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LaLa7~深淵の帝國と硝子の世界~  作者: 長良 橘
第2章 戦争という“日常”
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ⅩⅩⅦ  小休止は戦乱の中で

藍原あいはら 彗一すいいちを始めとする戦没艦からの脱出者が、補給支隊の補給艦に救助された頃、海戦の結果はあらかたついていた。

帝國国防海軍の補給艦は、いざとなれば救難艦としての任務も果たせるように設計されている。災害救難艦も兼ねる琵琶びわ型大型補給艦には劣るものの、中型の代々木(よよぎ)型補給艦でも、海防艦や駆逐艦からの脱出者を収容するには十分余裕があった。

漂流者の場合は、飛行艇や回転翼機隊、さらには潜水戦隊などの手により救助される。


藍原以下数百人を収容した補給艦『白金しろがね』と『神田かんだ』は、艦隊旗艦からの命令を受けて離脱した。後は、澎湖諸島に展開した敵戦力を掃討するだけとなる。

が、その攻撃には巡洋戦艦『駿河するが』・『三河みかわ』を中心とした別戦力が主となるはずだった。



「提督、帝國国防海軍の“出雲いずも”より通信です。[我ガ潜水艦伊五一八『ごうしお』、敵赤色海軍空母ニ魚雷二発発射、命中セリ]!」


「やったか!」



T部隊(台湾水上艦隊)旗艦『西寧さいねい』CICで、レン・ホルトク中将は拳を握りしめた。



「南中国軍は輸送船を改装した空母を保有していたという話は聞いていたが……日本帝國は、一体どれだけの情報を掴んでいるのだ?」


「正確な数は分かっていませんが、少なくとも二隻は。一隻が『長安ちょうあん』という艦名であることは判明しています。

しかし、あの空母は輸送船を基にしていますので、五、六隻程度なら建造できるかもしれません。もっとも、搭乗員パイロット乗務員クルーの確保は別ですが。今のところ、中国空母に航空隊が配備されたという情報は入っておりません」



レン提督が帝國国防海軍から派遣された連絡士官を見ると、連絡士官は淀みなく説明した。



「艦載機の都合がつくかも知らんからな。ソヴィエドも空母は保有していなかったし、米海軍は艦艇以外給与していなかったからな……鯨大寺げいだいじ中佐、新情報が入り次第、逐一私に回してほしい」


「無論、そのつもりです。小職はそのために此処にいるのですから」


「提督、作戦概要に基づき、このまま澎湖諸島に展開する敵に向け、突撃します」


「うむ」



割り込んできた先任幕僚の報告に、提督は大きく頷いた。



「全艦、突撃せよ!」



巡洋艦『西寧』は、元は日本帝國巡洋艦『神通じんつう』である。艦齢三〇年近い老齢艦で、実際日本帝國では練習艦扱いとなっていた(事実姉妹艦の『川内せんだい』は今も教育総隊に配備されている)が、日本も巡洋艦クラスとなると、そう簡単に外国に融通できない。

老齢艦でも給与に応じてくれた分だけ、マシと取るべきだろう。

それに武装については、レン提督は満足していた。対艦・対空誘導弾発射用の収束筒ランチャーを搭載し、対潜兵装を大幅に増やしている。無論、CICも増設されていた。基準排水量は5,200トンである。


ちなみに残る姉妹艦『那珂なか』は、前回の対米戦争で戦没しており、艦名は大淀おおよど型巡洋艦に引き継がれている。


その『西寧』率いる水雷戦隊は、進路を澎湖諸島へと向けた。目指すは敵魚雷艇の殲滅、そして陸上基地への艦砲射撃である。





それから三日後、潜水任務部隊「桶狭間おけはざま隊」の潜水艦が南中国海軍残存艦艇の掃討に入っている頃、日本帝國国防海軍は第二一警備戦隊群の損害(事実上の壊滅)と第八艦隊の被害を重要視していた。


そこで、第二一警備戦隊群を再編、というよりほぼ解体させ、乗務員を全て移動させる方向へと動いていた。

どの道、改松型駆逐艦は兎も角、くぐい型海防艦はすでに性能的限界を迎えており、次世代艦の計画もすでに始まっている。

そこで生き残った乗務員を、就役予定の永祚えいそ型海防艦乗務員に割り当てるという決定を下していた。

そして藍原は知る由もなかったが、呉に仮設された第一高速警備戦隊司令部で作成されている書類の中に、四番艦『旋風つむじかぜ』の船務士の名前欄に“藍原 彗一”の表記があった。


