04.喪ったもの:イレイside
目覚めて、どうしようもない喪失感に胸を焦がした。
「ヨゥラ?」
返事はない。
声が聞こえた気がするのだが、彼は夢の深いところに囚われているようで、彼女を求めて手を伸ばしても届かなかった。
ずぶずぶと自分の身が沈んで行き、暗闇に溺れたところで目が覚めたのだ。
「ヨゥラ?」
ふと、目を落とすとスーツのジャケットに光る粉のようなものが付着しているのが見えた。
手に取ろうとすると、ぼう、っと光って色をかえすっと溶けるようにかき消える。
「まさか・・・!」
がばりと身を起こした。
見上げれば、日は高いところに。相変わらずどんよりした空に、ぽっかりと白い日が浮かんでいた。
昨日、ヨゥラの声でおきた時間より、多分明らかに遅い――もし体内時計と日の高さが正確に時を刻んでいるのであれば、だが。
時をはかる指標が、体内時計と、日の高さだけのこの世界では、時間という概念が曖昧だ。
「行ってしまったのか・・・。」
おそらくは。
きっと時間ぎりぎりまで粘って、反応のない自分に諦めて帰ってしまったのだ。
この触れようとすると次々消えていく、光の粉はその名残。
あきれただろうか?
必死であちらの世界に自分を戻そうと奔走しているだろう彼女のことを思うと胸が痛んだ。
彼女が呼ぶならば、例えどんな場所にいても応えたいと願っていたのに。
自分は、ずっと眠りの海に沈んでいたのだ。
また半年。彼が姿を消したと言われる時間から、一年がたっているはずだった。
次に会えるのは、彼にとっては明日、彼女にとっては一年半後のことだ。
昨日は彼女が11になったといっていた。
順当に行けば、次は彼女が12になったときか。
12歳。
そろそろ体も成長し、大人の気配を見せ始める頃。
どれだけ大きくなっただろう。美しくなっただろう。
――けれども、その彼女を見ることはかなわない。
依然として、イレイは彼女の手が届かないところにいるのだから。
彼が12歳の少女を見つめる機会は、ここにいる限り永遠に喪われたまま。
大きく、息を吐き出した。
諦念と、わずかに絶望をこめて。