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LaLa7~深淵の帝國と硝子の世界~  作者: 長良 橘
第1章 嵐の中の静けさ
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Ⅰ 鳴り響く海嘯

駿河するが型戦艦は、旧帝國海軍の大転換の象徴ともいえた。


つまり、“航空主兵論”への転換と、所謂“防空屋”の誕生だった。


日本海海戦で辛勝し、戦艦の攻撃力に疑問を抱いていた旧帝國海軍は、新兵器として航空機と潜水艦に目を付けた。

戦艦の砲撃力は確かに有効だ。が、相手も戦艦だった場合、猛烈な撃ち合いになれば双方ともに被害が出る。しかし、生産力に自信が持てない日本にとって、戦艦一隻の沈没・大破でも、無視できる損害ではなかった。

おまけに戦艦の主砲の命中率は、地理(単純な意味だけではなく両軍艦隊の陣形や、敵艦隊との相対距離など)や天候によって大きく左右される。そして見かけが派手な割には、それほど威力は高くない。というより、敵戦艦に有効打を与えるには、鬼のように撃ちまくる必要がある(と、当時は考えられた)。


そのため日本、というより旧帝國海軍は、戦艦の主砲に代わる新兵器を模索し始めた。


まず、注目されたのが、日本海海戦でも追撃戦にて戦果をあげた潜水艦(及び魚雷)。そして、WWⅠ(第一次世界大戦)で頭角を現し始めた航空機であった。


日本全体が航空主兵論に傾くまでには、それほど時間はかからなかった。特に、帝國が米合衆国を仮想敵国と定めてからは、航空機のミソである、長大な太平洋を飛びまわれる機動性と、迅速な展開性が注目され始めた。


日露戦争の戦訓により、国力の増強と人命尊重論を掲げ始めた日本帝國は、航空機と潜水艦の整備にしのぎを削るようになる。






しかし、戦艦が完全に無用となることはなかった。強力な砲台のプラットフォームとしての役割や、何より強靭な防御力を駆使した“楯”としての役割と、乗務員に“安心感”を与える役割は捨てがたかった。

しかし、“航空屋”の催促(空母の大量建造と、空母艦隊及び航空団の編成・基地航空軍の戦力化)は日に日に高まり、潜水艦の整備もしなくてはならない。

そして当然、護衛艦艇や水雷戦隊、補給艦隊、修理艦・工作艦の整備も同時並行で行わなければならなかった。


ところが戦艦は、建造するのに時間がかかるうえに資金も資材も大量に必要だ。船渠ドッグを長期間にわたり占拠するので、言い方は悪いが、邪魔ともいえた。


さらに戦争に備えた旧式戦艦の改装案(航空戦艦や高速戦艦、果ては空母への改装案まであった)は、



「そんな資材と金があるんだったら、旧式戦艦の改装に使うよりも、一隻でも多くの空母や防空艦・潜水艦を建造すべし」



という正論に、次々と叩きつぶされた。


しかし、戦艦も防空艦として役に立つし、艦隊決戦が起こらないとも限らない。


旧式戦艦(伊勢いせ型・扶桑ふそう型)がロートル化を理由に次々と除籍される中(金剛こんごう型は大改装され延命した)、日本帝國海軍は、米艦隊相手に挑める超大型戦艦『大和やまと』(残る姉妹艦二隻は空母に設計変更された)の建艦と同時に、空母護衛用の巡洋戦艦の建造に着手した。


それが、駿河型戦艦『駿河するが』・『三河みかわ』の二隻である。






基準排水量34,000トンのスマートな船体に、最高33ノットの健脚。そし40センチ50口径連装砲を三基備えた強力艦で、砲力は長門ながと型に勝るとも劣らない。当然、合衆国海軍の新鋭戦艦にも引けを取らない。


1958年現在では、長門型・金剛型が戦没したため、帝國に残された戦艦は三隻だけだ。そして帝國は、次世代戦艦の建造には未だに着手していない。誘導弾ミサイルが登場し、戦艦の価値の低下に拍車がかかったためである。


帝國海軍が、帝國国防海軍に再編された今でも、歴戦の戦艦として、世界中から愛された戦艦だった。






『駿河』・『三河』から成る第二遊撃戦隊を中心に、様々な戦隊が徐々に集合していった。やがてそれは、総勢20隻以上の艦隊を成していく。

戦艦だけでなく、空母まで加えた強力な水上艦隊は、ゆっくりと目的地まで向かって進んでいった。


それより遥か先に、一足早く目的地まで到着している艦隊は、彼らを待ち望んでいた。その度合いは人それぞれだったが――。





台湾民主連邦。

戦後、日本帝國から独立した新興国の港で、一人の青年が懐中時計を見つめていた。


上空を、特異な形をした双発航空機が飛び交っている中、青年――藍原あいはら彗一すいいちは懐中時計から目を離し、目の前に広がる海に目を向けた。


多数のフネ、それも旭日旗を掲げた軍艦が、静かに停泊している。が、いずれも小型艦艇で、排水量が1,000トンにも満たないフネも、少なからず見受けられた。


ちなみに、日本帝國艦艇からは、すでに“菊の御紋”は消えていた。

人命尊重を重視する帝國国防海軍は、沈没時における艦乗務員クルー(特に艦長職や指揮官)の退艦拒否・・・・を、菊の御紋が原因だと考えたからだ。



「消耗品の兵器に、菊の御紋などもったいない」



という合理的ドライな意見が、多勢を占める様になったというところも大きかった。



「……そろそろかな」



藍原は小さく呟きながら、再び蒼穹を見つめた。


相変わらず、日の丸を煌かせた戦闘機が、模擬空戦に明け暮れていた。








・駿河型巡洋戦艦『駿河(するが)』・『三河(みかわ)

 基準排水量34,000トンの巡洋戦艦。『金剛』型戦艦の代替艦として建造された。大和型と同じく、空母の護衛を最優先で考えているため、最大33ノットという健脚。40センチ50口径連装砲を三基備えている。

なお、『大和』・『駿河』・『三河』の就役に伴い、伊勢型・扶桑型戦艦は除籍・解体され、長門型・金剛型戦艦は戦没した。よって現在、帝國国防海軍が保有する戦艦は、『大和』・『駿河』・『三河』の三隻のみである。


*駿河型巡洋戦艦に国名が付けられているのは、大和型の二番艦・三番艦と誤認させるため。というより、駿河型は大和型を設計変更した巡洋戦艦だから。




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