9.始動:ヨゥラside
* * *
イレイが姿を消して一年を経った頃のことだ。
ヨゥラは決心して宮に向かった。
【巫女】を訪ねる為に。
彼女の力を借りなくては、ヨゥラの望みは叶えられそうに無かったからだ。
先代であるヨゥラとて、現職の【巫女】を訪ねてもすぐ会えるわけではないはずだったが、ヨゥラと仲が良かった現【巫女】は本来は難しく煩雑な手続きを経た上でなくては対面できないという慣例をこっそり破り、すぐに対面できるように取り計らってくれた。
現れた【巫女】は記憶の中にあった彼女の姿よりも、だいぶ成長したことが伺える姿だった。
ヨゥラが【力】を譲り渡したのは10歳を迎える少し前。
一年以上前のことだ。
そのとき、【力】を受け入れた彼女はヨゥラより3つ下、7つを迎える少し前だった。
この年頃の少女は一年も経つとどんどん変わっていくのだから、ヨゥラの記憶の中の彼女の姿と一致しなくても不思議は無い。
寧ろ、一致していたら成長の遅れを心配するところだった。
そんなことを思っていたせいだろうか、挨拶が遅れてしまった。
ヨゥラより先に、【巫女】が口を開く。
「お久しぶりですね、先代様」
今はヨゥラより立場が上であるはずの【巫女】に先に挨拶をさせてしまうなど、明らかな手落ちだ。
【巫女】を勤める少女は、総じて早熟で聡明な者が選ばれる。
儀式に関わる膨大な知識を、幼い少女が修めるのだ。本来成熟した大人の身でも難しい。
しかし、候補になれる条件を満たす少女はいずれもそれを可能としていた。――つまり、先代であるヨゥラも。
【巫女】を勤めていた際に、礼儀作法についても厳しく教えを受けた。
その教えを守るならば、彼女よりも立場が上である彼女から挨拶を受けるなど、あってはならないことのはずである。
「・・・っ。巫女様! お久しぶりです。そして、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
ヨゥラは深々と頭を下げた。
「まぁ、頭を上げてください!・・・・・まったく、先代様は本当にマジメでいらっしゃる」
現【巫女】――フィンはくすくすと笑い声をあげた。
「ここには世話役のマジェンダも居りません。楽にしてらして?」
言われてほっと肩の力を抜く。そして、ヨゥラも笑った。
「マジェンダに見られていたら、きっと叱られていたでしょうね。もしかして、予想して席を外させてくださったのかしら。感謝します、巫女様」
すました顔でヨゥラは礼をする。
「そうよ、わたしは【巫女】ですからね。予想してマジェンダの席を外させておくなど造作もありません」
すました顔でフィンも応じる。そして、お互いぷっと吹き出した。
「・・・・・・マジェンダは相変わらずですか、巫女様?」
「ええ、相変わらずのカタブツよ。わたし、毎日のように叱られてるの。先代を見習いなさいって」
「まあ、わたくしの時もそうでした。彼女の中で許される完璧な作法を収められる者は、きっと記憶の中の美化された『先代』だけに違いありません」
「ええ、きっと」
そしてまた二人でくすくす笑った。
相変わらずな様子のマジェンダ――過去、ヨゥラの世話役も勤めた老女――の様子がおかしくもあったし、お互いに共通の話題を話すことでぴんと張っていた緊張が緩んだからでもある。
「マジェンダが相変わらずなようで巫女様も相当な心労がおありかと思いますが、お元気そうでよかったです」
「ええ、マジェンダと毎日一緒にいるだけでわたしは齢8つにして、相当老け込んでしまった気がしますけれど、元気です。先代様は・・・・・・少し、やつれましたね」
「そうでしょうか?」
「ええ・・・・・・そのヤツレ具合と今回のお話、関係あるのでしょう?」
「お分かりになって?」
「わかりますとも。・・・・・・さて、ちゃっちゃかお話してください。それを聞くために今回の時間を設けたのですから」