表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再誕世界のルカ  作者: 葦原 綾真
第一章 A.R.I.C.E

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/29

第二話 中央制御区画

 廊下を進み、中央制御区画の前へ向かう。

 今度の扉はスムーズなモーター音を響かせて、特に引っかかることなく開いたので、入口の縁に手をかけて部屋に入る。

 動き続けているからか、息は上がったまま整わない。肩で息をし、汗が滲み、激しく心臓が拍動する。

 部屋の右手に操作卓があり、操作卓中央の操作パネルが薄く光っている。

 また少し考え込むようにして、情報を引き出そうと試みると、ほどなくして操作方法など、必要な情報を引き出すことができた。

 パネル前にあった椅子にドカッと少し乱暴に腰掛けて、操作を行う。

「パネルに、触れて、システムを、スリープ状態から、復帰……」

 荒く呼吸を繰り返しながら、パネルを指でトントンッと叩くと、パネルの光が少し強まり、数秒後その画面上に様々な模様や数値が表示されていく。

 同時に正面の壁面にも光が灯り、青く《A.R.I.C.E》の文字が浮かび上がった。

『ルカ……』

 不意にアリスの声がした。

『ひどくお疲れのようですね。少し休みましょう。』

「もうちょっと体力があればな……」

 恨めしげな視線をアリスへ向ける。

 といっても姿はないので、見るのは壁面モニターの文字ではあるが。

『ごめんなさい。この後説明しますが、ラボやサテライトを含めたシステム全体の電力供給状態が悪く、ルカの培養プロセスを完了させるので精一杯だったのです。本来は体力も十分な状態で、貴方を送り出せるはずだったのですが……』

「いや、こっちこそごめん。ただのないものねだりだから。身体の組成って言えばいいのかな? 要は身体は普通の人間なんだろ?」

B.N.I.C(ビーニック)の件を除けば、ですが。』

「じゃあ適当に鍛えて普通になればいいだけだよ。」

『ふふ……ルカは優しいですね。クロード博士を思い出します……』

「あぁ……うん。そっか……」

 不意に出てきた父の名に、左手で頭を掻きながら呟いた。

 正直なところ、顔も声も知らないし、そもそも"思い出"と呼べる記憶がない。

 思い入れも感慨深さもないが、代わりに本来あったものを忘れてしまったような気がして、少し申し訳ない気がした。

『さて、では休憩を兼ねて詳しい事情も込みでラボの状況を説明しますね。ルカにとっては勝手に何を、と思うかもしれませんが……』

「それこそ両親の指示どおりなんだろ?まぁ聞くだけ聞くから、話してみてよ。」

『やはりお優しいですね。』

 どうだろうな? と肩をすくめて見せた。

『まず、このラボと世界中に点在しているサテライトがあることや、それぞれの施設が相互に接続され、地球規模の巨大な単一システムとして構成されているということは、先ほどまでに説明したとおりです。その数は全部で150か所あり、ここと同じようにシステムの根幹として稼働可能な施設が5か所、異なる目的が設定された特殊なサテライトが5か所。そして残りはすべて通常のサテライト拠点です。』

 壁面モニターに世界地図が表示され、青、緑、白の点が地図の至るところに配置される。しかし、パッと見たところ点の数は100はおろか50もない。

「150か所って言ってたけど、足りてないよな?」

『はい、長い時間が経ちましたので、いくつもの施設が地殻変動や海面上昇により役目を果たせなくなっています。青はラボ、北の大陸にあるのがここです。もう1つは南の大陸にあり、他はもう失われています。』

 世界地図には北と南にそれぞれ大きな大陸が表示されている。他は目立った陸地はなく、点在する島嶼地域がわずかにある程度だ。青い点は北の大陸の西部に1つ、南の大陸の東に1つ表示されている。

『緑は先ほど《特殊なサテライト》と申し上げたサテライト、便宜上セカンダリラボとしておきましょう。このセカンダリラボもすでに4か所失われており、北の大陸の中央東寄りに残るのみです。残りの白は通常のサテライト拠点ですが、ラボやセカンダリラボほど強固な地盤などの条件で設置場所を選定していませんので、70%ほどが何らかの理由で完全に沈黙しています。』

「で、残ったのがこのモニターに表示されてるやつってことか……」

 目を細めて地図を眺めていると、不意に白の点のほとんどがグレーに変化した。

『残りのサテライトのうち、今グレーになったサテライトは、死んではいませんが生きてもいません。何かしらの手段でそれぞれの反応の確認はできますが、周辺環境の情報通知もなければ、余剰電力の供給も行われていない状況です。』

 アリスが説明を続ける。グレーになったものを除くと、生き残っているサテライトはわずかに2か所。

「すごい状況だな……よく今まで持ちこたえたもんだよ。」

『いいえ、だからこそ、です。』

 だからこそ、とは? ルカの眉が跳ね上がる。

『ここまでの状況になったからこそ、ルカ、貴方の作成を決定し、実行したのです。』

「あ……なるほど。これ以上状況が悪化すると生命体の培養という処理が完遂できなくなるから、ってことね。」

『はい。本来はもう少し地球環境が改善され、世界人口の回復が見られたところで実行されるべきだったのですが、予想外に何度も隕石の落下や海底火山の噴火などが発生したため、地球環境の改善に想定よりも長い時間がかかってしまったのです。その結果ラボやサテライトの損壊が進んでしまい、貴方の育成環境の維持に支障が出る寸前まで来てしまいました。加えて貴方への対応後、セカンダリラボがその役割を果たすべく動く予定であることを考えると、リソースの余裕も時間的猶予もなく……あらゆる制御可能な事象をギリギリまで削ぎ落としつつ対応を進めた結果が、今なのです。空調システムや照明システムの停止も、貴方に著しく体力がない状況も、すべて。』