また、第八艦隊についても再編が行われた。増援予定だった独立第八六戦隊がそのまま組み込まれ、第七航空戦隊と第六護衛戦隊も配属された。

本来ならば、七航戦は『煌鳳こうほう』と二番艦『祚鳳そほう』で編制される予定だったが、『祚鳳』以下の煌鳳型航空母艦は未だ建造中だった。しかし、新造中型空母を遊ばせておくのも惜しい。実戦データを取るためにも、航空兵力が存在しない第八艦隊に配備されたのである。

内海うつみ提督が戦死したため、新制第八艦隊の現場司令官は七航戦司令大隅(おおすみ) ゆたか少将が任じられた。大隅提督は艦隊旗艦に『煌鳳』を指定し、次席司令官に大型多目的巡洋艦『天城あまぎ』艦長を指定した。

『天城』艦長は相変わらず無東むとう 銅鐸どうたく大佐だった。






高雄警備司令部、藍原 彗一はサリアと共に、士官室にいた。



「彗一、奏美かなみが凄く怒っていたよ」


「だろうなぁ」



乗艦を撃沈されたというのに、藍原は呑気に茶を啜っていた。



「でも、僕らがここの海軍区から離れることはないだろうからね。少なくとも、この戦争が続いている限りは」


「……また、別のフネに乗るの?」


「多分。海防艦にはもう余裕がないから違うだろうけど。新造駆逐艦ってのも面白いだろうけど、まだ凪風なぎかぜ型は建造がどんどん進められている最中だから、就役艦は一〇隻かそこらだろうしなぁ」



現在帝國国防海軍は、駆逐艦は凪風型しか建造していない。これは様々な駆逐艦を別々に建造するよりは、多少コストはかかっても、大型多目的駆逐艦である凪風型を数十隻配備した方が、量産性を確保できるし兵力運用上も楽になると考えているからだった。

凪風型は基準排水量4,000トンを超える大型艦でマルチな任務に対応できる分、建造に時間もコストもかかる。しかし、用途に応じて多種多様な駆逐艦を建造するのも色々と都合が悪い。


一方帝國国防海軍は、巡洋艦の建造も精力的に進めていた。現在は摩耶まや型航空ミサイル巡洋艦四隻と、雲仙うんぜん型ミサイル巡洋艦二隻の建造が進められている。

これら六隻が就役し次第、旧式化が進む高雄たかお型巡洋艦や『北上きたがみ』などを一線級から二線級に格下げする方針を固めていた。



「まさか、巡洋艦に乗せてくれるわけでもなさそうだし、だからと言って軍政はないだろうからなぁ」



対潜屋の藍原には、そもそも戦艦や空母に乗り込むという思考自体が存在しない。

対潜掃討は航空機は別格とすれば、巡洋艦以下の艦艇の任務となる。以前は大型巡洋艦に対潜兵装など皆無だったが、今は戦艦と空母を除くほとんどの艦艇に対潜兵装が備わっていた。

その例にもれず、摩耶型や雲仙型にも対潜兵装は備わっている。それでもやはり、対潜掃討の主役は海防艦や駆逐艦、或いは駆潜艇などの小艦艇だった。


「まぁ、どうせ津具樹つぐきと一緒に、何かにゃ乗せられるだろうさ。現に『K12号』元乗務員全員に待機命令と移動用意の命令が下されている。浜北はまきた艦長も例外じゃあない。

大かた輸送機か輸送飛行艇で内地に送られた後、新造艦に乗り込まされるんだろうさ」


「じゃあ、離れ離れになってしまうの?」


「まさか」



顔をあげ、藍原はサリアを見つめた。海軍士官にしては長い髪が、ハラリと揺れた。



「君の面倒は僕が見るようにというのが、蛍森ほたるもり鯱姫シャチヒメ”様からの直々の命令だ。

蛍森提督の艦隊は、今頃残敵掃討の任務に入っているだろう。その提督から君に関する新たな命令がされない以上は、僕は君と離れられない。君も一緒に、内地に来てもらうさ」



作戦行動中の提督に、そんな命令を(しかも自身の管轄下に無い士官相手に)下せる暇などあるはずもない。

が、サリアはそれが藍原の本音ではないことくらい知っていた。



「わかった」



褐色肌の少女は、そう言って頷いた。






雲仙うんぜん型巡洋艦『雲仙うんぜん』・『磐梯ばんだい

 基準排水量10,000トンのミサイル巡洋艦。主砲も装備せず、ヘリ甲板も装備していない、誘導弾兵装に特化した新型巡洋艦。高雄たかお型を含む旧式巡洋艦の代替艦として建造された。



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