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再誕世界のルカ  作者: 葦原 綾真
第二章 新しい世界

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第六話 アーヴ

 時刻は夕刻。そろそろ日が落ちる頃合いだ。

 身体の調子の確認やトレーニング、感応術の練習を兼ねてあれこれ試しながら街道を進んできたルカは、街道沿いに誰かの野営の跡を見つけた。

 街道の端から数メートルほど離れた場所に大きな木が一本立っていて、張り出した根がちょうど椅子のように腰掛けられる形になっている。

 自然の椅子のすぐ前には、前の利用者が焚き火をした跡と思しき黒く焦げた地面。

 ルカは燃料になりそうなものがないか、軽く周囲を見回した。

 木の裏手に小枝や薪代わりになりそうなものが置いてある。この世界では旅人同士はよく助け合うらしく、野営に適した場所を見つけると、後で使う者たちのために残った薪や石を積んで作ったかまどなんかをあえて残すのだそうだ。今回はかまどまではなかったが薪代わりの枝が残されていた。

「ありがたいな。使わせてもらおう。」

 枝をいくつか手に取り、焚き火跡があった場所に置く。火打ち石はないので、右手をかざして小さく言葉を紡ぐ。

「――《発火(イグニッション)》」

 かざした手から小さく火が放たれ、置かれた小枝に火が移る。

 パチパチと小さな音を出しながら、無事焚き火に火を灯すことができた。

 これでとりあえず野営はできそうだ。そう思った次の瞬間、街道の方から声がした。

「おーい、兄ちゃん、そこで野営かー?」

 声のする方に視線を向けると、街道から外れ、手を振りながらこちらへ歩み寄る青年が見えた。

 年の頃はルカより少し上、大柄でがっしりとした体格で、無駄な装飾はないが堅牢な鎧に長剣と大きめの盾を携えている。赤みの強い茶褐色の髪は全体的に短く切られている。

 表情は豪放磊落といった感じで、大きくニカッと笑っていた。

「あぁ、その予定だよ。」

「俺もだ。というか今日はここを使おうと思って来たんだけど、先越されちまったなー。悪いけど隣いいか?」

 旅人同士が野営地を使う者のために薪やかまどを残す、ということはその野営地を使う者が少なからずいるわけで、それはこうやって同じ日同じ時を初めて顔を合わせる旅人同士で過ごす可能性もあるのだ。

「構わないよ。ただ、分かってると思うけど、十分距離はおいてくれよ。」

「もちろんだ。休むのは焚き火を挟んで少し離れるようにする。食料も別。それでいいよな?」

 頷いて肯定の意思を示す。野営地を共有する場合は、可能な限り離れるようにして、食料やその他物品のやり取りは商売以外では行わない。この世界での旅人の常識だ。

 初めて顔を合わせただけである以上、安心して過ごせるかの判断は難しい。完全に安全というわけではないが、それでも野営地を共有しながら、いくらかでも安全を確保するための暗黙のルール。

 青年が焚き火の反対側に腰をおろし、話しかけてきた。

「兄ちゃんは、どっから来たんだ?西からか?」

「あぁ、そうだよ。ここから東に行こうと思ってる。」

「東だとブレーヴェ村の方かその先のリヴィエナってとこか? 俺は逆にブレーヴェ村からこっちに来たんだが、東に向かうなら気をつけな。途中何回か野狼(グラスウルフ)の群れを見かけたからな。」

 野狼(グラスウルフ)はこの世界では一般的な害獣の一種だ。雑食性ではあるが、肉を好んで食べるため、比較的おとなしい動物や人間をよく襲う。体躯が大きく旅人もよく被害に遭っていた。