 罪悪感か、申し訳なさか、人工的な存在であるはずのアリスの声から、ルカへの謝罪ともとれる感情が滲む。

「まぁ今の結果については、アリスの責任じゃないし、ギリギリであってもなんとかなったのならその事実を喜べばいい。そのほうがずっと建設的だよ。」

 ところで、とルカは言葉を続ける。

「セカンダリラボってところは、何か別の役割があるんだろ?それがこれから動き出すのか?」

『はい。セカンダリラボは貴方の()()()()()の作成がその役割です。』

「はっ!? ぱ、パートナー!?」

 ルカが目を見開き驚きの表情を見せた。一体どういうことなのかと開いた口が塞がらない。

『私が無事貴方の作成を完遂したとして、その世界で同じ境遇の下、共に生きる人間がいないわけです。それは貴方に孤独を強いることになったり、子孫を設けるという種としての営みを妨げる、といった問題に直結する可能性があるだろうと考えられたのです。もちろんパートナーといっても、必ず共に生きなければならないわけでも、夫婦として子を成さねばならないわけでもありませんが、"この世界のどこかに似たような境遇の人がいる"ということはそれだけでも心強いだろう、というご両親のご判断です。』

「そ、そうか……」

 まさか自分の両親は勝手に結婚相手まで準備してたのか? と顔を引きつらせていたルカ。アリスの説明に無理矢理「共に生きるってだけだよな」と納得することにした。

 残念ながら、続けてアリスから『培養元の生体情報はルカと同じくご両親のものですので血縁的には妹となりますが、交配による問題は発生しないよう調整されていますので安心してください。』とまったく安心できないコメントに頭を抱えることになってしまうのだが。

 それならそれが常識だと思うように知識を与えてくれればよかったのに、倫理的にダメだと感じてるってことはやっぱダメだろ……と誰もいない虚空を見上げる。

『いずれにせよ、状況次第ではありますが、これから唯一残ったセカンダリラボ側で"彼女"の作成が始まります。期間は2~3年ほどと予想されますが、できる限り培養完了前に迎えに行くようにしていただけますでしょうか。現状の電力状況では1人で生きられるところまで十分な培養ができない状況になる可能性がないとも言い切れません。ご両親も、そして私も、できれば兄妹で生きていていただきたいと願っているのです。』

 懇願するかのようなアリスの言葉。もしかすると、アリス自身もこれまでの長い時を見守り続け、そして"培養"というプロセスでいわば"出産"を経験し、ある意味での"母"として子の行く末を思っているのだろうか。実体は人工的なプログラムではあるが、より人間的な応答が可能になるように、ルカのものとは異なる自立型環境制御システム用のB.N.I.C(ビーニック)が導入されている。

 心とも呼べるものに近しい何かを獲得していたとしても不思議ではない。

「わかったよ。迎えに行くようにする。」

 タイムリミットはおよそ2年。旅をするだけの体力をつけて、セカンダリラボまでの道のりを踏破しなければならない。相応にキツい旅にはなりそうだが、妹の命(というほど大層な話ではないと思うけど)が懸かっている。これは腹を括るしかない。

 とっとと迎えに行って、住みやすそうな場所でも探して、根を下ろす。

 そしたら後はまぁ、好きに生きれば良い。妹とやらも好きに生きて、いいパートナーの1人でも見つけてくれれば、両親もアリスも喜んではくれるだろう。

『ルカ、改めて本当にありがとうございます。』

 アリスの声音に少しの彩りと明るさが乗ったように感じる。どこかで嬉しいと感じているのかもしれない。

「気にしないでくれ。で、次はラボの状態を確認するんだったか。」

 パネルを指でなぞり、あるいは軽く弾くように叩いて必要な情報を確認する。

『はい。先ほどまでのお話で、このラボやセカンダリラボを含むシステム全体として情報収集機能も電力供給の機能もいずれもままならない状況になっていることは理解してもらえたと思います。そしてこれ以上のサテライトの喪失はなんとしても避けなければならないことも。しかしながら、3億年近くを耐え抜いたシステムは、すでに稼働限界を超えていますので、セカンダリラボの機能維持のために、主に電力供給系のシステムの復旧を手伝っていただきたいのです。まずは手始めにこのラボ内から対応していただけませんか?このラボ自体も電源区画の状態は悪く、ギリギリで稼働しているのです。』

 ため息混じりに大きく息を吐きながら、パネルを操作し、電源状態を確認できる画面に切り替えた。

「はぁー……仕方ないな。じゃあ確認してみるか……電源区画からの給電レベルが6%まで下がってる。ラボへの給電経路が5系統中3系統ダウン。残り2系統も外部からの受電状態が良くない。となると……」

『おそらくサテライトからの電力受電設備か、ラボ内発電設備からの電力供給経路、または発電設備そのものに問題があると考えられます。』

 ルカの独り言に続けるようにアリスが回答する。

 ゆっくり会話したこともあり、とりあえず動き回れる程度には回復したと判断して、椅子を立つ。

 ふぅっとひと息。ルカは電源区画の方へ向かうことにし、中央制御区画を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