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再誕世界のルカ  作者: 葦原 綾真
第五章 サテライト

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第二十一話 アリスとの再会

 階段から先、少し通路を進んで、もう一枚の扉を抜けると、そこはまさに、ラボの中央制御区画と瓜二つの部屋だった。

 まだ一か月も経ってないというのに、妙な懐かしさを感じてしまう。

「なるほど、作りは揃えてあるのか……」

 ルカは部屋の入口で所在なさげにしているエリナを置いて、左手に見える中央制御区画の操作パネルの前へ移動し、それを指先で軽く叩いた。

 ラボの時と同様、パネルの光が少し強まり、パネル内にさまざまな模様や文字列が表示されていく。

 同時に正面の壁面にも光が灯り、今度は青く《G.N().O.()M.E.S()》と浮かび上がった。

「サテライトは手助けしてくれる小人ってところかな……」

 表示されているシステム名を見ながら、独りごちる。

 いずれにせよ、システムが稼働し始めたということは――


――Changing the system’s operation mode.(本システムの動作モードを変更します)


 反応が返ってきた。

 またもやどこからともなく響いてくる音声に、エリナが驚いてびくりと跳ねると、不安げにルカの元へ小走りで駆け寄ってくる。

「こ、この声、何なの……?」

「ここの主……いや、旧文明の亡霊かな?」

「ぼ、亡霊!?」

 もしかしてオカルト系の話題はダメなのか? 

 いつも明るく元気な様子のエリナだが、怖がっているのを見ていると、ちょっとからかってやろうかといたずら心が顔を出す。


――Searching for the main system via B.N.I.C identification code and attempting connection.(B.N.I.C識別コードからメインシステムを検索し接続を試みます)

――Connection established with A.R.I.C.E unit number three.(A.R.I.C.E #3との接続を確立しました)


「ひっ!」

 続けて聞こえるアナウンスに、エリナが小さく悲鳴を上げた。

 あまりに怖がって縮こまっているので、さすがにやりすぎたかとフォローしようとした時だった。

『お久しぶりですね、ルカ。亡霊呼ばわりとは感心しませんよ。』

 先ほどまでの無機質な音声とは変わって、今度は優しげな女性の声が聞こえてきた。

 今度の声はエリナにも()()()()()

「悪い。ちょっとからかってたんだ。久しぶりだな、アリス。ここで話せるとは思ってなかったよ。」

『ルカがサテライトのシステムを操作したので、自動的にこちらのシステムとつながったというだけですよ。それよりもルカ、私の知らない方がいらっしゃるようですね。ご紹介いただいても?』

 数週間ぶりのアリスとの会話。思いのほか嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。

「このサテライトの近くにあるブレーヴェ村に住んでるエリナだ。本当は連れてくるつもりはなかったんだけど、ちょっとトラブルがあって連れてこざるを得なくなったんだ。」

 ルカの背中に隠れたまま小さくなっているエリナを操作パネルの前に立たせてアリスに紹介する。

 操作パネルの前に立たされたエリナは、どうしていいのかわからず、いまだ縮こまったままだ。

『エリナさん、はじめまして。私はアリスと申します。誰かさんは亡霊だなんてひどいことを言ってますが、まぁこの施設内でだけお話できる妖精さんだとでも思っておいてください。』

「あ、はい……」

 意外にもフレンドリーに話しかけられ、恐怖感や不安感が和らいだのか、エリナは少し安堵の表情を浮かべている。

『ところでルカ。エリナさんにはどこまでお話してあるのですか?』

「兄弟のために旧文明の遺構を調査して回ってるってことにしてる。それ以外は特に何も話してないよ。連れてくる予定じゃなかったからな。」

『なるほど、嘘は言ってませんね。最低限の言葉でうまく話したものです。ではサテライトで確認してほしいことを伝えますので、ルカは対応してもらえますか?私はエリナさんとおしゃべりしてますので。』

