が海図を指差した。



「少なくとも……敵は、此のままですとセイロン島航空軍の攻撃可能範囲内に入りますが……」


「第一二艦隊(インド洋方面艦隊)は?」


「すでに出港しております」



第一二艦隊の空母は二隻であり、如何に新鋭の超大型空母と雖も、三倍の数の空母と戦えるかと言えば微妙なところである。

だからこそ、セイロン島の基地航空軍(国防空軍)との連携が不可欠と判断された。



「インド海軍の動向は?」


「空母『ネアルコス』を主力とする第一艦隊が出撃していますが、対潜警戒任務についているようです。一方、潜水艦は積極的に共和国艦隊との接敵を図っています」



インド海軍が唯一保有している空母『ネアルコス』は、日本帝國が売却した空母であり、その名を『優鷹ゆうよう』と言った。

しかし、さらにその前身は、何と英連合王国海軍籍の空母『ユニコーン』である。


英東洋艦隊が参加艦艇の七割を撃沈され、旗艦『ウォースパイト』も失うという大打撃を受け、日英講和のきっかけとなった“セイロン島沖海戦”の末、大破漂流していた『ユニコーン』は、戦艦『榛名はるな』率いる追撃部隊に捕捉され、結果、帝國に鹵獲されることとなったのである。

以降、『優鷹』と名を変え、航空機輸送任務についていた此のフネは、終戦後、何の因果か、かつて英国の植民地であったインドに売却された。


大改装後、基準排水量17,000トンとなった『ネアルコス』は、今やインド海軍が誇る対潜空母である。

実は帝國は、大戦中に鹵獲した艦の多くを同盟国に売却していた。ある意味、其れは厄介払いも兼ねていたが、その実は同盟国の要求全てに応えられるほど、帝國も艦艇が有り余っていないという切実な懐事情があった。

その分、帝國の支援があるとはいえ、すでに自国産の艦艇が多く就役しだしているインドは、帝國にとって有難い存在であった。


しかし、『ネアルコス』はあくまで小型空母であり、インド海軍もまた、此の英国生まれの日本通空母を艦隊戦に投入するつもりはなかった。

そんなインド海軍にとって、唯一“槍”となり得る存在が、帝國の伊号潜水艦で編成された潜水艦隊であった。

太平洋を駆け回ることを想定されている伊号潜水艦は、インド洋でも十分活躍できる。戦時中に大量建造された伊号潜を譲り受けたインド海軍は、自前の経験、そして英国・ドイツの潜水艦技術を吸収した帝國より、ノウハウを学んでいた。



「すでに、『ローレンス』も出撃しています」



帝國の潜水母艦を欲したインド海軍は、日本に潜水母艦を発注した。その結果、インド海軍の手に渡ったのが7,000トン級潜水母艦『ローレンス』である。帝國製の通信設備を積み、多数の潜水艦を管制でき、当然補給も可能だった。


その時、新たな通信が入ってきた。



「インド海軍司令部より入電ッ![我ガ潜水艦、仏共和国空母ニ雷撃ヲ敢行セリ]!」


「噂をすれば、だな」



幕僚の一人の呟きを機に、室内は騒然となった。






「ふぅん、予定座標通りの位置に、仏艦隊が見えるわね」



セイロン島から発進した景雲改けいうんかい、コールサイン「漫雪そぞろゆき」の女性パイロットは、眼下に捉えた艦隊を見て微笑んだ。



「報告では、空母一隻被雷しているはずですが……」



電子員の呟きに、彼女は頷いた。因みに、電子員もまた女性である。



「そうね……あっ、見えた!」



彼女の眼下には、空母部隊から取り残される形で、大傾斜している小型空母の姿があった。駆逐艦が寄り添うように近付いている。

米国のカサブランカ級護衛空母に違いなかった。つまり、フランスに売却された『サン・ルイ』である。

空軍パイロットから見ても、沈没寸前だと分かる。


後に判明したことだが、インド海軍潜水艦隊は六隻出撃し、一隻が哨戒機により中破され、一隻が撃沈されるものの、護衛空母『サン・ルイ』撃沈という戦果をあげていた。

護衛空母が雷撃に弱いことは、次から次へと就役する米国護衛空母対策のために、潜水艦による掃討部隊を編成した日本帝國にもよく知られている。

というより、その情報がインド潜水艦隊司令部に渡っていたらしい。


確認した以上は長居は無用。フランス製ジェット機に追われるなど避けたい「漫雪」は、反転して帰路についた。






その頃、インド海軍司令部は、帝國国防海軍と共同して、共和国艦隊撃退に向け動き出していた。

といっても、インド艦隊に可能なことは対潜警戒くらいであり、潜水艦隊も少なからず被害が出た。

インド海軍第一艦隊旗艦『コルカタ』のCICでは、サンジャイ=ドラヴィタ提督らが協議を進めていた。現在、第一艦隊はインド沿岸部を移動しつつ、フランス潜水艦の阻止に躍起になっている。



「……帝國艦隊も、そろそろ動くな」


「はい」


「潜水艦一隻の損失は痛いが、此れは大きな一歩だ。インド人が欧州の軍艦を仕留めたことに、国内は沸き返るだろう」



ドラヴィタ中将は自信たっぷりに言った。


『コルカタ』は、嘗ては重巡洋艦と呼ばれていた大型艦で、米国製ノーザンプトン級五番艦『ヒューストン』であった。『ネアルコス』同様、日本帝國から売却された鹵獲艦である。

嘗ての米アジア艦隊旗艦であった此のフネは、マニラ湾封鎖の際に日本帝國の手に渡った。『厳島いつくしま』と名を変えた後、終戦を迎え、インド海軍籍となったのである。


『厳島』時代から、此のフネは通信設備を充実させるには手ごろなサイズと元アジア艦隊旗艦ということから(つまり米海軍籍時代から通信設備は整っていた)、もっぱら指揮専用艦として利用され、それは『コルカタ』と名を変えた後も同じであった。


主砲塔は完全に撤去され、高角砲や対空機銃が針鼠のように設置された。そして、指揮通信設備が大幅に拡充され、最早その姿は防空巡洋艦と評するのがふさわしいモノとなっていた。基準排水量は9,000トンである。



「兎に角、帝國の奮戦を祈るほかないな…………南中国の動きも怪しい。何時越境してくるか……」



提督の呟きに、幕僚たちは全員頷いた。






・ネアルコス級空母『ネアルコス』

 インド海軍所属の基準排水量17,000トンの小型空母。英海軍軽空母『ユニコーン』であったが、日本軍に鹵獲された後、軽空母『優鷹ゆうよう』として航空機輸送任務に従事。その後、インド海軍に売却された。現在は、哨戒機と防空戦闘機を搭載した哨戒空母として活躍している。


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