表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1 真価の天秤と壺の住人

「…おや?」


真価の天秤ジャッジメント・スケール」が、大きく傾いたことを確認して、アンティークショップ『星屑の天球儀(アストラル・オーブ)』の鑑定士オスカー・グレイは、モノクルを押し上げた。


 骨董品(アンティーク)は経年変化や市場の流行(トレンド)により価値が変化するため、定期的な鑑定(チェック)を欠かさない。今日はちょうどその再鑑定を行う日であった。


 今、彼の魔法により発現した、金色の天秤は、ドスンと音を響かせ、片方の皿が机にめり込むほどバランスを崩している。


「以前の鑑定時と比べ、大きく価格変動を起こしている、ということですか?しかし、この作品に、価値に影響を及ぼすような事実は上がっていないはずですが…」


 左の天秤に対象物を、右の天秤には査定書を乗せたところ、左に大きく傾いたのである。これは査定書の内容より、対象物の価値が大きいことを示す。


 オスカーは帳簿を取り出し、以前自らが書き付けたその花瓶の項目に目を通した。


 そこには「ヘンリー・フォレスト作、花入れ、制作時期:晩年」とある。


 美しいデザインで愛好家が多いものの、使われている材質や歴史的背景などに付加価値が付きにくく、変動が起きにくい作家の作品であった。


「『情報展開(オープン)』」


 手を上げ、右の天秤皿にかざすと、花瓶に関する詳細が浮きだされる。その内容にざっと目を通したオスカーは、眉を顰めた。


「『妖精のはまった』花入れ…?」


 商品名に、以前には無かった一言が加えられている。


 大きく傾いた原因はそこにあるのだろう。しかし、だとしてもこの傾き方は異常である。


 再査定による金額を確認して、さすがのオスカーも目を見張った。


「国が…、一つ滅びるほどの金額ですな…」


『ヘンリーの花瓶』と銘打たれた花瓶を、静かに天秤からおろすと、「さて、どうしたものか」と呟いた。


 自身の魔法は曖昧な結果を記すことはない。「夢中になる」などの比喩ならそのように出る。だとするならば、この「はまった」というのは――。


「……物理的に嵌まっているのか、あるいは罠にかけられたなどの窮地の表現か…」


 いずれにせよ、以前の鑑定時にはそのような記述はなかった。だとすれば、この店に置いてある間に何かしらの事故、あるいは事件が発生したという事だろう。


「…エレオノーラ様へのご報告が必要ですね」


 優秀な従業員は、報連相を怠らないものである。とにかくこういうことは確認したらすぐ報告するのが良いだろう、と花瓶を花入れ箱に収めようと持ち上げたその時…


「ぴぃぃぃ、ぴぃ…ぴぴぴぴぃ…!」


 小鳥のさえずりのような音が響き、ガタガタと花瓶が揺れだしたのだった。


 普段より、めったなことでは動揺しないオスカーだが、モノクルを指先でつまみ上げ、恐る恐る中を覗き込む。


 すると…


 花瓶の中に、手のひらサイズほどの妖精がピッタリと「はまって」いる。


「どういう状況ですかな、これは」


 辛うじて頭だけが動かせるのか、必死に見上げて何かを訴えている。


 静かに、オスカーは花瓶を持ち上げた。そして上下を返して全力で振ってみる。


「…ぴぴぴぃぃ!!!!ぴぃ、ぴぃぃ」


 目を回しながらも全く抜ける様子のない妖精を確認して、オスカーは、今度こそきっぱりと判断を下した。


「これだけ、きっちり『はまって』しまっていては花瓶の解体が必要かもしれませんな。やはり、エレオノーラ様にご報告ですね」


 花入れ箱に収め、魔導士ギルド『天球の灯(スフィア・ランタン)』へ続く扉を開く。妖精など、滅多に人前に現れるものではない。


 面倒なことになりそうだ、とオスカーの長年の勘が告げていた。


「やれやれ、また『双子座(リンとガイ)』が騒がしくしそうですね…」


 威勢の良い若い二人を思い、苦笑いをこぼすのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