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LaLa7~深淵の帝國と硝子の世界~  作者: 長良 橘
第2章 戦争という“日常”
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ⅩⅩⅤ 荒らぶる暴風の疾走

T部隊と中華人民共和国(南中国)赤色艦隊が、航空戦若しくは水上戦に突入している頃、台湾沖を、一隻の軍艦が航行していた。


その軍艦には旭日旗が翩翻へんぽんと翻っており、波をかき分けて進んでいた。


特型戦闘艦『永祚えいそ』。


超高速の、新型海防艦であった。


空母戦力や潜水艦戦力の見直しを図った日本帝國国防海軍だったが、次にその対象となったのは、沿岸警備戦力であった。


有体に言うと、中華大陸やシベリア、果てはアリューシャンからもやってくる、不法漁船や密輸船、さらに侵入してくる潜水艦への対処である。


本来、これらの対処は帝國国防海軍から、海上治安維持機構(SPO)へと管轄が移っていた。

が、やはり准軍組織では、非常事態には動きづらい。様々な制約があるし、武装も本格的な軍艦艇より心許ない。


周辺国に“准軍組織”と納得してもらうためには、意図的にグレードダウンさせた兵器を搭載するしかない。実際SPO艦艇や哨戒機のレーダーやソナーは、あえて旧式なものを積まれていた。

勿論、予算上の制約もあるが。


勿論、たかが密漁船くらいならば十分追い返せるだろうが、反日思想を掲げる武装集団(今風に言う“テロリスト”)や、本格的な訓練を受けた傭兵・海上ゲリラ、さらには新鋭潜水艦などが相手では、SPOでは手に余る。

やはり、国境警備は軍隊が行うべきだ。


ところが、此処で問題が生じた。


警備戦隊群の展開性の悪さである。


もともと警備戦隊群には、精々が駆逐艦くらいしか配属されていない。あとは海防艦か、改装の回転翼機母艦くらいだ。

その駆逐艦も、基準排水量2,000トンにも満たないまつ型駆逐艦か、それより少し大型の改松かいまつ型駆逐艦くらいだ。海防艦に至っては、大多数を占めるくぐい型で1,000トンにも満たない。


つまり、外洋航行能力に欠ける。おまけに速力も、遅くはないが高速とも言い難い。

大量建造されたので、数だけはたっぷりとあるが、それで補おうにも限度はある。


おまけに近年の潜水艦は、帝國のそれも含め、高速化が進んでいる。水中でも25ノット以上が当然となり、27ノット前後がやっとの海防艦では、余裕があるとはいえない。


が、他の大型駆逐艦は空母部隊の護衛や船団護衛などの任務に割り当てられており、余剰は無いし、国境警備に使うには、却ってオーバースペックだ。


つまり、何時までも大量生産された“粗悪品”に頼るわけにもいかない。このままでは、主力部隊と警備部隊の艦艇のスペック差が、どんどん広がってしまう。

当たり前と言えば当たり前だが、帝國国防軍は、主力部隊の整備や更新に、より積極的だった。


しかし、艦隊のスペックに差が出過ぎることは、兵力運用上好ましくはない。

そこで、主力部隊と警備部隊の差を埋めるというのが課題となった。


が、予算の都合もある。

要は、両者の中間的な性能の艦艇を配備することとなったのだ。


今風に言えば、艦隊型駆逐艦よりは小さいが、沿岸警備艦艇コルベットよりは大きい――大型護衛艦フリゲートとも言える艦である。


その第一世代として、建造が認められたのが、特型戦闘艦永祚型だったのである。





此の艦を建造するにあたり、雛型となったのは、何と丙型へいがた駆逐艦――つまり、島風しまかぜ型駆逐艦だった。


島風型は、帝國最後の重雷装艦であった。つまり、魚雷を大量装備した艦である。

此の艦は、最高40ノットと高速で、猛スピードで敵に肉薄、魚雷を叩き込む艦というのがコンセプトだった。

しかし、結局は防空駆逐艦(乙型駆逐艦)や松型などの護衛駆逐艦(丁型駆逐艦)の建造が優先され、僅か六隻で建造中止となった。


勿論帝國国防海軍は、今更時代錯誤な重雷装艦を、それも警備戦隊群に配備しようとは考えなかった。

彼らが島風型に目を付けた理由は、その高速性であった。


40ノットというのは高速すぎるが、35ノットもあれば、敵が最新のミサイル艇や魚雷艇を引っ張り出しても十分追いつけるし、広大な海上国境線をカヴァーできる。


四隻一組で高速警備隊を編制すれば、鈍足の駆逐艦や海防艦では不得手な任務にも投入できる。


あくまで主力は鈍足の海防艦でも良い。いざという時のための遊撃戦力として、一つの方面(海軍区)に一個戦隊でもあれば十分と割り切れば、何も何十隻も建造する必要はない。

