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再誕世界のルカ  作者: 葦原 綾真
第八章 共に歩むために

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第三十七話 護衛とは

 家を出て一人で陽だまり亭へ向かう。

 給仕の手伝いで通い慣れたこの数十秒の距離が、今日はやけに遠い。

 ちなみに自分で話をつけてこいって話があったこともあって、ルカとは別行動だ。

 そのルカは自分だけいつもよりも早くに家を出て、騎士様たちに護衛依頼を受けるって伝えてから、アーヴさんと一緒に適当な害獣駆除にでも行くって言ってた。

 これでルカの今後の予定は決まったようなものだから、私も頑張らなきゃいけないなんて緊張しつつも、何かを考えたりするような時間も無く、早々に陽だまり亭の前についてしまった。

 今日だけはこの近さがちょっと恨めしい。

 陽だまり亭の入口は普段営業中は解放されているんだけど、騎士様たちが貸し切りにしてからはずっと締め切られていて、それは今日も一緒だった。

 そしてその扉の横には歩哨として兵士の人が立っていて、あの人に話掛けたらそこからスタートだと思うと、少し身震いする。

 歩哨の兵士は周囲を警戒しながら、陽だまり亭の前で立ち止まった私をチラチラと見ている。そりゃまぁ歩哨で立ってるところに関係者以外が近付いてきたら警戒するもんね。

 なんとか少しでも気持ちを落ち着かせようと目をつぶって、大きく深呼吸。ここまできたら進むしかないと気合を入れて、私は歩哨の兵士に近付いた。

「おはようございます。護衛をお探しと聞いて来ました。お話聞かせてもらえますでしょうか?」

「ふむ、護衛の話か……」

 歩哨の兵士は、成人前の小娘が何を言っているのかとでも言い出しそうな顔をして私のことを少し眺めた後、少しここで待つようにとの言葉を残して陽だまり亭の入口を少しだけ開けて中に向かって何かを話しだした。

 何往復かのやりとりの後、歩哨の兵士は入口の扉をその手で解放し、顔だけを私に向けた。

「一応話はしていただけるとのことだ。失礼のないようにな。」

 それだけ言って、顎先で私に屋内に入るよう促す。

「ありがとうございます。失礼します。」

 私は礼を言って頭を下げ、陽だまり亭に足を踏み入れた。

 森に行く前までは数日と開けることなく給仕の手伝いで通っていた場所なのだけど、二週間以上ぶりに入った食堂はいつものような熱気が感じられない、少し落ち着いた空気になっている気がする。