 アリスはそう言って壁面モニター上に確認項目を列挙する。

 発電設備の状況確認から始まり、なにやらかなりの項目が並んでいて、見ているだけで気が滅入ってしまう。

「ちょっと多いし、左手も痛めてるから、先に休ませてくれるか? しびれだけだし、明日には回復していると思うから。」

『あら、仕方ありませんね。じゃあ今日は休んでください。設備の確認はその左手の状態が治ってからにしましょう。』

「そうするよ。じゃあこのサテライトのマップを見せてくれる?」

 アリスへマップ表示を頼む。すると壁面モニターの表示が切り替わり、サテライト内のマップが表示された。

 見る限り、ラボの構造とほとんど同じだ。違いと言えばラボでは生体培養室があった最奥の部屋が整備室になっているくらいだろうか。

「エリナ、今日はもう疲れただろ。こっちで休めるから、今夜はゆっくりしよう。」

 マップの確認を終えたルカは、エリナを連れて生活支援区画へと向かったのだった。




 中央制御区画の奥の廊下に出てすぐ、左手にある扉から入ると、そこが生活支援区画である。

 部屋に入ってすぐ左にはキッチン、正面にダイニング、壁側に収納やソファが並んでいて、奥には二つの扉があり、片方はシャワールーム、もう片方は寝室だ。

「まだまともに電気が通ってないから、明かりも非常用だし、シャワーも出ないけど、とりあえず休むだけならなんとかなると思う。」

「えーっと……電気って……何?」

「あー……そっか。」

 生活支援区画について軽く説明してみたものの、そもそもエリナには旧文明の常識がない。電気というエネルギーについても知らないのだ。

 ルカはダイニングにある椅子に腰かけるようエリナに促し、自身もその正面に座る。

 今日はそういう小話でもしようか、とまだ少ししびれの残る左手をさすりながら言う。

 エリナにしてみると、他言無用だの秘密だのと言われた手前、どこまで聞いていいのか躊躇っていた部分はあったが、話をしてくれるというのであれば、聞かない手はない。

「そうだなぁ……あ、大雨の時に光る"雷"あるだろ? 旧文明ではあれと同じものをいろいろな物や道具、施設を動かすための素として使っていたんだ。」

「え? "雷"を?」

「そう。あれは"電気"って名前のもので、旧文明ではその"電気"を使って部屋の明かりをつけたり、部屋や水を温めたり、逆に冷やしたり、あとはこの施設や部屋の扉も俺たちが触らなくても開いたり閉まったりするだろ? ああいうことがいろいろできるんだ。でもその"電気"を作ったり貯めたり、あとは運ぶって言えばいいかな? そういうところに問題があるみたいで、今この施設ではその"電気"がうまく使えない状態なんだよ。」

 ルカは言葉を選びつつエリナに説明する。電気や電力といった概念がまだないこの世界の人間に、これらを説明するのはなかなかに難しい。何気なく口にするエネルギーや機械、電子機器のような単語もこの世界の人間にとっては理解の埒外(らちがい)なのだ。

「うーん……なんだか難しいね。あんな"雷"みたいなもの、人が扱えるとは思えないよ。」

「"雷"だけ見てるとそう思うかもしれないけど、最初は本当に小さいところからスタートしたんだよ。例えば冬に服を脱ぐ時や金属製のものに触れるときにバチッとすることがあるだろ? あれも小規模な"電気"だしね。」

「え? あれもそうなの!?」

 自分の知らない世界や自然の仕組みや理論というものは、ある程度理解やイメージの及ぶ範囲で説明されると、まぁまぁ楽しいもので、エリナが元来持っている好奇心も相まって、話題はなかなか尽きない。

 気がつけば夜も遅い時間になっていたようで、見かねたアリスから早く寝るようにと小言を言われてしまうのだった。




 どれくらい時間が経っただろうか。

 寝室のベッドで眠っていたエリナが目を覚ました。

 仮眠程度のつもりではあったが、それなりにしっかり眠った気がする。

 上半身を起こし、軽く伸びをしてエリナはベッドから這い出た。

 ルカは寝室の外、生活支援区画内のソファで寝ている。昨夜寝る前にどちらがベッドで寝るべきか、お互いにかなり主張を戦わせたのだが、最終的にはアリスに『レディ・ファーストでしょう。諦めなさいな。』と言われ、二対一で負けてしまったのである。

