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再誕世界のルカ  作者: 葦原 綾真
第一章 A.R.I.C.E

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第一話 ルカ

『貴方の名前は《ルカ》、フルネームは《ルカ=アストレイン》と言います。』

 不思議と違和感も拒否感もなく、それが自分の名前であるという事実は驚くほどすんなりと受け入れられた。

『お父様は生物化学分野の研究者だったクロード博士、お母様は機械工学分野の研究者だったファーミリア博士。貴方はそのお二人の生体情報を基に、今貴方が入っている箱である《培養槽》で私が創り出しました。』

 いきなりの衝撃発言ではあるが、なんとなく()()()()()。培養だのなんだのと言われ、不思議な箱の中にいる以上、そもそも自分を《人間》と言ってしまってもいいのかは疑問ではあるし、過去の記憶なんてなくて当然だ。

 驚きなのか呆れなのか、うまく感情をまとめることができず瞑目してしまい、動きが止まったルカをよそに、アリスが続ける。

『ところでルカ、これから色々と説明して差し上げたいのですが、肌寒くはありませんか? ここにはただの検査着しかありませんが、左の壁際にあるキャビネットに入っています。よければそれを着てください。』

 話しているうちに身体は乾いていたし、体温も少し上がってきた気がするが、気温は少し低くどうにも肌寒い。

 身体の奥底に冷気が纏わりついたままのような、そんな感覚。それにいつまでも全裸のままで話を続けるのはどうにも気恥ずかしい。

 その様子に気がついたのか、アリスが検査着の着用を勧めてきた。促されるまま、指定された場所まで移動し、丁寧に片付けられていた検査着と思しき服を着る。

 生地も薄く決して暖かいわけではないが、ないよりはマシだ。着替え終わるのを待って、アリスはゆっくりと説明を始めた。

 ルカ自身のこと、生まれた理由、この施設の詳細、外の世界の状況……

 語られる膨大な量の情報を、ひとまず理解しようと努める。

『――ひとまずはこのくらいでしょうか。内容を受け入れ理解するだけでもそれなりに疲れてしまうでしょうし、少し休憩にしましょう。』

 まったくその通りだと手で顔を覆い、大きくため息をつく。

「仕方ない。普通の人が俺と同じ年齢になるまでに蓄積する一般常識を、一気に詰め込まなきゃならないんだと思って諦めるよ……」

 ルカは表情に少しの悲哀と諦念を浮かべ、天を仰ぐのだった。


 ◇◇◇


 長く続いた説明の後、小休止をとりながら、ルカは大きくふぅと息を吐いた。

「ルカ=アストレイン、父はクロード、母はファーミリア。文明崩壊寸前の地球にラボを作って自分たちの子どもを未来の世界に送り込む、かぁ……」

 アリスの説明を反芻する。

 要約してしまうと、西暦3800年代末期に地球環境は限界を迎えて文明もろとも崩壊。太陽系外惑星に移住した者もいるらしいが、残った人類や動植物はほとんど死滅している。

 当時の人類に先がないことを予見していた両親は、文明崩壊後に長い時を経てまた地球環境が回復すると信じて、このラボや関連施設を建造したらしい。

 自分たちの子どもが遠い未来で生まれ、生きていけるようにと綿密に準備し、ラボのシステムであるアリスに培養という手段を与え、ルカを未来へ送り込んだのだという。

 しかも父クロード博士は、子どもが生きるのに困らぬようにと、手ずから設計したバイオチップとも言うべき器官を作成し、脳の隙間に埋め込まれるように準備していた。

 バイオチップとはB.N.I.Cビーニック、正式名称はBio-Neural Integration Chipといい、生物由来の生体組織を素材に構成されたもので、これには両親の生きた旧時代の膨大な知識や、ラボの外部施設サテライトというらしいから得られた情報の一部が記録されており、ルカが記憶・知識の「引き出し」を試みることでそれから情報を得ることができるのだという。

 ただし、B.N.I.C(ビーニック)内には様々な知識は記録されているが、名前をはじめ個人に関する情報は含まれていないらしい。そのあたりは人格形成に深く関わるからと故意に除外されているのだそうだ。

 他にも身体調整機能や思考補助機能など、いくつか機能があるらしいが、今は置いておくことにする。

「さっきの頭痛の原因、チップのせいなんじゃないの……?」

 小さくぼやきながら部屋をもう一度見回す。

 うっすらと埃はあるが、総じて室内は小ぎれいだ。

 ちなみに謎の質感の壁はラボの構造全体にわたって同じ素材が使われていて、1億年以上を耐えうる素材を選定しているのだという。

 アリスの説明だとラボの施設全体にわたって超高純度のシリコン化合物やジルコン鉱物を加工したものなどが使われていると説明されたものの、さすがによくわからなかった。(B.N.I.C(ビーニック)にもそこまでの知識はなかった)