 でもその空間にいるのは兵士や騎士といった人たちばかりなので、肌が粟立つというか、ぞわぞわするというか、不思議な雰囲気だ。

「君が護衛の話を聞きにきたという子……ん? 君、ルカ殿やアーヴ殿と一緒にいた子だね。」

 陽だまり亭に入ったところに声をかけてきたのは、ノア様だった。良かった、一番話しやすい人だ。

「あ、はい。エリナと言います。義姉から女性の護衛をお探しと聞きて来ました。」

「なるほど……じゃあ詳しい話は隊長からしてもらうことになるから、こっちの椅子に座って待っていてくれるかな?」

 ノア様は食堂の真ん中あたりに置かれていたテーブル横の椅子を引き、私を待っている。

 招かれるまま椅子まで歩み寄ると、椅子に腰掛ける。

 ノア様は隊長を呼んでくるから少し待っているようにと言って、二階へ続く階段を上がっていく。

 対する私は落ち着かなくて少し周囲を見回した。食堂奥のカウンター席のところに先日木箱を運んでくれたエディル様が座ってこっちを見ている。

 私と目が合うと、楽しそうな笑顔を浮かべながら、手をひらひらと振って、声を出さずに口の動きだけで「がんばるっすよ~」と言葉をくれた。

 その様子が少し可笑しくて、私の表情も少し綻ぶ。

 そうこうしているうちに、二階からノア様と一緒に隊長さんが下りてきた。

 隊長というには少し若い気がするけど、背筋がピンと伸び、表情も固く、とても真面目な人という雰囲気。圧迫感があるわけじゃないけど、どこか厳しい人に見える。

 そんなことを考えながら緊張して待っていると、隊長さんは私の横まで歩いてきた。

「私はこの一団の隊長を務めているセオ=エルヴァンだ。」

「あ、わ、私は近くの雑貨屋の店主の妹で、エリナと言います! よ、よろしくお願いします!」

 隊長のセオ様は挨拶の為に慌てて立ち上がったままになっている私に、再度椅子に腰掛けるよう促してから、セオ様自身もテーブルを挟んだ反対側の椅子に腰掛けた。

「失礼します……」

 私も椅子に腰掛けて、居住まいを正す。

 気がつくとノア様はセオ様の斜め後ろに控えるように立っていた。表情が柔らかいことだけが救いだ。

「さて、早速だが、護衛の話を聞いてきたと聞いているのだが、詳しい話の方は?」

「いえ、義姉から護衛依頼を受けられる女性がいないかお探しだとだけ……」

「なるほど、報告では君はルカ殿と行動を共にしていると聞いていたのだが、彼からは何も聞いていないのだな。」

「はい、彼は何も。依頼の話は自分で話を聞いて自分で決めるようにとだけ言われています。」

「ふむ……期せずして彼が近縁者であっても容易に情報を漏らさない男だと証明されたな。」

「そのようですね。」

 セオ様は後ろに立つノア様に目配せをして言った。セオ様の表情は変わらないけど、ノア様は少し口角が上がったような気がする。

 二人にとっては良かったんだろうけど、私は逆に少し肝が冷えた。私の答える内容一つで私だけじゃなくてルカやアーヴさんの評価まで変わる可能性があることがわかってしまったから。

「では、依頼の詳細を説明せねばならんな。」

 そう言ってセオ様は依頼の内容について説明してくれた。

 ある女性を目的地まで無事にお連れする途中であること、事情があり欠員が出たことで人員補充が必要であること、目的地がロイナー辺境伯領の領都バルディアであることなど……

 同じ説明はルカやアーヴさんにもしてあるらしい。

「さて、基本的な内容はここまでだが、何か質問は?」

「……いえ、特にありません。」

「よろしい。では君がこの話を聞きに来た理由を聞かせてもらえるだろうか?」

 一通りの説明を終えたところで、セオ様は私の動機から質問をしてきた。

 何かしらの質問はあるだろうと思っていたし、騎士様たちにしてみれば、依頼に自発的に応募してきた者の意思や考えを問うのは容易に想像がつく。

 私はセオ様の問いに、小さく一息入れてから、ゆっくりと言葉を選びながら答えた。

「はい。まず最初にお伝えしておきたいのは、金銭や名声についてはまったく意識してないということをご理解ください。」

「ほう……」

 セオ様の目が少し薄くなった。言外に「では何なのだ?」と問いかけているみたいに。

「元々、私は旅をするルカと一緒に村から旅立つつもりでした。この話に関しては、兄と義姉に相談した上でルカとも話をしています。ですが、その際に彼が今回の護衛依頼の打診を受けていると聞いたのです。」

 おそらくセオ様や他の騎士様たちに対して、下手な嘘や虚実を混ぜて語ってもいいことはないと思うし、そもそも私はそういうことが得意じゃない。

 だから、今日はあまり飾らず真っ直ぐに答えようと思っていた。

「彼は私が旅に同行することを受け入れてくれましたが、同時に護衛依頼についても前向きでした。そうなると皆様にとって部外者になる私は、彼がすべてを終えて帰ってくるまで無事かどうかもわからぬまま、待ち続けなければなりません。」

 セオ様の表情は変わらない。ノア様は腕を組み、右手を顎先に触れるようにして、私の話を聞いている。

 キリキリと胃が痛むような気がするのを考えないようにしながら私は続ける。

「その時、義姉から皆様が護衛依頼を受けられる女性をお探しらしいと聞いたのです。私は勝手ながらこの話を受けるべきだと考えました。彼は私の為に村に戻る必要はなくなり、私は彼を待つ必要がなくなり、皆様は女性の護衛を連れていける。それぞれにメリットはあるのではないでしょうか。」