一ダース(一二隻)もあれば、当面は十分だろう。

ならば、多少は一隻一隻の単価コストが高くなっても、十分目を瞑れる。


要は、島風型を多少スペックダウンしたフネが最適。そう判断されたのだ。


基準排水量は、島風型より300トン少ない2,500トン。

外見は島風型そっくりだが、後部にヘリ甲板を備えている。

機関も少しスペックダウンしたものを搭載し、最高速力は38ノットに落ち着いた。


兵装は、誘導弾を中心に搭載され、海防艦同様ソナーや対潜兵装も数多く積んでいる。主砲は、最新の12.7センチ単装両用砲が選ばれた。


永祚型は一二隻就役予定で、四隻一組で高速警備戦隊を編制する予定だった。

なお帝國国防海軍は、永祚型が就役し次第、改良型の建造を開始する予定だった。


が、現在は一番艦『永祚』、二番艦『野分のわき』、三番艦『疾風はやて』のみが就役、四番艦『旋風つむじかぜ』、五番艦『雷鳴らいめい』、六番艦『鎌風かまかぜ』が艤装中、残る六隻は建造・起工中となっており、高速警備戦隊は一個も編制されていない。


そのため訓練とテストも兼ねて、『永祚』は、たまたま“欠番”(喪失艦)が出た第二〇五警備戦隊に臨時配属されたのだ。


が、新造艦故に故障が頻発し、台湾で整備を行っていた。

それが復旧。『永祚』は一足遅く、澎湖諸島に向けて航行を開始した。


なお、『永祚』より一足早く、T部隊の後を第一三補給隊が先発していた。

よって、『永祚』は全速力で向かったとしても、即座に補給を受ける事が出来るのだ。





しかし、『永祚』にも欠点はあった。



「うぉうぇ……」



口元を押さえながら、一人の青年が『永祚』の廊下をフラフラと歩いていた。


それを、周囲の水兵が心配げに見つめている。

もっとも、彼らの顔色もまた、酷く悪かったのだが。



誘導弾士鉤北(かぎきた) 南兎なんとは、心の底から、今回の異動を呪っていた。


同期の藍原あいはら 彗一すいいち等と同じく、鵠型海防艦に配属されていた彼だったが、つい一週間前に、臨時に佐世鎮(佐世保させぼ鎮守府)に属していたこの『永祚』に配置替えとなったのだ。


当時の鉤北少尉は、小躍りする程歓喜した。何しろ、最新鋭の海防艦に配属されたのだ。

1,000トンにも満たない『K118号』から、2,500トンの『永祚』に配属替え。彼が喜ぶのも無理はない。


が、彼は知らなかったのだ。基準排水量2,500トンのフネが、38ノットで突っ走った場合、どれ程の揺れが起こるのかを。

彼が駆逐艦乗りだったならば、多少の揺れには慣れていただろう。が、あくまで近海での作戦が主である海防艦には、最初から凌波りょうは性(高速航行時や時化シケの時でも安定できる性能)など考慮されていない。勿論、荒波の日本海でも作戦が可能な設計にはなっているが、つい最近まで穏やかな太平洋を管轄している横鎮(横須賀よこすか鎮守府)所属の第二警備戦隊群に所属していた鉤北には、荒波に揉まれるという経験が皆無だった。


それは、彼以外の乗務員にも言えた。

寧ろ、最新のシステムを多数搭載しているという理由で、新人や若手が意図的に集められていた。


流石に艦長を始めとした幹部士官には、駆逐艦乗りのベテランが拝命されていたが、中級士官や水兵には、若手や新任が多数いたのである。



「くそ、これじゃあ赤共(赤色海軍)と組む前に、海にダウンさせられてしまう」



長身で温和な顔つきが特徴の士官は、珍しく悪態をつきながら、何とか任務をこなすのだった。






・永祚型特型戦闘艦『永祚えいそ』・『野分のわき』・『疾風はやて』・『旋風つむじかぜ』・『雷鳴らいめい』・『鎌風かまかぜ』・『稲妻いなずま』・『いかずち』・『あらし』・『竜巻たつまき』・『吹雪ふぶき』・『波浪はろう

基準排水量2,500トンの超高速海防艦。島風型駆逐艦のスケールダウンともいえる艦で、最高速力38ノット、後部にヘリ甲板を備える。誘導弾も多数搭載しており、対艦・対空・対潜・哨戒などの任務をマルチにこなせる次世代型海防艦。現在は三隻のみが就役しており、残る九隻も続々と就役する予定。



改永祚かいえいそ型特型戦闘艦

 現在計画段階で、八隻が就役予定。永祚型と合わせて四隻の戦隊を五個編制し、一海軍区に一個戦隊ずつ配備される計画(ケ号計画)が立案されている。なお、一番艦の予定艦名は『大鷹おおたか』。

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