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再誕世界のルカ  作者: 葦原 綾真
第七章 日常に差しはじめた影

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第三十三話 ルカの技術

「さすがに……この量は……重い……」

 剣、槍、斧……様々な武器が入った木箱をエリナが引きずっている。

 なぜそんなものを必死で運んでいるかというと、ルカとエリナ、アーヴの三人とリサという組み合わせで村を出てすぐの開けた場所で訓練するようになって二日。

 ルカ、エリナ、アーヴのうちの二人が手合わせし、残った一人が手合わせを観戦するという形での訓練を何度も繰り返ししていたのだが、ルカがメインの武器をダガーとショートソードで持ち替えながら手合わせしているのを見て、突然アーヴが言い出したのである。

「なぁ嬢ちゃん。嬢ちゃんの家ってあの雑貨屋だろ? 廃棄品の武器をいくつか、借りれねぇか? できるだけいろんな種類のものが欲しいんだけどよ。」

「え? あぁ、あると思うけど……」

 どれもこれも使い古され、刃が欠けたり、切れ味が鈍っていたり、武器としてはすでに寿命と言っていい状態のものばかりだが、確かにある。

 村の門番を担当している青年たちや定期的に村にくる国境警備隊の人たち、あとは旅人なんかが店で武器を購入した時に下取りや廃棄という形で店に置いていったものだ。

 一応は金属の塊なので、一定の量が溜まると隣街のリヴィエナに仕入れに行く時に持参し、鍛冶屋に再利用素材として売り渡すようにしている。

 普段はノリが軽く、表情も緩い感じのアーヴが、珍しく真剣な顔で言うものだから、何に使うのかなど疑問には思ったがとりあえず持ってくることにしたのだ。

「お、重い……」

「あれ? か弱い女の子がえらく物騒なもん引きずってるっすね? どしたんすか?」

 地面に線を描くようにガリガリと引きずっていると、中央広場を出たところでエリナの目の前に軽薄そうな騎士が顔を出した。

 騎士としては線は細めで、日が当たると少し緑がかった色に見える金髪、襟足の部分から一部だけを細い三つ編みで下げている。

 ややツリ目の三白眼で、明るい琥珀色の瞳をしている。

「あ、えっと……」

「あー、リサちゃんから聞いてないっすか? 俺はエディルって言うんすけど。あ、一応騎士やってまーす。」

 なんというか、騎士には見えない軽薄さだ。いくら田舎の村娘であるエリナでも、騎士としてはありえないとわかる。

「にしても女の子が運ぶのはキツイっしょ、それ。どこまで運ぶんすか? 俺運んであげるっすよ。」

 へらへらと笑顔を浮かべながら、エディルはエリナが必死で引きずっていた箱を軽々と持ち上げた。

「あ、いや、そんな騎士様の手を煩わせるわけには……」

 慌ててエリナが食い下がるが、エディルは全く気にした様子もなく箱を持って歩きだそうとする。

「まぁまぁ、遠慮はいらないんで。むしろ長々と陽だまり亭を貸切っちゃって村の人たちには迷惑かけてるんで、村の人たちのためになることはできるだけお手伝いするように~ってお嬢様に言われてるんっすよ。あ、運ぶのはあっちの方でいいっすか?」

 エディルは勝手にどんどんと話を進めてしまう。エリナは慌てて手伝いを断ろうとするのだが、目の前の騎士が矢継ぎ早に話しかけてくるせいで結局箱を取り戻すことができない。

 結局エリナがアワアワとしているうちに箱はエディルによって村の外まで運ばれてしまった。

「えっと、ここでいいっすか? お、リサちゃんもいたんすね。」

「あ、エディル様! あ、エリナの代わりに運んでくださったんですか? ありがとうございます!」

「あー、いいっすいいっす。で、そちらのお二人は?あ、俺はエディル。一応騎士やってまーす。」

 物騒な荷物を運んだ先で、顔見知りであるリサ以外に自分の知らない人間がいることに気がついたエディルが、またもや軽いノリで名乗る。

「えっと、こちらの筋肉が素敵な男性がアーヴさんです! あとあちらの男性はここ一か月程村に滞在されているルカさんです。あ、皆さんが村にいらっしゃった時に宿泊をキャンセルしていただいた方ですね。」