「なるほど……何とも正直なことだ。裏表なく自分の考えや思いと我々の必要とするものについて言及するのは好感が持てるが、護衛任務を念頭に置くには、さすがに言葉が軽いと言わざるを得んな。君に相応の目的があるのはわかるが、そういう意味では我々はさるお方の命を守るのが目的なのだ。そしてその命は君やルカ殿、我々よりも圧倒的に尊い。」

 セオ様の視線から温度がなくなった気がした。

 背筋が冷え、握った手が汗で湿る。でもセオ様の言葉はどこから聞いても正しくて、自分の言葉が軽いと断じられたことを嫌でも納得させられてしまう。

「……はい。」

「護衛につくということは、極端なことを言えば護衛対象が無事であれば、君の生死は問わないということでもある。考えたくもないだろうが、君が生き残りルカ殿だけが死ぬという可能性もあるわけだ。その場合でも目的地まで護衛は続けねばならんが、君はモチベーションを保てると言えるか?」

 私が死ぬ、またはルカが死ぬ。それは私にとっては現状考えうる最悪の事態。

 心のどこかで気付いていたのかもしれないけど、改めて言葉にして突きつけられると嫌でもそのシーンが脳裏に浮かんでしまう。

 何か言わなくちゃと焦る気持ちだけがぐるぐる回って、肝心の言葉が出ない。

「……どうやらそこまで深くは考えてこなかったようだな。」

「……っ……はい……」

 俯いてそう絞り出すのが精一杯だった。

 甘かった。当たり前だけど、やるべきことに対する覚悟や心構えがまったく違ったんだ……

 少し視界が滲む。ダメだ、我慢だ……と必死にこらえていたら、セオ様の向こう、少し上の方から大きくため息をつく音が聞こえた。

「セオ隊長、必要なことではありますが、いささか強く当たりすぎなのでは? 今回に関してはいろいろと事情もありますし、あまり責めずに彼女の言を公平に評価して差し上げて下さい。」

 凛としたよく通る女性の声だった。

 顔を上げると二階から旅装用の少し簡素な侍女服を身にまとった女性が下りてきている。前割れのスカートをふわりと靡かせて階段を下りるさまに、私は思わず見とれてしまった。

 彼女は階段を下りたあと、私とセオ様の隣のテーブルの椅子に腰掛けた。

「ミリア殿……一応隊を預かる者としては、その覚悟くらいは問うておかねばなりませんよ。万が一、というものが頭の中になるのとないのは大違いですからな。」

 ミリアと呼ばれた女性から少し窘められたセオ様は、彼女の方を一瞥してから、再度私の方に向き直った。

 こころなしか表情が柔らかくなったように見えなくもないが、それでもまだ固い。

「すまないな。今言った通り、君にとっては耐え難い事態があり得るということは認識してもらう必要があるのだ。軍属でないものに強要するのは憚られるが、護衛対象のお方は我々の身を盾にしてでも守らねばならん。そのことは忘れてもらっては困る。」

「……はい。」

「とはいえ、だ。護衛につくということは襲撃があれば戦うことになるというくらいは分かっているのだろう? 君にその力や技量があるようには見えないが、そこのところはどうなのだ?」

「あ、えっと、ダガーなどの短刀の類が使えます。草蔭蛇(グラスバイパー)野狼(グラスウルフ)森狼(フォレストウルフ)あたりなら群れでなければ駆除実績もあります。あとは感応術を少し……」

「……まぁこの年の少女にしてはかなりできる部類だが、護衛としては少し弱いか……」

 セオ様が小さく呟くように零した。覚悟や心構えは軽いと言われ、戦闘技術についても合格レベルには達していないと判断されてしまうと、いよいよ望みはないのかとまた俯いてしまう。

「それなんすけど、戦闘技術については大丈夫だと思うっす。エリナちゃん毎日のようにルカさんやアーヴさんと手合わせしまくってるんで、ガンガン伸びるんじゃないかなー、なんつって。」

 沈黙を破ったのはなんとも軽薄なエディル様の声だった。

「あと個人的な見解としては身軽さが強みですかねー。細身で体重も軽いみたいですし、すばしっこさだけならこの場にいる中じゃ多分最速っすよ。まぁ俺が鎧とか脱いだらわかんないっすけど。」

