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再誕世界のルカ  作者: 葦原 綾真
第五章 サテライト

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第二十三話 暗転

 ルカの後を追うように、私は中央制御区画と呼ばれている場所までやってきた。

 私の足取りはひどく重い。なんだか思うように足が進まない。

 ここ、サテライトって言うらしいけど、昨日ここに来てからというもの、知らないものや不思議なもの、理解の及ばないものばかりで、地に足がつかないようなゆらゆらと心もとない感じがずっとしている。

 ルカがいないと通り抜けることができない土地神様の巨岩の窪みや、その奥の勝手に開く扉から始まり、サテライトに入ったあとだと、姿が見えないのに会話できちゃうアリスの存在や、火が付いてるわけでもないのに光る壁の線や天井の棒。

 雷と同じだっていう電気ってのも不思議だった。そういえばキッチンも火は出てないのに、お鍋は熱くなって、ちゃんと料理できたし、極めつけはあのセラフって銃とアイオン・バングルっていう腕輪。

 遠くから鉄の(つぶて)で敵を穿(うが)ち、手元の持ち物を見ることのできないどこかに片付け、持ち運ぶことができてしまう。もはや空恐ろしくすらあった。

 いや、わかるよ? 私が知ってる歴史よりもずっとずっと大昔にあったっていう文明が、実はものすごく発展していたらしくって、今の時代に生きる私たちには想像もできないようなことが沢山できてたってことは。

 最初は自分の興味の向くまま楽しく見聞きしてたんだけど、そういった事実がどんどん積み上がって、セラフの話の途中くらいからだんだん怖くなってきたの。

 私はこのままルカとアリスから旧文明に関わる話を聞き続けていてもいいんだろうか。そのうち今の世界を根底から揺るがしかねない話が出てきたりして、でもそれをルカ以外には話すこともできない、なんてことになったりするんじゃないか。

 そんなことを意識するようになってきて、言いようのない不安感にぞわぞわと鳥肌が立つ。秘密を抱え続けることを即断即決したとはいえ、軽々しく考えていたわけじゃないんだけど……まさかここまでとは。

 そもそも、このサテライトの作りや材質、建築様式からしてこの世のものとは思えない。どこか異なる世界にでも迷い込んだかのようにすら感じる。そんな風に考えると、私はここから自分の村に無事帰れるのかすら自信が持てなくなっていた。

 顔を伏せたまま、大きなため息を一つつく。吐息が妙に熱い。

 両手で自分を抱くようにしながら、震えそうになる身体を無理やり抑えつけて、中央制御区画に入ってすぐのところから動けないまま、ルカとアリスが話す内容に耳を傾ける。

「解析してみてどうだった?」

『いくらか分かったことがありますが、記録されたデータにおかしな部分がありまして……』

 少し言い淀むようなアリスの声。調査、上手く行かなかったのかな……きゅっと唇を噛む。

『気温データをはじめ、いくつかの情報が正しくないようです。』

 ラボって場所と今いるサテライトの場所はそれほど離れてないから、気温も似たような傾向になるはずなのに、記録がおかしいんだとか。

 情報が正しくないから、調査がうまくいかなかったとか……?

 そう言えばさっきからちょっと寒い気もするしなぁ……

「はぁ……はぁ……」

 少し額に滲む汗を拭い、口を小さく半開きにして浅く呼吸をしながら、どんどんと私を置いて進んでいく二人の会話を静かに聞く。

 聞く、とは言っても言葉の端々に私の知らない単語が出てくるし、やっぱり理解が追いつかない。

「気温というより、気象関係の観測データが軒並みズレてるのか……」

『はい。なので、暫定的にラボの観測データに近い値に調整して再解析しました。精度は若干落ちますが、解析結果のズレは許容範囲内です。』

「了解。で、結果はどんな感じ?」

 ルカはアリスの言葉をすらすらと理解して、話を進めていく。

 あぁ、またわからないや……

 もうその辺りからは、頭がぼんやりとしてきて、言葉が何か理解できない別の言語のように聞こえ、耳に入らなくなっていった。

『……その結果環境調整モジュールが……』

「……周辺の生態系全体に?」

 モジュールって何だろうなぁ……

 あとでわかりやすく教えてくれるかなぁ……

 アリスは上手に説明してくれるし、大丈夫だよね……

「……大熊(グリズリー)(フォレスト)……」

『……獲物になるものが……』

 なんだか視界が暗い気がする。照明って修理したんじゃなかったっけ?

 そういえば次、どうする予定だったっけ……

 解析結果って……聞いたっけ?

 あれ? 今聞いてる途中かぁ……

「……リナ?」

 えっと……えっと……

 何か、聞こえる?

「……エリナ!?」

 あれ? ルカ?

 ……呼んで……る?

 こちらを振り返り、心配そうにしているルカの顔に気付いた瞬間、私の意識はぷつりと途切れた。




 一瞬の暗転が過ぎ去って視界に光が戻ってきたけど、焦点が定まらないのか、目に映るものすべてがぼやけている。

 その視界の右半分は黒っぽい。左半分は何か動いてるのはわかるけど、それ以上のことはまだはっきりしない。

 右頬に触れるその黒い何かは固く少しひんやりとしていた。

 混乱して頭が回らないけど、身体が右に引き寄せられている感じがする。

 引き寄せられてる? 違う……私、横になってるんだ……

「……ナ!」

 視界の左半分で動いている何かから音がする。

 いや、音というか、声……かな?

「エリナ!」

 えっと、呼ばれてる?

 私を呼ぶ声がする方を向こうと、首を少し傾けてみるけど、そっちにしっかりと顔を向けることはできなかった。

 顔が動いたのはほんの少し。

 首だけじゃない。腕も足も、酷い倦怠感と脱力感で力が入らない。

「……ル……カ」

 ようやく焦点が合いだした視界に写ったのが彼だと気がついて、呼びかけようとしたけど、上手く声が出ない。

「びっくり……させ……て、ごめん……ね」

 ルカとアリスが話をしていたはずなのに、私のせいで止めてしまっている。

 大事な話をしていたはずだ。

「……すぐ……起きる……から……」

 邪魔しちゃダメだ。早く起き上がらないと……

『ルカ、室温センサーのデータを見る限り、エリナに発熱を認めます。まずは早く休ませてあげましょう。』

「あぁ、一度個室へ連れて行くよ。エリナ、ベッドまで運ぶぞ。」

 アリスとルカが言葉を交わすと、ルカが動けずにいる私の横へ膝をついて、そっと私を抱きかかえてくれた。

 中央制御区画から生活支援区画奥の個室へと連れて行ってくれる。

「ごめん……話の途中、だったのに……」

「気にすんな。それより今は休息だ。」

「うん……」

 ルカの腕の中で揺られながら、私の意識はサテライトの暗がりの中に溶けていく。

 足音に合わせて少しだけ感じる揺れが、熱や倦怠感で朦朧とする意識を揺り籠のように優しく、包んでくれているような気がした。

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