「あー、お嬢様の安全の為とはいえ申し訳ないっすね~」

 エディルは顔の前で両手を合わせてルカに向かって謝るようなポーズを取る。

 あんまり謝られている感じがしないような気もするが、ルカは少し困ったような顔をして答えた。

「別に構いませんよ。幸い野宿にもならずに済んでますしね。」

「そう言ってもらえるとありがたいっす。じゃ、俺はこれで失礼しまーす。」

 あっさりと踵を返し、片手をひらひらと振りながら、エディルは村の中へ戻っていく。

「あんまり人のこと言えねぇけど、えらく軽い騎士だな……」

 エディルの背中を見ながらアーヴが呟いた。他の三人も無言で頷く。

「リサ、エディル様って陽だまり亭にいる時もあんな感じなの?」

「うん。他の騎士様や護衛対象らしいお嬢様ともあんな調子なんだよね……」

「そいつぁすげぇな……」

 しばらくエディルの去っていった方向を眺めていたが、はっと我に返ったアーヴが箱の中を覗き込んだ。

「ショートソード、ロングソード、短槍、手斧、ダガー、ショートボウ、まぁまぁの種類が揃ってんな。よし、ルカ。」

 アーヴは箱の中に入っている武器から無造作にロングソードを手に取り、そのままルカに手渡した。

「ん? 何だ?」

「ちょっと気になることがあるんだ。それで一回手合わせしてくれるか?」

「まあいいけど……」

 何が狙いなのかわからないまま、ルカはアーヴからロングソードを受け取り、そのままアーヴとの手合わせを始める。

 ダガーやショートソードで手合わせしていた時と、間合いの取り方や立ち回りは違うが、ルカは特に違和感なくロングソードを操りながらアーヴと渡り合っている。

 アーヴも左手に持った大きめの盾でうまくルカの斬撃を防いだり逸らしたりしながら、ピンポイントで右手のロングソードを振るという極めてスタンダードな剣術をベースに戦っていた。

 時折盾で殴りつける、抑え込む、目隠しに使うなどトリッキーな使い方もうまく合わせており、彼には戦術の引き出しが多くあることがよくわかる。

 しばらく手合わせを続けたところでアーヴは攻めるのを中断し、自分のロングソードの切っ先を下げた。

「なるほど……ルカ、次はこっちだ。」

 アーヴは箱の中から短槍を取り出し、ルカに手渡した。代わりにロングソードを受け取って箱に戻す。

「アーヴ、何がしたいんだ?」

「ちょっと気になることがあってな。まぁしばらく黙って付き合ってくれよ。」

「……?」

 ルカはもちろん、エリナもリサも顔を見合わせて首を傾げている。

 仕方がないのでルカはアーヴに言われるまま、その後も短槍、手斧と獲物を変えながらアーヴとの手合わせを続けた。

 ショートボウについては肝心の矢がないので、射ることはできないが、とりあえず立ち回りや位置取り、射撃時の姿勢などをアーヴに見せ、挙句の果てには手持ちのものと箱に入っていたものとでダガーの二刀流やら徒手空拳までやらされる始末。

「いい加減何が目的なのか教えてくれてもいいんじゃないか?」

 とりあえず手持ちの獲物やエリナとエディルが持ってきてくれたものを一通り試したころ、ルカは怪訝そうな声でアーヴに問いかけた。

 ずっと二人の手合わせを見ていたエリナとリサも同じようにアーヴを見ている。

「んー……ルカ、お前どこでどうやってそれだけの技術を得たんだ?」

「は?」

 突然何を言い出すのか。

 問われた意味をはかりかねて、ルカは小さく首を傾げた。

 しかしアーヴがふざけている様子はない。

 エリナとリサもアーヴの問いかけの意味はわかっていない様子である。

「どうにも違和感だらけなんだよ、お前の戦闘能力。」

「違和感ってどういう……」

 ルカの表情が歪む。一体何がおかしいというのか。

 エリナとリサは顔を見合わせているが、表情には疑問符がついたままだ。

「ダガー、ショートソード、ロングソード、短槍、手斧、ショートボウ、そのどの武器種も得意不得意や好みのような戦闘技術の"差"が、全然見えてこねぇ。きっちりと測ったみたいに()()()()()()()()()やがる。でもって不自然なのはその戦闘技術がかなり高いレベルにあるくせに熟練の使い手みたいな"深み"みたいなのが見えてこねぇ。本来どんな鍛え方や経験の積み方をしてもそんなふうにはなるはずがねぇんだ。」