 何にせよ、両親は文明崩壊後に再度人類や他の生命体が生きていける状態になるまでに長い時間がかかると考えていたようだ。

 結果、3億年くらい経っているらしいけれども。

「3億年とか途方もないな……想像もつかない……」

 とりあえず、アリスには「中央制御区画」に向かうようにと言われていることもあり、ルカは部屋の入口と思われる扉の前に歩みを進めた。

 扉は床と同じ青白く発光するラインで縁取りされた壁のように見える。扉だとわかるが、取っ手のような突起やくぼみはない。

 扉から小さくモーター音がしてスライドしようと動き出したが、半分ほど動いたところでガッと何かに引っかかったのか止まってしまった。

 長い時を経過しているのだし、完全に動作するほうがすごいと考えるべきか。

 幸い隙間からは十分抜け出せそうなので、廊下に足を踏み出す。

 扉の外は廊下が真っ直ぐ伸びていて、その足元の中央には先ほどの部屋の中にあったような青白いラインが淡く光りながら伸びている。

 動き回る分には十分な明るさだ。

 出てきた部屋の中を一瞥してから、廊下の先を見る。

 ラボの構造はアリスから聞いている。至ってシンプルだ。

 生体培養室はラボの最奥であり、その正面から伸びる廊下の左側には電源区画と資材・記録保管区画、右側には生活支援区画に続く扉がある。

 その先の突き当たりにはもう1枚の扉があり、中央制御区画、さらに先の通路を抜けると外界に出られる、とのことだった。

「まずは中央制御区画の操作パネルで施設設備の稼働状況を確認しろ、だったかな。」

 服は着たものの、足元は裸足のままだ。ひたひたと廊下を進むが、床はひんやりと冷たく、足の体温が徐々に奪われるのがわかる。

 ふと生活支援区画とやらに履物の1つもあったりするんじゃないかと思いついた。もしそうなら中央制御区画よりも先に寄っておきたい。

「アリス、さすがに足が冷たいんだけど、生活支援区画とかに何かないか?」

 虚空に向かって話しかけると、アリスが答えてくれる。

『一通りの衣服や靴ならあるはずです。自由に使って構いませんよ。』

「わかった。じゃあ先に着替えに寄るよ。」

 アリスの答えを受けて、ルカは右側の生活支援区画に通じる扉の前に進む。

 先ほど同様扉が開こうと動き出すが、こちらの扉はほとんど開かない。

 かろうじて数センチ程度の隙間はできたので、指を入れて強引に引いてみる。

――ガリガリガリ……

 硬い物が擦れるような音がしたが、なんとか扉をずらして開けることには成功した。

 ただ、覚醒したてだからなのかとても身体が重い。

 すでに肩で息をしているような状況だが、なんとか身体を通せる隙間を作り出し、部屋の中へ進む。

 入口を入ってすぐの壁際に照明のスイッチを見つけたので、操作してみたが、反応はなかった。

「ダメか。電源設備に問題があるんだっけ。」

『はい。ですので現在照明システムへの給電は停止していて、区画内照明は利用できません。』

 そう言われて、アリスの説明を思い出した。

 現在ラボの電源設備には問題があり、電力は必要とする量にまったく足りていない状況なのだという。

 そのため、ラボ内の最低限必要なシステムやモジュールだけを生かし、ほかをすべて停止状態にすることで、かろうじてラボの動作を維持している。

 仕方なく非常用照明だけが照らす薄暗い室内でいくつかの収納を漁り、衣服や靴を見つけて着替えることができた。

 黒の長袖とパンツ、ブラウンのベルト。加えて父か母が着ていたかもしれない白衣を羽織る。

 靴はブラウンのトレッキングシューズ。少しサイズの合わないものもあるが、贅沢は言えない。

「まぁでも、これで、だいぶ快適に、なったな……」

 やはり体力のなさは酷い。着替えるだけでも息が上がる。ふと漏らした言葉すら途切れ途切れになるほどだ。

 部屋の中にはまだ見ていない部分もたくさんあるが、先にアリスの指示どおり、中央制御区画へ移動しようと足を進める。

 そうして廊下へ出ようと扉の隙間に対して半身になろうとした時だった。

「あれは……?」

 部屋の奥の方に設置されたテーブルに何か板状のものが見えた。黒っぽい光沢のある質感。脳の奥底から情報を引き出してみて、旧時代の情報端末だと理解する。

 不思議な「記憶・知識を引き出す」という感覚にはまだ慣れないが、そうやって引き出したのが「旧時代の情報端末」という情報だった。

 操作方法なんかも理解できている。

 大した存在感もなく、無造作にテーブルに置かれているだけだが、不思議と視線が吸い寄せられてしまうのは気のせいだろうか。

 端末を横目に動きを止めて少し思案していたのだったが、現状ではバッテリーの電力も枯渇しているだろうし、動作はしないだろうと結論づけた。

「電力が先だな……」

 今はそのタイミングじゃない。触れても肝心の端末は動かないはずだ。

 ルカは(かぶり)を振って思い直し、部屋を後にした。

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