「エディル……時々村の巡回だと言って勝手に抜け出してたが、その時だな?」

 へらへらと笑いながら私のことについて言及したエディル様に、セオ様が呆れたように確認していた。

 村の外まで木箱を運んでくれたあとにでも見ていたってことだろうか。

「はははっ! そうっすそうっす。村の外に出たとこで毎日飽きもせずやってるんですもん。気になっちゃって~」

「その軽率な行動は困ったものだが、お前のその目は信頼できるからな……」

 セオ様がエディル様へ小言混じりに言うと、それまで無言でセオ様の後ろに控えていたノア様が口を開いた。

「ふむ……となるとエリナ嬢にはかなり荷が勝つ部分はありますが、最低限は役割をこなせるのではないか、というところでしょうか……正直なところ、戦闘技術に重きをおいているわけではないですし、採用はしますが報酬の大幅減は飲んでもらうしかありませんね。」

「まぁそのあたりが妥当なところか……」

「えっと……」

 一体どうなっているのか、理解が追いつかない。

 採用って言われた? ついて行けるってこと?

 混乱したまま固まっていると、微笑んで私たちを眺めていたミリア様が静かに私の隣まできて、しゃがみ込むようにして私の顔を覗き込んだ。

「ということで、渡してあげられる報酬はだいぶ減ってしまうのだけど、バルディアまで一緒に来てもらえるかしら?」

「えっと、一緒……? あ! は、はい! えっと、私エリナと言います! よろしくお願いします!」

 一緒にと言われてやっと状況が飲み込めた私は、慌てて立ち上がって返事とともに深々と頭を下げた。

 あぁ、良かった、何とか認めてもらえたと胸を撫で下ろす。

「こちらこそよろしくお願いしますね。さぁ、顔を上げてください。私はミリア=ロウラン。お嬢様の……あら?」

 しゃがみ込んでいたミリア様は、立ち上がりながら頭を下げたままの私の手を取って、顔を上げるように促したあとで、不思議そうな顔で動きを止めた。

「あらあら、よっぽどセオ隊長が怖かったのね。本当に怖い人……もう大丈夫よ。」

 くすくすと笑いながら、ミリア様がポケットからハンカチを取り出し、私の目元を優しく拭う。

「あ、あれ?」

 言われて初めて自分の目からポロポロと涙が出ていることに気がついた。

「ご、ごめんなさい! わ、私気持ちが昂っちゃうとすぐに涙が出ちゃうだけで……大丈夫! 本当大丈夫なので!」

 慌ててミリア様のハンカチを避けて自分の袖口で涙を拭った。

 安心したからって涙腺緩めてたら皆さんを困らせてしまうと焦る。

「あーあ、泣かせちゃった。隊長真面目に怖い顔で追い詰めるからっすよー。」

「なっ……私はそういうつもりでは……」

「エディル、それくらいでやめておけ。隊長も、諸々の発言の意図はこの場の全員が理解してますので、気にしないでください。」

 ノア様はエディル様とセオ様に苦言を呈すると、こちらを振り返った。

「まぁそういうことなので、エリナ嬢もあまり気にしないでください。依頼の詳細は改めて説明しますが、ルカ殿にでも共有してもらうと良いでしょう。ただ、我々が女性の護衛を求めた理由については、この後ミリア殿から説明してもらってください。」

 ノア様はセオ様とエディル様に「さぁ、移動の計画を詰めますよ。部屋に戻りましょう。」と声を掛けて三人で二階へ上がって行く。

 すると私の隣で三人が部屋に入っていくのを見ていたミリア様はこちらに向き直り、もう一度椅子に座るように促した。

「さて、それでは改めてエリナさん、貴女にお願いしたいことについて、説明させていただきますね。」

「はい! お願いします!」

 ミリア様は笑顔を絶やさぬまま、部隊が私に何を求めているのか、どうしてもらいたいのか、といった内容をゆっくりとわかりやすく説明してくれた。

 昼前になって、昼食を準備を始める時間になってしまったこともあり、昨日までと同じようにお弁当を作ろうと自室から出てきたリサに見つかってしまって、何事かと詰め寄られたりもしたが、何とかリサがお弁当を持って出かけるまでには一通りの説明を聞き終えることができたのだった。

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