「思い出したら悔しくなってきた……」

 ブツブツ愚痴りながら乱れた衣服を直し、エリナは寝室を出ようとそっと扉を開けた。

 おそらくルカはまだ寝てるだろうと思い、扉の隙間からソファの方を覗き見ると、ルカの姿はすでになく、生活支援区画内にも姿は見えない。

「あれ? もう起きてるのかな……」

 扉を全開にして寝室から生活支援区画に出たエリナは、もう一度部屋の中を見回すが、やはりルカはいない。

「うーん……いないや。えっと、アリスさーん。」

 昨夜中央制御区画で表示されていたマップはエリナも見ているが、実際に部屋を見て回ったわけではないし、マップ自体も正確に覚えているわけでもない。

 あまり一人で動き回るのは得策ではないと考えたエリナは、ダメ元でアリスを呼んでみることにした。

『おはようございます。お呼びですか? それと、私のことは呼び捨てで構いませんよ。』

 どこからともなくアリスの声が聞こえてくる。昨日はおっかなびっくりといった感じで聞いていた声だが、さすがにそれなりに会話するようになると慣れてくるもので、姿が見えないことも"そういうものだ"と思うようになり、抵抗なく話しかけられるようになってしまった。

「そ、そっか……じゃあ、おはようアリス。私のことも呼び捨てでお願いね!」

『ふふふ……わかりました。ではそのようにしますね。それでどうしたのですか? ルカでしたら、起きてすぐに発電設備の確認に向かってくれたので、今は向かい側の電源区画ですよ。』

「起きたなら起こしてくれればよかったのに……って、私が起きてても作業は手伝えないもんね。ねぇアリス、ルカって朝ご飯まだだよね? 食事作ろうと思うんだけど、キッチンの使い方教えてもらえるかな? 私の家のキッチンとは全然違って使い方がわからないから……」

『いいですよ。私にはルカに料理を振る舞うことはできませんから、ぜひ何か作ってあげてください。』

「うん、任せて!」

 少女と管理システムの奇妙な取り合わせの二人は、会話を楽しみながら、キッチンで朝食の準備に取り掛かるのであった。

 食材は村から持ち込んだものなので日持ちのする保存食ばかりだが、陽だまり亭でも腕を振るうことがあるエリナがキッチンの使い方を理解してしまえば、短い時間でも十分に美味しい料理を作れてしまう。

「それにしてもアリスってさぁ、何でも知ってるんだね。この旧文明の施設に関する話は当たり前だけど、施設の外の話も。昨日もいろいろ聞いたけど、王国の外のことまで知ってるんでしょ?」

 エリナは朝食の準備をする手を止めて、ふと気になったことを質問してみた。実はアリスの話を聞くようになってから、その知識量の凄さをずっと感じていたのだ。

 ルカも聞けばいろいろと教えてくれるし、十分凄い知識を持っているのは気付いていたが、アリスはその比ではないように思えたから。

『まだ秘密です。でも一つ言えるとすると、私の目と耳は世界中にあるんですよ、といったところでしょうか。』

 アリスは元々地球上のさまざまな場所にサテライトを置く巨大単一システムの管理システムだ。ラボやサテライトに設置された各種モニターやセンサーは施設周辺の人類の営みをずっと観察し続けていたのである。

 気候情報だけではなく、土地ごとの文化はどうなっているのか、新しい価値観や概念はあるのか、言葉は、文化は、風習は、文明はどう発展してきているのか……

 今となっては地球上のどの歴史学者よりも歴史に詳しく、どの文化人よりも文化・文明に明るい。さながらアカシックレコードとも言うべき存在である。

「ふーん……その秘密、いつか教えてくれるの?」

『どうでしょうか。私にとって、そしてルカにとって、貴女が全幅の信頼を寄せるに足ると判断できる時が来たら、お教えしましょう。』

 そう言いつつも、アリスはエリナにルカや自身の全貌を明らかにするつもりはなかった。すべてはルカの判断に任せるつもりなのである。

「うわ~、重いな~……でも思ってもらえる関係性って素敵だね! 覚えとく!」

 エリナは白い歯を覗かせて楽しそうに笑うと、気を取り直して朝食の準備を再開する。

 鼻歌まじりに料理を食器に盛り付け、ダイニングテーブルに並べると、その出来上がりを満足そうに眺めた後で、エリナは電源区画へとルカを呼びに生活支援区画を出ていったのだった。

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