03.醜い心:ヨゥラside
ひかりがちらちらと点滅する。
――イレイは目覚めない・・・・。
『おじ様、おじ様・・・・』
反応がないイレイに痺れを切らし、ふわふわと光は彼の顔の周りと飛び回る。
暫く待っても呼びかけに応えないイレイを見て取ると、光――ヨゥラは諦めて空で留まった。
『おじ様・・・』
また半年、経ってしまった。
彼が、この世界に堕ちてから一年が過ぎている。
あの病の【原因】についてはほぼ特定されつつあった。
王の守護せし玉を持ち出したものがいるのだ。
すぐに犯人は捕らえたものの――無論、黒幕は別にいるにきまっている――既に、目的は達していたらしい。
宮では情報統制が敷かれ、そういった騒ぎについては伏せられていたが・・・やがて、あの原因不明の奇病が流行りだし、原因についての特定を迫られた時、漸く漏らしたのがその一連の騒ぎについて。
病、に症状が酷似していたため、「奇病」と呼ばれていたそれは、巨大な呪いだった。
「奇病」に冒されたものは、贄なのだ。
その大掛かりな呪いは、勿論王を狙ったもので・・・一年をかけての秘密裏の捜索の結果、一人の若者によってその呪い士は討たれたという。
都では勇者扱いでもてはやされていた。
ヨゥラの旧友も新しい「勇者」に夢中だったが、ヨゥラは黙って微笑んだだけだった。
「病」の原因も、それがもはや起こらない事態となったことも、そんなことはどうでもいいのだ。
ヨゥラが望んでいるのは、既に眠りにつき姿を消した――イレイの帰還だけだ。
事情を知るものたちは、ヨゥラに諦めろという。その度にヨゥラは頑固に首を振った。
普段優しげで人当たりのいい彼女にしては珍しい所作に、苦笑しつつも仲のいい友人はそれならばと好きにさせてくれた。
「おじ様・・・・。」
燐光が散った。
光は急速に弱まっていく。
――時間だ。
「また、半年後・・・」
半年、なんて長い。
彼女にとっての半年は、イレイにとってはただの一日。
年の差が、詰まっていく・・・・。
ああ、きっとこれはヨゥラが願ったからいけないのだ。
早くイレイに会いたいと願う一方で、19離れていた大きな差が、徐々に詰まっていくことに、彼女は喜びをどこかで抱いている。
なんと、あさましい。
「おじ様、わたくしの醜い心をお許しくださいませ。けれど・・・わたくしの身にかえてでも、おじ様はこちらに戻しますから・・・どうかそれまでは・・・」
健やかで。
呟くと、少女の声がフェードアウトし、光は唐突にぱっと姿を消した。