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LaLa7~深淵の帝國と硝子の世界~  作者: 長良 橘
第2章 戦争という“日常”
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ⅩⅩⅧ 巨翼たちの増援

日本帝國国防空軍戦略爆撃航空団は、当時の日本帝國の考えやスタンスに、大きく振り回されていた組織だった。


この航空団は第一〇〇一、第一〇〇二の計二個航空師団が編制されており、前者は北海道の美幌、後者は九州の熊本に基地を置いていた。

そして肝心の配備機数だが、二個航空師団合わせて、まず四六式戦略爆撃機“富嶽ふがく”六五機、“富嶽改ふがくかい”一八機。及びその改良型や改造型が一六機。そして、新鋭の五三式戦略爆撃機“斑鳩いかるが”が二七機となっていた。計、一二六機。

そして此れが、日本帝國の有する戦略爆撃機の総数である。


米合衆国空軍戦略空軍と比べると、如何にも少ない配備機数である。


勿論、それ相応の理由がある。


具体的には、戦略爆撃機の生産及び維持のコストの高さ。

そして、損失時の人命の多さ。

最後に、誘導弾の進化だった。


現在、日本帝國の興味は戦略爆撃機から誘導弾へと移り変わっていた。この分野の兵器は進化が著しく、そう遠くない将来、戦略爆撃機並みの射程を誇る誘導弾が誕生することも大いにあり得る話だった。


戦略爆撃機の場合、最低でも六、七名。多ければ一〇人以上の搭乗員が乗り込む。

仮に一〇人乗りこんだ戦略爆撃機を一〇機失えば、単純計算で一〇〇人もの搭乗員を喪失することになる。

人命尊重を第一に掲げる帝國国防軍にとって、到底容認できる話では無かった。


実際富嶽爆撃隊は対米戦・対ソ戦に投入され、大きな戦果を挙げる代わりに少なくない損害を出している。


唯でさえ生産にコストも時間もかかるというのに、その上人命の損失まで多いとなれば、敬遠されるのも無理はない。


その点誘導弾ならば、何しろ無人兵器なのだから、仮に撃墜されたとしても人的被害は出ない。


その上中華大陸への戦略爆撃は、誤爆の危険が高すぎるためこれまた安易に実行できない。

そして唯の遠方への攻撃なら、空母艦載機や双発攻撃機で十分である。

最近では空中給油のシステムが確立し、空中給油機タンカーの配備も進んだから、双発機で超長距離攻撃も不可能ではない。


双発の攻撃機ならば、搭乗員は精々が二、三人程度だ。三座の攻撃機を一〇機失っても、損失する人員は三〇人で済む。


もっとも、以前の帝國ならば欧州くんだりまで乗り込んでいったのだが、今の帝國にそれ程遠征をおこなう意味はない。それこそ、戦争にでもなれば話は別だが、仮に戦争になったとしても、敵国本土を攻撃してもそれ程旨みは無い。


もっとも、だからといって決して戦略爆撃そのものの準備を怠っているわけではない。訓練は欠かしていないし、日本帝國勢力範囲内には可能な限り戦略爆撃機用の大型滑走路が設立されている。

そのため、これら戦略爆撃航空団は、いざとなれば各地に展開できるようになっていた。


そして、それが実際に行われることになった。






セイロン島。美幌航空基地から態々飛んできたのは、第一〇〇一戦略爆撃航空師団所属の富嶽八機だった。

このうち、純粋な爆撃機は七機で、残りの一機は対空誘導弾を多数搭載した空中邀撃機“富嶽ふがくⅣ”である。


フランス共和国からの宣戦布告以来、セイロン島の防衛を強化するべきという意見が統合国軍省で持ち上がった。

その理由は、先日になって突如入ってきた情報によるものだった。

其れによると、共和国海軍は改アルザス級の空母を建造中であり、此の空母は基準排水量50,000トンの大型空母として就役する予定だという。

艦名は、一番艦が『フランドル』、二番艦が『ブルゴーニュ』。

此れが就役すれば、共和国海軍の空母は、練習空母も含めて『アルザス』・『ノルマンディー』・『フランドル』・『ブルゴーニュ』・『ジョッフル』・『ベアルン』の六隻。

此れに、米合衆国から購入したインディペンデンス級空母の『ボア・ベロー』・『ラファイエット』。

イギリスから購入したコロッサス級軽空母『アローマンシュ』。

他、合衆国から購入した護衛空母が三隻。

計、一二隻となる。


無論日本帝國も、改アルザス級空母が就役するまで、この戦争が長引くとは考えていない。其れに就役を急いだとしても、艦載機の配備や乗務員の訓練などで、戦力化まではさらに時間がかかるだろう。


しかし、此れで共和国海軍は、仮に就役中のアルザス級と『ジョッフル』・『ベアルン』の二隻をセイロンに派遣し失っても、その後すぐに新鋭空母が得られることになる。

つまり、仮に攻めてくるとすれば、出し惜しみする必要がない。

さらに、共和国に唯一残された戦艦『ガスコーニュ』が出てこない保証もない。


セイロン島に派遣されている戦力は、殆どが訓練・実験部隊だ。主力は第一二艦隊で、第四航空戦隊の『麗鶴れいかく』・『旭鶴きょくかく』を基幹としている。

展開中の航空団も新鋭機で固められており、強力な戦力なのは間違いない。


しかし、倍の数の空母と四つに組んでも優勢かどうかは、やってみなければわからない。出来ることなら、共和国との戦争がはじまった以上は増援を送りたいのが海幕と統合国軍省の本音だった。