 しかもそれが数匹から十数匹で群れている。力を持たない老人や子ども、戦闘訓練を受けていない人などが襲われて命を落とすことは多いと言われている。

「動きも俊敏だし歯も鋭い。俺の鎧なら平気だが、兄ちゃんの服じゃ簡単に突き破ってくるぞ。」

「群れてるとなると、厄介だな。いい情報だ、助かったよ。」

「ははっ。いいってことよ。逆に兄ちゃんは西から来たんだろ? そういうのはなかったか?」

 情報共有も助け合いの一環。ルカは西側の状況を簡単に話しておいた。

「とりあえずしばらくは野狼(グラスウルフ)も他の獣もいないんだな? そりゃ一安心だな。明日は順調に進めそうだし、今回の仕事は楽に終わりそうだなぁ。」

「(仕事……ね)」

 このあたりは敢えて聞かない。それが旅人同士のマナーだ。相手の目的や仕事が実は自分にとって良くも悪くも影響があるかもしれないし、面倒事に巻き込まれる可能性もなくはない。仮に敵対組織の仕事でした、なんてことにでもなろうものなら、いきなり切った張ったの事態に発展することになってしまう。

 飯でも食うかと青年は手持ちの荷物から干し肉と水袋を取り出し、軽く食事を始めた。

 ルカも荷物から食料を取り出して口にする。もちろんラボの食品管理システム製の不味い携帯食料だ。こればかりは本当に辛い。早く人里に出て文化的な食事にありつきたい。青年が口にする干し肉ですら垂涎ものである。

「なんか不思議なもん食ってんなぁ……」

「ほっとけ……」

「どこに行くのかは聞かねぇが、ブレーヴェ村に行くなら"陽だまり亭"ってとこに行くといいぜ。食堂付きの宿屋だ。素朴だが雰囲気もいいし、飯もかなり美味かったしな。つーかあの村、他に宿も食堂もねぇけどな!」

 はははっと大きく笑う。人の良さそうな青年だなとルカは少し目を細めた。どうやら今夜はゆっくり休めない代わりに退屈しなさそうだ。

 日もとっぷりと暮れ、周囲はすでに夜の帳が下りてきて、空には明るい星がいくつか輝き出していた。

 明るく楽しそうに語る青年と、言葉少なに会話に応じるルカ。

 その様子は夜半をすぎる頃まで続いていた。

 その後はお互い少し離れて軽い仮眠を取る。

 数時間ほどして、朝日が差し始める頃に、野営地の後始末に取りかかった。

 焚き火の火を消し、余った薪は木の裏手に集めておく。仮眠時に敷いていたラバーシートや他の荷物もバッグに入れ、出発の準備を整える。

「お互いそろそろ出発だな。野狼(グラスウルフ)、気をつけろよ。」

「そっちも気をつけて。いい旅になることを祈ってるよ。」

 青年の言葉を受けて、ルカも答える。

「アーヴだ。」

「えっ?」

 唐突に青年が右手を差し出して名乗った。このまま別れるものだと思っていたので、一瞬固まってしまう。

「俺の名前。アーヴ。また縁があったら会おうぜ。」

「ルカ=アストレインだ。縁があったら、な。」

 アーヴに応えるようにルカも右手を差し出し、軽く握手を交わす。

「家名持ちが一人旅とはな……深く詮索はしねぇが、大変だな。」

「気にしないでくれ。あってないような名なんだ。」

 この世界の家名持ちとはそもそも出自が違う。かといって説明も簡単ではないし、そもそも他人に話すことでもない。苦笑いしながら肩をすくめてごまかす。

 毎度説明するのも面倒だし、家名は口にしないほうが良さそうだ。

「そうか。じゃあな。」

「あぁ……」

 軽く手を上げて別れの挨拶とし、ルカとアーヴはそれぞれ東と西へ歩き始めた。

 だんだんと離れていく二人の影。

 お互いに振り返ることもなく、ただ静かに自分の目的地に向かって歩みを進める。

 この出会いは偶然だったのか、はたまた必然だったのか。後に彼は語っている「何の根拠もないんだけどさ。何か背負わされてるなぁって思ったんだよ。だから"助けてやりたくなっちまった"。そんだけさ。」

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