 アーヴは真剣な表情を崩さぬまま、自身が感じたルカの不自然さを口にした。

 アーヴの言う事は正しい。ダガーをメインにしている者はダガーが、槍をメインにしている者は槍が、それぞれ得意だったり好みだから使うのであって、それ以外の、特にタイプの大きく異なる武器種はうまく扱えなかったり技量が劣ったりするのが普通のはずだ。

 また技術が高いレベルになるまで習熟しているのであれば、相応の訓練や実戦の場を踏んできているはずであり、基本や教科書通りではない技や駆け引きなども組み合わせた立ち回りができるはずだ。

 しかしアーヴから見たルカの戦闘技術はそのどちらも当てはまらないのである。

「え?ルカってダガーとかショートソードみたいな間合いの短いのが得意なんじゃ……?」

「いや、あれは森っていう場所での取り回しのし易さで選んだだけだよ。」

 エリナが疑問を口にするが、ルカが小さく頭を振って答えた。

 正直なところ、この指摘については、ルカ自身も気付いていなかった。

 おそらく今日試した武器以外も同じなのだろう。実際サテライト周辺でセラフを試射したときもその衝撃の大きさなどに驚きはしたが、扱いに困ることもなければ、ちゃんと狙えばほぼ狙った場所を撃ち抜けていたのだから。

「(アリス……)」

『(はい……)』

「(これって多分だけど……)」

『(培養槽で調整された身体とB.N.I.C(ビーニック)のせい、でしょうね……)』

 サテライトからそれほど離れていないブレーヴェ村であれば、アリスとの遠隔通話ができる。おおよそ予想はついていたが、アリスへの問いかけに返ってきたのは肯定であった。

 ルカは自分の両手に視線を落とし、そのまま黙り込んでしまう。

「まぁ不自然ってだけで、犯罪行為に手を染めればそうなる、っていうような類のもんでもないから、言えないなら言えないでいいけどよ……」

 少し俯き加減になりながらアーヴは左手で頭を掻いた。

 エリナとリサもどう声をかければいいのかわからないと言った感じで困ったような表情を浮かべている。

「いや、心当たりはある。でもちょっと説明は難しいな。少なくとも今は話せる気がしない……すまない。」

 ラボ、培養槽、B.N.I.C(ビーニック)、アーヴやリサはおろか、サテライトを知っているエリナですらも知らない話が関係するこの話は、三人には説明できない。

「……そうか。まぁ考えようによっちゃすげぇオールラウンダーだってだけだし、深く考えるのはやめるか。こっちこそ変なこと聞いちまって悪かったな。」

「なんだか私はよくわかんないけど、つまりルカさんは何故かいろんな武器を上手に扱えるってことだよね?」

「んー、まぁそんな感じなんじゃないかな?」

 少し気まずそうにしているアーヴをよそに女子二人は適当に理解したつもりになっているようで、「すごいならいいんじゃない?」「ね~」などと話している。

「さて、私しばらく見てるだけだったし、ちょっとどっちか私と手合わせして!」

「しゃあねぇな、じゃあ俺が相手してやるよ。ほれ、準備したら掛かってきな!」

 すくっとエリナが立ち上がり、伸びをしながらアーヴと向き合う位置まで歩き、手合わせを始める。

 入れ替わるようにルカはリサの横まで戻ると、地面に腰を下ろししばらく自分の手を眺めていた。

 そうこうしているうちに傾き出した日は、もう少しで山際に沈みそうなくらいに落ちてきている。

 日没までの間、必死になって食い下がるエリナがアーヴから一本も取れないまま、その日の訓練は終了となった。

「あー、どっちからも一本取れる気がしないー!」

「また明日頑張らなきゃね~」

 女子二人が前を歩き、その後ろを男二人が追うように村に戻っていく。

 そんな四人の姿を、少し離れた場所にある建物の影から見ている人影があった。

 その人影は連れ立って歩く四人の中の一人を見ながら、小さく呟いた。

「ふーん……あいつが"ルカ=アストレイン"ねぇ……一応耳に入れておきますか……」

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