マスクの騎士と秘密の建設現場
今回は、新しいお友達が来た日の記録です。
赤ちゃん同士が集まると、それぞれの個性が少しずつ見えてきて、見ているだけでも楽しいものですが——
この日は、いつもより少しだけ、不思議な空気が流れていました。
優しさのように見える行動と、なぜか見せたくなさそうな様子。
どちらも同じ子の中にあるのだと気づいたとき、
ほんの少しだけ、立ち止まってしまいました。
そんな一日の出来事です。
三者の緊張が続くリビングに、ゆっくりとした足取りで、新しい赤ちゃんが入ってきました。
やわらかいバッグを開けると、中から同じ形の布が次々と現れます。
一枚、また一枚。
彼はそれを、ひとりずつ、ていねいに手渡していきました。
受け取った子は、なんとなくそれを顔に当てる。
また次の子へ。
——気づけば、部屋の空気が少しだけ揃っていました。
彼は満足そうに、深くうなずきます。
「バブ……」
それで十分、という顔でした。
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それを見たCEOが、じっと目を細めます。
報道官は一歩前に出て、すでに何か言いかけている。
その横で、ミサイル好きの彼は、布をひょいと持ち上げ、
“棒”の先にかぶせてみせました。
妙に、しっくりきています。
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ところが——
新手の彼は、すでに別の場所へ移動していました。
部屋の隅。
声をひそめ、数人で集まり、静かに手を動かす。
積み木が、少しずつ形になっていきます。
四角。
重ねる。
また重ねる。
屋根のようなものまでついた、なかなか立派な“何か”。
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「……あら、上手ね」
私が覗き込んだ、その瞬間でした。
彼の手が、ぴたりと止まります。
ほんの一瞬。
動かない。
それから、ゆっくりと顔を上げて——
目を、合わせない。
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次の瞬間。
両手で、覆う。
「バ、バブッ」
一度、息を整える。
それから、はっきりと。
「ちがいます」
間を置く。
「いまのは、まだ、できていません」
小さく、うなずく。
「したがって、いま見えているものは、完成したものではありません」
視線は、こちらを見ない。
「よって、それは、存在しているとは言えません」
一度だけ、こちらを見る。
すぐに、逸らす。
「ですので、問題はありません」
さらに、積み木に手をかける。
「この件については、すでに対応済みです」
「以上です」
そして——
静かに、崩す。
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何もなかったかのように、彼は立ち上がります。
そして再び、布を配り始める。
さっきより、ほんの少しだけ早い手つきで。
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気づけばリビングは、
「カベ……!カベ!」と積み上げるCEOと、
「ダメです!それダメです!」と食い下がる報道官と、
“棒”の先を見つめて満足している子と、
静かに配り続ける彼とで、
奇妙な均衡を保っていました。
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私は、そっとコップを並べます。
麦茶。
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その瞬間。
全員の動きが、止まりました。
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CEOは一番に手を伸ばし、
報道官はなぜか一度うなずき、
ミサイル好きの彼はストローをくわえたまま“棒”を見つめ、
新手の彼は、静かにコップを持ち上げます。
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誰も何も言いません。
ただ、同じ音だけが響きます。
ゴク。
ゴク。
ゴク。
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静かでした。
さっきまでのことが、嘘のように。
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ただ一つだけ。
部屋の隅には、まだ少しだけ——
きれいに崩しきれなかった“角”が、残っていました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この日は、にぎやかなはずなのに、どこか静かな印象が残る一日でした。
配られたものに安心して、場の空気が整っていく一方で、
ふとした瞬間に見えた「隠すしぐさ」が、妙に心に残っていて——
あれは、ただの遊びだったのか、
それとも「見せたくない何か」があったのか。
はっきりとは分かりません。
ただ、最後に静かに並んで麦茶を飲んでいる姿を見ていると、
そのどちらでもいいような気がしてきました。
それでも、部屋の隅に残っていた“形の名残”だけは、
なぜかしばらく消えませんでした。
また次のお話でお会いできたら嬉しいです。




