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勇者学園の戦わない保健室 〜傷だらけの英雄たちに、とびきりのハーブティーを〜  作者: 伝福 翠人


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11/12

真の強さとは

一ヶ月後。学園対抗戦のメインアリーナは、異様な熱気に包まれていた。


例年であれば、他国の来賓を招いた祝賀的な行事だが、今年は違う。学園の未来を賭けた、内戦とも呼べる決戦の舞台なのだ。


「これより、代表選考試合の最終戦を行う!」


審判の声が響く。


アリーナの左側から入場したのは、グロリア教頭が選抜した『正規軍』チーム。


全身を黒い鎧で固め、表情が見えない。彼らは感情を抑制する魔法をかけられ、命令を忠実に実行するだけの兵器と化している。その魔力値は桁違いだ。


対する右側。私たち『反乱軍』チーム。


レオン、ニルス、ミナ、エリアス、そしてセオドア。


彼らは統一された鎧ではなく、それぞれの個性を生かした軽装で現れた。


観客席からは、彼らを応援する割れんばかりの歓声が上がっている。


「先生、行ってきます」


レオンが、ベンチにいる私に向かってサムズアップをした。


「ええ。楽しんでおいで」


私は笑顔で送り出した。


勝敗はもちろん重要だ。でも、彼らが自分らしく戦うこと、それこそが何よりの勝利なのだから。


『試合開始!』


銅鑼の音が鳴り響いた瞬間、正規軍が一斉に動いた。


「殲滅」


リーダー格の生徒が無感情に呟くと、五人全員が超高密度の攻撃魔法を放った。


空を覆い尽くすほどの火球、雷撃、氷槍。回避不可能な面制圧攻撃だ。


「いきなり全力かよ!」


レオンが叫ぶ。会場中が悲鳴を上げる中、エリアスが杖を掲げた。


「計算通りだよ。ニルス、今だ!」


「はい!」


ニルスの姿が掻き消える。次の瞬間、敵の攻撃魔法の軌道がわずかに歪んだ。彼が展開した見えない屈折フィールドの影響だ。


直撃コースを逸れた魔法は、エリアスの風魔法によってさらに拡散され、レオンたちの左右をすり抜けていった。


「よし、隙ができた! ミナ!」


セオドアが指示を出す。


ミナが前へ出る。彼女の両手には、以前のような暴走した炎ではなく、圧縮された真っ白な炎が宿っている。


「熱くなれ!」


放たれた炎は、敵の前衛を直撃し、その強固な鎧を溶かした。


しかし、敵は痛みを感じないかのように、そのまま突っ込んでくる。


「ひるまないだと!?」


接近戦が始まった。


個々のスペックでは、正規軍が圧倒的に上だった。彼らは疲れを知らず、恐怖を感じず、機械のような精密さで連携してくる。


レオンが剣技で押し返そうとするが、二人がかりの猛攻に防戦一方になる。


「くそっ、重い……!」


「レオン、無理するな! 右に避けろ!」


セオドアの声に従い、レオンが身を翻す。その直後、そこへ敵の雷撃が落ちた。


ギリギリの攻防。徐々に、エルナチームは追い詰められていく。


「無駄です」


貴賓席で見ていたグロリア教頭が、隣に座る私に冷ややかに言った。


「感情などという不確定要素に頼るから、動作が遅れるのです。私の兵士たちは迷わない。故に最強です」


「迷わないことが強さではありません」


私はフィールドを見つめたまま答えた。


「迷って、悩んで、それでも仲間を信じて踏み出す一歩。そこにこそ、本当の力が宿るのです」


フィールドでは、レオンが膝をついていた。


敵のリーダーが、トドメの一撃を放とうと剣を振り上げる。


レオンは動けない。誰もが目を覆った。


その時だ。


「させない!」


ニルスが実体化し、レオンの前に立ちはだかった。


彼は小さな短剣一本で、敵の大剣を受け止めた。


「ニルス!?」


「僕だって……守りたいんだ!」


ニルスの叫び。しかし、力の差は歴然だ。短剣が折れ、刃が彼に迫る。


だが、その刃は届かなかった。


横から飛び込んできたミナが炎で敵を弾き、エリアスの風が二人を後方へ逃がしたのだ。


「馬鹿野郎! 死ぬ気か!」


レオンがニルスの胸倉を掴む。しかし、ニルスは泣きながら笑っていた。


「死なないよ。君たちが助けてくれるって、信じてたから」


その言葉に、レオンはハッとした。


正規軍の兵士たちは、負傷した仲間を平然と見捨てて攻撃を続行していた。彼らにとって、仲間とはただの駒に過ぎない。


だが、エルナチームは違う。誰かが倒れれば、誰かが必ず助ける。


その「非効率」な行動こそが、予測不可能な強さを生み出していたのだ。


「……そうか。俺たちは一人じゃない」


レオンが立ち上がる。その瞳に、かつてない輝きが宿る。


心のカルテに見える彼らの心の色が、共鳴し合い、混ざり合い、虹色のような美しい光を放ち始めた。


「反撃開始だ! セオドア、指示を!」


「了解! エリアスとミナは撹乱! ニルスは敵の視界を奪え! レオンは……本能のままに暴れろ!」


「最高だ!」


レオンが剣を構える。もはや彼に迷いはない。


エルナチームの動きが変わった。


個々の能力を超えた、有機的な連携。まるで一つの生き物のように、攻守が流動的に入れ替わる。


正規軍の機械的な連携では、この「心」を持った動きに対応できない。


「な、何故ですか!?」


教頭が立ち上がり、声を荒らげた。


「数値ではこちらが上のはず! なぜ押されているのです!」


「それが『心』の力です、教頭」


私は静かに告げた。


「恐怖で縛られた心は、限界を超えられません。でも、誰かを守りたいと願う心は、限界なんて簡単に飛び越えることができるのです」


フィールドでは、決着の時が迫っていた。


エリアスの風に乗って加速したレオンが、ミナの炎を剣に纏い、ニルスの支援魔法で硬度を増した一撃を放つ。


「これが、俺たちの答えだぁぁぁ!」


一閃。


正規軍のリーダーの鎧が砕け散り、彼らは吹き飛ばされた。


静寂。そして、爆発的な歓声。


「勝者、反乱軍チーム!」


審判の宣言と共に、生徒たちがフィールドになだれ込んだ。


レオンたちは抱き合って喜んでいる。泥だらけで、傷だらけで、でも最高に輝いている笑顔。


私はその光景を見つめ、そっと涙を拭った。


勝ったのだ。私たちは、心の力を証明したのだ。


教頭は力なく椅子に座り込んだ。


彼女の完璧な理論が、不完全な子供たちの絆によって打ち砕かれた瞬間だった。


「……私の、負けです」


教頭が小さく呟いた。


その言葉は、歓声にかき消されて誰にも届かなかったが、私には確かに聞こえた。


フィールドの真ん中で、レオンが私に向かって手を振っている。


「先生ー! 早くこっちに来てよ!」


私はカーディガンの裾を直し、いつもの笑顔を作った。


「はいはい、今行きますよ」


私はゆっくりと歩き出した。


戦いは終わった。ここからは、傷ついた心を癒やし、新しい未来を語り合う時間だ。


真の強さとは、敵を倒す力ではない。


何度傷ついても立ち上がり、隣にいる誰かの手を握れる優しさのことなのだから。

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