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LaLa7~深淵の帝國と硝子の世界~  作者: 長良 橘
第1章 嵐の中の静けさ
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Ⅱ 蒼穹を駆ける恋人

今作における細かい設定は、少しずつ表記していくつもりです。

「スイ君」



名前を呼ばれ、藍原が振り向くと、銀色の帝國国防空軍将校服を着込んだ少女が立っていた。少尉の肩章をつけている。



「あれ、今飛んでるのは君じゃなかったか」


「違うよ……私は今日は非番」



雪丘奏深ゆきおかかなみは、笑顔で首を振った。それほど長くない、艶やかな黒髪が揺れる。

名家の令嬢なだけはあり、その立ち振る舞いは清楚で、様になっていた。



「どうだい、台湾の空は」


「悪くはないかな。本土から飛ばされたのは気に喰わないけど、御蔭でイイ整備員を引っこ抜けたよ。内地むこうと比べて、ここの航空基地は本格的とは言い難いから」



雪丘は後方――基地方面――を指差しながら、藍原に近付いて手を取った。



「それに、スイ君も来てくれたからね」



恋人と離れるのは大変だし、と雪丘は呟いて、藍原を見つめる。

元華族の家を飛び出し、中国で紅軍(旧共産党軍・現中華人民共和国(南中))機を叩き落していた少女は、藍原をひたすら見つめていた。


いつものことなので、藍原は気にせずに言葉を紡ぐ。



「君はまだいいさ。僕なんて、アレ(・・)だぜ?」



藍原はそう言って、停泊船のうちの一隻を見つめた。


帝國国防海軍色に塗装された小型艦が、静かに錨を下している。



「あぁ、あれが手紙に書いてた……え~と、『K12号』だっけ?」






旧帝國海軍には、“海上護衛総隊”という、海上航路シーレーン防衛専門の部隊が存在していた。

それは、戦後は帝國国防海軍の設立と同時に海軍組織から外され、“海上治安維持機構”通称「SPO」に再編された。

合衆国の沿岸警備艦隊コーストガードと同じようなもので、警備任務に漁業管理・海難事故防止・救助、密漁・不法入国取り締まりなどが加わった組織である。

あくまでも准軍組織であり、統合国軍省ではなく、運輸省の管轄下にある。


しかし、国防海軍に警備任務の部隊が無いわけではなく、対潜哨戒が主任務の警備戦隊群が数十個単位で編制・運用されている。

『K12号』を含むくぐい型海防艦は、そんな警備戦隊群、そしてSPO向けに量産されている海防艦だった。


基準排水量920トン。対潜兵装こそ充実しているが、主砲を除く対艦・対地兵装は一切搭載されていない。装備は爆雷投射機や対潜短魚雷発射管、対空・対不審船両用の機銃と、対空誘導弾発射管が一基。あとは、高角砲も兼ねる88ミリ砲が一基のみ。

レーダーやソナーは一応完備されているが、コストダウンのため、駆逐艦に搭載されている新型ではない。

数だけは多く、200隻近くが就役している。


ちなみに鵠型海防艦は、SPOではおおなみ型巡視船と呼ばれている。


そんな、国防艦隊の巡洋艦や駆逐艦と比べれば、どうしても格落ちするフネを、雪丘は興味深げに見つめていた。






海上交通路シーレーン確保は皇国の骨子さ。途絶えれば帝國は滅ぶ。だからといって哨戒任務では、大型空母や巡洋艦なんて邪魔になるだけさ。まつ型や改松かいまつ型駆逐艦がベスト。それはわかってるんだけど、やっぱりなぁ……せめて旧式の陽炎かげろう型でもいいから、警備戦隊群ウチに回してくれないかなぁ……改装すれば、結構使える対潜艦になると思うんだけどなぁ。

君の迅雷はどうだい?」


「いいマシンだよ。まぁ、機動性にちょっと不満が残るけどね……」



軽くため息をつき、雪丘は、上空を乱舞している航空機を見上げた。



四九式戦闘攻撃機“迅雷じんらい

推進プッシャ式六翅プロペラに垂直尾翼。前進翼が特徴の、双胴式双発戦闘攻撃機である。


現在、先進国の航空機はジェット化が進んでいるが、ジェット・エンジンは航続距離が短くなり、整備も難しくなる。まだまだ欠点も多かった。

そのためプロペラ機、特にターボ・プロップ機は、未だに先進国から消えていない。


この迅雷は、その長大な航続距離と充実した防弾設備・軽爆並みの爆弾搭載量が武器である。対空誘導弾や対艦(対地)誘導弾も搭載できるので、使い勝手の良い機体なのだ。


哨戒任務や偵察任務にも投入され、長距離護衛にも駆り出されることが多い。






国防空軍には、“火龍かりゅう”や、最新鋭の“震穹しんきゅう”などのジェット戦闘機、果てには“斑鳩いかるが”戦略爆撃機などのジェット爆撃機も配備されているが、プロペラ機が消えたわけではないのだ。

一式戦闘機“はやぶさ”Ⅲや四式戦闘機“疾風はやて”シリーズは、練習機として未だ現役であるし、他国に輸出され、生産され続けている。


そして今でも、帝國の荒鷲として活躍していた。






(くぐい)型海防艦

 基準排水量920トンの量産型海防艦(沿岸警備艦)。海上治安維持機構(SPO)の主力巡視船にもなっている。強力な対潜兵装を保有している。また、SPOの所属艦はおおなみ型と呼ばれる。




・四九式戦闘攻撃機“迅雷(じんらい)

 プッシャ式六翅プロペラ搭載の双胴型双発戦闘攻撃機。ターボ・プロップ機である。長大な航続距離を生かし、爆撃機や輸送機の護衛任務などをこなす他、軽爆や哨戒機としての任務もこなせる万能機。前進翼で、垂直尾翼を採用している。

*映画『スカイ・クロラ』の染赤ソメアカのような機体です。


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