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注視する眼鏡と、聞き続けるだけの午後

今回は、少し頼もしい(ように見える)新しい子が登場します。


みんなの話をちゃんと聞いてくれて、

きっと上手にまとめてくれるんだろうな、と最初は思っていました。


ただ、聞くことが増えるほど、

なぜか話が進まなくなっていくような、不思議な時間で——


そんな、少しだけもどかしい午後のお話です。



騎士がいない。それだけで、リビングはいつもより少し広く、そして少しだけ頼りなく見えました。


その空いた場所に、すっと現れたのが新しい彼でした。彼はスタイを器用に折り、ぐいっと持ち上げて目の高さに合わせると、まるで眼鏡のように覗き込みながら、小さく「……バブ」とうなずきます。


手元には空き箱で作った“ノート”。彼はそれを開き、「ききます」と一言だけ告げると、「みなさんの、こえを、ぜんぶ」と続けながら、真剣な顔で書き留めるふりをしました。実際には何も書かれていませんが、その姿だけはやけに誠実に見えます。


——聞いている。少なくとも、そう見える。


そのとき、「これ!」と報道官が鋭く声を上げました。


カゴの奥に、ボーロが残っている。しかも明らかに、意図的に隠された形で。


「なんで!?」「だれの!?」「これ、だめ!」


一気に詰め寄る声に対し、彼は慌てる様子もなくスタイを静かに直し、「……バブ」とうなずきました。


「たいへん、じゅうような、ごしてきです。しっかり、うけとめます」


そう言うと、さらに深くうなずき、「まずは、みなさんの、こえを、ききます」と続けます。


——しかし、動かない。


「いや、もう言った!」「さっき言った!」「どうするの!」


周囲の声が強くなっていく中、彼はノートを一枚めくりました。白いままです。


「ひきつづき、ききます」


まだ、聞く。


時間だけが、ゆっくりと過ぎていきます。


「だから!」「どうするの!?」「いま!」


ついに声が重なり始めても、彼は静かにうなずきながら、「たいへん、きびしい、じょうきょうです」と言い、「みなさんの、こえを、ちょうせいしながら、さいぜんの、けつろんを、みいだします」と、整った言葉を並べました。


——それでも、決めない。


そのあいだに、CEOが立ち上がります。何も言わずに積み木をなぎ倒し、ガラガラと音を立ててリビングは一瞬で散らかりました。


「クビだ……!」


完全に、後手でした。


それでも彼は落ち着いたまま、「たいへん、じゅうだいな、じたいです」とうなずき、「これまで、きいてきた、こえを、ふまえ」と前置きを置いてから、ようやく結論を口にします。


「……バブ。ボーロは、はんぶんにします」


沈黙。


「なんで!?」「へるの!?」「こっちが!?」「ふえるじゃないの!?」


誰も納得していません。


彼はそれでも深くうなずき、「みなさんの、こえを、ちょうごうした、けつろんです」と言い切りました。


——完全に、ズレている。


そのとき、私は静かにボーロを取り出し、一粒ずつ全員に配りました。


「はい、ひとつずつね」


その瞬間、空気が変わります。さっきまで詰め寄っていた子たちは一斉に静かになり、文句も言わず、ただボーロを食べ始めました。


彼はその様子を見て、大きくうなずきます。


「……バブ。きいた、せいかが、でました」


満足そうに、スタイの眼鏡を直す。


私は思わず笑ってしまいました。


「……よかったわね」


彼はまたノートを開きます。相変わらず真っ白なままです。


「ひきつづき、ききます」


リビングには、ボーロを噛む静かな音だけが残っていました。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


あの日は、たくさんの声があって、

ちゃんと聞いてもらえているはずなのに、

なぜか誰も満足していない、少し不思議な時間でした。


「聞くこと」と「決めること」は、

似ているようで、少し違うのかもしれませんね。


それでも最後は、いつものように落ち着いて、

みんなでおやつを食べている姿を見ると、

それはそれでいいのかな、とも思ってしまいます。


また次のお話でお会いできたら嬉しいです。

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