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3 姉のやらかしと、妹の尻ぬぐい

 ぴぃぴぃとしか、聞こえなかった妖精の鳴き声が言語化したことで、一同はこの一件の真相に触れることとなった。


 曰く。


 妖精族の森は古くから、ドラゴンとの盟約によってその平和を守っていた。


 貴重な資源の数々は、外部の者にとっては喉から手が出るほど価値があるものが多かった。一般的に成人しても体長が二十センチほどの妖精族は、武力による侵攻に抵抗するすべを持たない。


「それゆえ、ドラゴンと盟約を結び、この地の安寧を守っておるんじゃ…」


 妖精の森の中でも最も年上の精霊が、この度の儀式の重要性について、切々と語っている。


 しかし、肝心のドラゴンとの儀式に挑む、薔薇の精霊ローザ・フルールは全くその話を聞いていなかった。


 彼女にとって大切なのは、儀式に臨むことではなく、儀式を行う「最も美しい妖精」に自分が選ばれたということだけだった。


 小さな欠伸を繰り返す姉の妖精に、妹である菫の妖精ヴィオラは気を揉みっぱなしだった。とにかく美しいこの姉は、何事に対しても正直で歯に衣着せぬ性格だ。


「お姉ちゃん、ちゃんと聞かないと…。ドラゴンは森の守護神なんだよ。失礼があったら大変だよ…」


 小声で脇をつくが、肝心の姉妖精ローザはどこ吹く風である。


「聞いてるって、心配性ね、ヴィオラは。ちゃんとやるから大丈夫よ」


 自信満々に答えるローザに、それ以上口出しできずヴィオラは不安を抱えながら口を噤むしかなかった。


 しかし残念ながら、万全のリハーサルを行ったにも関わらず、いよいよ本番というその日に、ヴィオラの懸念は現実のものとなったのである。


 ……儀式の当日。


 妖精族の森は、常に閉じられており招き入れられたものしか立ち入ることはできない。


 ドス…という重低音を響かせながら、黒竜ヴァルト・レギウスはその森の結界を潜り抜けた。


 人の家屋ほどの大きさの巨体を、しかし注意を払って進む様子は、彼が小さな友人たちに細心の注意を払っていることを伺わせる。


 案内のあった広場で、いつものように、羽ばたきで花を散らさないよう翼を畳み、尾を丸めて座った。


 あとは例年通り、妖精からの依頼を受けて頷けば、森を守るという『約束』を継続するための儀式は終了だ。


 特に決まりがあるわけでもないが、昔からそうなのでヴァルトは今年も妖精たちの決まりごとに付き合ってやるつもりでこの場に訪れていた。


 ところが。


「いや!!!なにこれ、トカゲじゃない!なんでこの私がトカゲにお願いしなきゃいけないの!!!」


 甲高い声が、耳を突き刺す。


 目をやると、一人の妖精族の娘が「キーキー」と喚き散らしていた。


「『トカゲ』とは随分な言いざまだな、小娘。この森の守護は頼まれたからやっているだけで、俺は貴様らに何の思い入れもねぇんだ。こんな森のお守りなんざ、いつでも辞めていいんだぜ?」


 周囲の様子を見れば、小娘一人の想定外の発言のようだが、随分と長いこと妖精たちに付き合っていたヴァルトは、そろそろこの状況に飽きていた。


 そして、それ以上に気高いドラゴンの矜持に傷をつけられ、憤っていた。


 良い機会だとばかりに、ゆらり、と翼を広げる。大空へ飛び立とうとしたその時、鼻先に何かが飛び込んできた。


「お待ちください!ヴァルト様!!!」


 必死の形相の小さな花の妖精であったが、怒れるヴァルトが「フン」と鼻を鳴らすと、なすすべもなく吹き飛ばされたのであった。


 ―――


『ーーー《…、というわけなの》』


 その結果、不運にもギルドに展示されていた花瓶にすっぽりはまってしまったのだ、と悲し気な顔で首を振り、彼女の身に降りかかった災難の話は幕を閉じた。


「…お姉ちゃん、ちゃんと儀式の意味を聞いてなかったんだね」


「…ガイ、姉というのは、常に身勝手で理不尽な生き物だと、何かの学説で読んだことあるぜ」


 妖精がしゃべるたびに、装着したカニがカチカチとハサミを鳴らすのが耳障りではあるが、翻訳はどうやら正しくできているらしい。


『ーーー《お願い!、力を貸して。私一人ではどうにもならないの!お礼はもちろんするわ!我が一族に伝わる『妖精の花冠』!これを贈呈するから!》』


 藁にもすがるとはこのことであろう。縁もゆかりもない行きずりにすら、必死で頼み込む姿が、憐れを誘う。…勿論エレオノーラは対象外であったが。


「『妖精の花冠』?まあ、あの有名な…?」


「……『妖精の花冠』。市場価格、ほぼ無価値。」


 オスカーの口から放たれた氷のような言葉が、リンとガイの鼓膜を貫いた。


「……む……か……ち……?」


 リンが、まるで糸の切れた操り人形のようにその場に膝をついた。床を叩き、「嘘だろ」と呻く。


  一方のガイは、あまりのショックに白目を剥き、ソファーの背もたれからズルズルと滑り落ちていった。


「オスカー! お前、ちゃんと計算合っているか!? 伝説の素材とか、万病を治す薬草とか、そういう『金になる』付加価値は付かないのかよ!?」


「付きません。ただ、ものすごく美しい。……それだけです」


「『それだけ』でドラゴンとの喧嘩の仲裁をしろって!? 引き受けないよね、エレオノーラ様!!!」


 しかし、次の瞬間エレオノーラがきっぱりと断言したことにより無慈悲な任務が遂行されることが決定したのだった。


「まさにリリアーヌに相応しい花冠ということね。よろしくてよ、お手伝いいたしましょう」


 依頼主からの報酬すら期待できない任務に、リンとガイは絶望の悲鳴を上げた。


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