しかし、そう簡単に艦隊は移動できない。ならば、戦略爆撃機の増援を送ろう――――という成り行きである。


対米戦争中、富嶽爆撃隊には合衆国戦艦『メイン』を撃沈したという実績がある。もっともこの戦艦は、『大和やまと』と『駿河するが』・『三河みかわ』と合衆国戦艦部隊が撃ち合っている最中に富嶽隊が殴り込み、命中弾を浴びて黒煙を吐いていた『メイン』に攻撃を敢行した結果なのだから、富嶽隊単独の戦果とは言い難いのだが、戦果は戦果である。


セイロン島には戦略航空師団も派遣されているが、この“戦略航空師団”は、あくまで戦略偵察機や空中掃射機、大型輸送機・空中給油機などをを装備した航空隊が主力で、配備されている爆撃機(五一式中型爆撃機“捷龍しょうりゅう”)は多くとも二〇機程度である。

空中掃射機は富嶽改造の四六式掃射機Ⅲ型“穂高(ほたか)”で、多数の二〇ミリ機関砲を装備した機だった。

そして、大型輸送機は連山れんざんを改造した四五式大型輸送機“明空(めいくう)”及び、ジェット化した最新輸送機“明空改めいくうかい”。

戦略偵察機もまた、連山を改造した四五式戦略偵察機“虹雲こううん”だった。


ちなみにセイロン島には防空及び攻撃任務の戦術航空師団も配備されているが、最新鋭ジェット双発攻撃機が主力であり、訓練も十分ではない。

そのため、攻撃に投入できる航空戦力は、実際は空母航空団と捷龍爆撃機・戦略爆撃機だけだった。


臨時に「五月雨さみだれ隊」と命名された富嶽隊は、セイロン島に到着するや、別の人間を迎えることになった。






インドから飛び立った連絡機に乗って、空幕からの命令書を運んできた幕僚だ。


四七式連絡機“(すばる)”は、推進プッシャ式の双発機である。短い滑走路でも離着陸できるうえに、最高時速七〇〇キロ以上の優秀機だった。



こがらし中佐ですね。空幕より派遣されました、鴨下かもしだであります」



少佐の肩章を付けた若々しい風体の男は、目の前にいる「五月雨隊」司令官の中佐を見つめた。



「俺たちをこんなところに連れて来たからには、大した仕事なんだろう?」



一方、こがらし 詠史えいし空軍中佐はぶっきらぼうに答えた。長身で精悍な顔立ちだが、何処となく荒っぽい。



「ええ。第九七戦略航空師団第六〇七航空隊所属の捷龍と共に、仏艦隊を爆撃してもらいたいのです」



あっさりと言った鴨下幕僚に、凩は珈琲を噴きそうになった。



「仏艦隊!? 向かってきているのか!」


「今はまだ、本国に張り付いているままです。しかし、英国からは近々大艦隊が出港予定だという情報が入っています。訓練部隊にしては、規模が大きすぎます」


「予想される敵戦力は?」


「戦艦『ガスコーニュ』が出るかはわかりませんが、アルザス級空母二隻と『ジョッフル』・『ベアルン』は確実です。他にも護衛空母一隻、軽空母『アローマンシュ』が出師準備を進めているとの情報が入っております。

また、護衛艦艇ですが、ド・グラース級巡洋艦『ギッシャン』以下駆逐艦一〇隻程度だと思われます」


「俺は艦隊運用には素人だが……空母六隻の護衛が駆逐艦一〇隻と巡洋艦ってのは少なくないのか?」


「確かに十分とは言えません。帝國の場合、一個航空戦隊(空母二隻)につき一個護衛戦隊(巡洋艦一隻+駆逐艦六隻)配備していますから。

共和国側も、本来なら後六隻、いや八隻欲しかったところでしょうが、共和国海軍は空母の頭数をそろえるのに必死で、護衛艦艇の整備までは間に合わなかったようです。

駆逐艦というのは万能艦でして、何も空母の護衛しかできないわけではありません。駆逐艦を失った艦隊は、銃弾はあっても銃は持たない兵士のようなものです」


「つまり、役立たずというわけか」


「駆逐艦のいない裸の艦隊など、訓練目標以下の存在です」


「……詳しいじゃないか」


「小職は空幕配属前は、戦術航空師団の幕僚を任じていました」



戦術航空師団には、対艦攻撃用の攻撃機部隊も属している。鴨下が言っているのは其れのことだろう。



「しかも、捷龍と組むとは……」


「御心配なく、捷龍は良いマシンですよ」


「ジェット爆撃機だからな、羨ましいよ」



富嶽はレシプロ爆撃機とは破格の性能であるものの、やはりジェット機と比べると見劣りする。最新戦略爆撃機の“斑鳩”はジェット機だが、帝國国防空軍はコストのかかる斑鳩の生産には消極的だった。


対して五一式中型爆撃機“捷龍しょうりゅう”は、帝國の誇る強力な中型爆撃機だ。双発攻撃機“鎧山(がいざん)”の拡大版と言っても良く、防弾性能も強力だった。



「捷龍部隊が先に攻撃を仕掛け、その後に迅雷に護衛された富嶽隊が攻撃を仕掛けます。

もっとも、先制攻撃は空母航空団が担当します。彼らの方が、対艦攻撃能力は上ですからね」



鴨下かもしだ 芳紀ほうき 空軍少佐の説明は、まだまだ終わりそうになかった。






・四七式連絡機“(すばる)

 連絡機。短い滑走路でも十分離着陸が可能で、その上高速の優秀機。優秀な電探レーダーも搭載しているため、誘導機としても使える。プッシャ式の双発発動機を搭載している。



・四五式大型輸送機“明空(めいくう)

 連山を改造した輸送機。現在帝國国防軍の主力輸送機である。



明空改めいくうかい

 明空のジェット機仕様。


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