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LaLa7~深淵の帝國と硝子の世界~  作者: 長良 橘
第1章 嵐の中の静けさ Ⅱ
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ⅩⅢ 黎明には不幸のみ

*史実に登場する性能が全く同じ兵器類については紹介しません。

台湾に配備された航空管制機出雲(いずも)コールサイン「独眼竜」が偵察結果を各基地に送信していた頃、中華連邦(東中国)に派遣されている出雲もまた多忙な任務に就いていた。



[こちら「豪雪ごうせつ11」……国籍不明機を視認……“黄色い星”を視認、南中国(中華人民共和国)天軍(空軍)だと思われる……機種はカ―チスP-40“ウォーホーク”だ、おそらくE型だと思われる……一二機ッ]


「こちら航空管制機「厳島いつくしま」。諒解、直ちにホット・アラートにて待機中の機を向かわせる」



東中国浙江(せっこう)省の在中帝國空・海軍合同航空基地は、南中国福建省との国境線よりわずか北に寄ったところにある。さらに、帝國国防陸軍駐屯地とも接している(帝國国防陸軍は“基地”を“駐屯地”と称している)。

つまり、最前線基地である。

そのためか、そこから連日発進している早期警戒機や哨戒機より通報を受ければ、即座に邀撃隊が出撃できる体制が整っている。


そのため、近隣の基地との連携を密にするために出雲二番機「厳島」が派遣されていた。


これらの基地は本格的な大規模基地ではなく、寧ろ中規模の急造基地(野戦基地)の趣が強い。

それは敵が進行してきた場合、まず護りきれないのと、大型爆撃機(戦略爆撃機)や新鋭噴式(ジェット)機を配備する必要が無いためだ。


何も最前線に爆撃機用大型滑走路を整備する必要などない。後方から悠々と出撃できる。

それに、南中国天軍の航空機は数が多いが旧式機が多勢を占めていた。

米軍の給与機か、ソヴィエドの亡霊が精々である。そして米軍も、わざわざ中華大陸に新鋭機を輸出するわけが無く、戦闘機はP-40“ウォーホーク”、爆撃機はB-26“マローダー”かB-25“ミッチェル”が精々である。そしてソヴィエドもジェット機など碌に開発できていない。

このような航空機が相手では、寧ろジェット機は扱いづらい。速力差がありすぎるのだ。


そのため、ここ第三野戦航空基地に展開中の第一八八航空団第一九七戦闘飛行隊と第一五一戦闘飛行隊に配備されている機体は四八式戦闘攻撃機“迅雷じんらい”か、四式戦闘機“疾風はやて”Ⅲ型で、後は夜間戦闘機“黒燕こくえん”(P-61“ブラックウィドー”をフルコピーした機)が数機配備されているだけだった。


ただし、南中国は南部に大規模な工業施設を立ち上げており、これら航空機群の大増産体制を確立していた。そして南中国は人口も多い。

つまり、数だけはやたらと多い。


南中国赤色天軍の機体は、“掠奪者(マローダー)”を除けば堅実な機体で信頼性も高い。おまけに操縦性も良く、素人でも操縦は容易い。






それにしても、南中国の狼藉には目に余る、と「厳島」統制官はため息をつきたい気分になった。

敵対しているとはいえ、他国の国境線付近に一二機もの戦闘機を繰り出してくるとは常識の範疇を越えていた。


最近は重砲による砲撃まで行われるし、帝國軍や中華連合軍(北中国・東中国合同軍)の我慢ストレスもそろそろ限界だった。


しかも、連中は決まって夜間に行動を起こす。

つまり、兵や将校達は睡眠中に叩き起こされることも珍しくはなかった。軍人に碌な睡眠時間が与えられないのは激戦区ならそれほど珍しい事態ではないが、平時の国境線でこれは行き過ぎている。



無論、大抵の軍人は挑発に乗るほど精神がヤワではないが、流石に堪える。


なんとかしてくれと、鬼頭崎きとうざき統制官は心中で頭を抱えたのだった。






「敵武装船、こちらに接近してきます……米国の哨戒魚雷艇(PT)だと思われます」



電測員の報告を聞き、藍原彗一あいはらすいいちは小さく頷いた。



第二一警備戦隊群に向かっていきたのは六隻のPTボートだった。


PTは合衆国製の魚雷艇で、基準排水量50トン、魚雷発射管を四基備え、最大速力41ノットの高速艇だった。



戦闘中枢(CIC)では五弓ごゆみ船務長がレーダースコープを睨みつけ、敵を示す赤色の光点を睨みつけている。いつもは眠そうな船務長の目にも、強い眼光が宿っていた。



[ボ式(ボフォース製)40ミリ機銃射ち方用意]


[高角砲、射ち方始めッ]


[僚艦『K18号』攻撃開始しましたー]


[水柱ッ小さい!魚雷を発射した模様――]



ガクン、と艦が揺れた。回避運動を始めたのだ。



「くそっ、連中、四水戦には手を出さなかったくせに、こっちには出して来たのか」



藍原は舌打ちしてスコープを睨む。

嘗められている証拠である。いや、海防艦の武装が高が知れている事を知っていたのか。



――いや、見ればわかるか。



PTと比べればまだ巨体だが、元々海防艦の速力は速いとは言えないし、外洋航行能力も低い。そのため澎湖諸島周辺への出撃も、それほど長居が出来るわけではない。補給隊が控えていれば話は別だが。



[『K18号』、被雷ッ]



「何だと」



その報告に、藍原は思わず顔を顰めた。が、すぐに持ち直した。



[『K18号』より電文ッ[敵魚雷不発、ワレ損害ナシ]」


「イイ感じだ、敵の整備能力の低さが救ったな」



魚雷とは精密兵器であり、数日でも放置すれば即座に使い物にならなくなる。常にジャイロを調整するなり、信管をチェックするなりしなくてはならない。人間に入浴が不可欠なのと同じように、魚雷には調整や整備が必須だった。しかし、常に魚雷を最良の状態で保つためには、熟練の専門技師が必要だ。


敵“海賊”が澎湖諸島の島のいずれかから出撃したとしても、そこに本格的な魚雷蔽があるとは考え難い。


中華人民共和国赤色海軍が全面協力していたとしても、赤色海軍の魚雷配備態勢は御世辞にも整っているとは言えないし、そもそも赤色海軍は沿岸・川河を航行する砲艦が主力である。数少ない外洋航行艦艇も、米国がタダ同然で給与したオマハ級軽巡洋艦かクレムソン級駆逐艦が精々で、艦自体が旧式化が著しい上に兵装も確保されていない。もっというと、補給分がほとんどない。



しかし、無傷とはいかなかった。



「『K05号』が被雷しましたッ」



「被害は?」


「光点が点滅を繰り返しています、危険かと」



「艦橋にいる蝉林せみばやし通信士に連絡せよ、黒煙は見えるか?」


「わかりました」



藍原はそう言って、通信機を取り上げた。



[艦橋]


「船務士だ。『K05号』の被害を視認できるか?」


[……確認した、黒煙が出来る、位置もジャストだ]


「諒解した」



「流石に二発目は不発とはいかなかったか」



五弓船務長が軽く肩を落とす。



「藍原船務士、『K05号』僚艦『K45号』より電文です。[右舷浸水甚ダシ、復旧ノ見込ミナシ。退艦命令ヲ発ス]以上です」


「やられたか。すぐにでも救助に向かうべきだが……敵は――」


[火柱ッ!命中しました、PT艇が沈みますッ]


[敵PT艇、接近します――]


[ボ式40ミリ機銃、射ち方始め――]


[敵、発砲ッ]



カンカンカン、と金属が叩くような音がする。

PT艇も機銃を装備しているようだ。



[機銃員ガンナーが負傷しました、交代要員を――]



海防艦搭載のボ式40ミリ機銃はシールドも搭載されているはずだが、完全に護りきることは難しい。



[高角砲、目標四番艦に命中――]


[第五目標に切り替えます]



レーダー管制の高角砲の命中率は凄まじい。何しろ元々は、対空兵器なのが高角砲である。重爆も撃墜できる射程と命中精度・破壊力を併せ持つ。


流石に駆逐艦二隻と海防艦四隻――ヘリ空母と護衛は後方に退避していた――と魚雷艇六隻の勝負は見えていた。

が、あっという間に敵は数を減らしたものの、『K05号』が沈没寸前となっている。



「敵撃破完了……増援、ありません」


[戦闘終了]



艦長による戦闘終了命令が艦内に放送アナウンスされるまで、さほど時間はかからなかった。






・大淀型巡洋艦『大淀(おおよど)』・『仁淀(によど)』・『中淀(なかよど)』・『高瀬(たかせ)』・『吉野(よしの)』・『神戸(かんど)』・『淀川(よどがわ)』・『隅田(すみだ)』・『養老(ようろう)』・『龍田(たつた)』・『天龍(てんりゅう)』・『那珂なか

 基準排水量8,200トンの巡洋艦。潜水戦隊旗艦として運用されることを前提としている。しかし、いざとなれば防空指揮も可能なように設計されている。なお、『大淀』は通信設備をさらに充実させており、国防艦隊旗艦となっている。





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