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再誕世界のルカ  作者: 葦原 綾真
第四章 北の森

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第十七話 土地神様の巨岩で

「あ、土地神様の巨岩だ……」

 そこはエリナの幼い頃に見た風景と同じく、森の中にぽっかり空いた空間に、とても大きな岩が鎮座していた。

 その手前には、昔村人たちが祭壇代わりに使っていた木製の台があったが、長い間手入れもされず、雨風に晒されたためか腐って壊れている。

 岩の周囲はこれまで大量に生えていた木はなく、比較的背の低い草が生えているだけで、見通しは悪くない。

 藪から顔を出すようにして周囲を伺っていたエリナが、視線を巡らせ警戒しながら一歩ずつ踏み込み、その後ろにルカが続く。

「本当に巨岩の回りだけ空間が空いてるんだな……」

「うん。なぜだかはわからないんだけどね。」

 木々がないからか、森の中とは打って変わって気持ちの良い風が吹き、優しく頬を撫で、青々とした草原の匂いが鼻腔をくすぐる。

 風が薙ぐのに合わせて草が擦れる音が心地いい。

 ほんの数秒ほどでしかなかったが、二人は悠然と佇む巨岩を目に、立ち尽くす。

 それと同時にルカは奇妙な偶然とも言うべき事実に気がついた。

「(……サテライトの座標も()()なのか)」

 季節、時刻、太陽の位置、それらから計算されるサテライトの位置。それは()しくも土地神様の巨岩と呼ばれるそれと同じ場所であった。

 それを示すかのように、ルカの頭の中では小さく金属の響くような音が聞こえていた。いや、実際に何か音が鳴っているわけではないのだが、超音波めいた音が鳴っているように聞こえるのだ。

「とりあえず、巨岩の回りを一周見てみようか。」

「うん……」

 膝にかかろうかというくらいに伸びた草を踏みしめ、二人はゆっくりと巨岩の方へ進んだ。

 左右に視線を巡らせながら歩いていると、いろんな場所で草が押し潰されたような跡が目に飛び込んでくる。

 茎や葉が折れているが、色は鮮やかで、折れてからさほど時間は経っていないのではないだろうか。

「何かいるのか……?」

「うん、多分それなりの大きさの()()が座ったのか伏せてたのかだと思うよ……」

 エリナの見立てはおそらく正しい。そしてその予想は当たるとマズい。

 日が傾き始めているが、早めに撤収を考えねばならないかと思考を巡らせていると、唐突に足先にコツンと硬い感覚が伝わってきた。

「ん? 何かある?」

 身を屈め、足先がぶつかっただろう場所の草を除けてみると、地面から黒い金属のようなものが筋状に見えていた。

 軽く触れてみるとやはり金属然としているが、鉄のような臭いがするわけでもなく、具体的な組成はよくわからない。

「あれ? これ何だろ?」

 数歩先を歩いていたエリナも足元に何か見つけたようで、不思議そうに地面を見ている。

「もしかして、筋状の金属っぽいのがあったりするか?」

「あ、うん。黒い筋状だよ。」

 どうやら同じものがあったらしい。周囲の草を軽くはね、見回してみると、そこかしこで似たような物質が地面の表層部分に露出している。

 それが一体何なのか、二人には見当もつかないが、ルカは妙な既視感を覚えていた。

 ただ、その既視感が何から来るのかまではどうにも思い出せそうにない。

 一旦この金属のような何かについては、置いておくことにして、二人は巨岩の周辺をぐるりと回ってみることにした。

 巨岩に近寄ると、先ほどから聞こえる超音波めいた音が少し強く感じられるようになってくる。

 足元には相変わらず先程の金属のようなものがあるのは変わらないが、巨岩の表面自体には怪しいところは見受けられない。

 ただ、正面から左に向かってぐるっと見て回り、真後ろを過ぎた辺りに来た時だった。

「あー、なんかこんな窪み、あったなぁ……大した深さじゃないけど、兄さんとかくれんぼしてここに隠れてたっけ。」

 巨岩に人一人が入れそうなぐらいの大きさの窪みがあり、エリナは懐かしそうに微笑みながら眺めている。

 そしてその様子を見ていたルカは、自身の推測が正しかったのだと確信を持っていた。

 そう、サテライトである。座標の一致、人の入れそうな窪み、間違いない。

 B.N.I.C(ビーニック)を持つルカが近寄れば、そのまま中に入れるだろう。

 そうなるとサテライトの出入りをエリナに気付かれないように行うことはできない。

「(やっぱりこのまま村に戻って、後から一人で来るしかないな。)」

 村に戻るとなると、何かしらエリナが納得できる情報を得る必要がある。今のところ地面に黒い金属のようなものが見えるということはわかっているが、それだけではエリナは納得しないだろう。

 お誂え向きに"地面の黒い金属のようなもの"はあるわけで、何か都合の良い解釈ができないかとルカは考えを巡らせる。

 騙すようでいい気はしないが、日が暮れる前にここを離れ、昨日の野営地まで戻っておきたい。ところどころ踏み潰された草、その原因、ルカの脳裏に回避すべき事態がちらついて離れない。

「ダメだ。エリナ、今はとにかくここを離れよう。」

「え? でもまだ……」

 ルカの目はエリナの目をまっすぐ射抜くように見つめている。有無を言わさぬ威圧感すら感じるほどだ。

 ルカの言わんとすることはわかる、エリナも当然ルカが何を懸念しているのかを理解している。

 けれど、二年間ずっと待っていた瞬間を迎えたところだったのだ。目の前に立つルカと背後の巨岩。エリナは双方を何度か見やった後、キュッと唇を噛みながら小さく頷いた。

「うん……わかった。」

 今回、ルカについてきただけではあるが、ここまで来ることはできた。ルカ自身の都合もあるだろうが、()()と言ってくれた。野営を挟んで明日、それか後日頼み込めばもう一度くらいは連れてきてくれるかもしれない。それが無理でも今回の実績を訴えれば、有志を集めてもう一度来ることが計画できるのではないか。

 次は、次こそはと強い思いを抱えながら、エリナはもと来た道に戻るべく、巨岩の外周を回りだした。

 急ぐ理由は分かっている。歩みは決して遅くない。エリナが茂みに空いた道への入口に向かって巨岩から離れようとした時だった。

 エリナの後ろについていたルカの視界の端、二人が切り開いた道では無い場所から、黒い影が飛び出した。一直線にエリナの方へ移動している。

「エリナ! 右だ!」

 唐突に後ろから聞こえた警告にエリナが右を向く。目の前に迫っていたのは一匹の森狼(フォレストウルフ)。その後ろにも二匹続いている。

「きゃあっ!」

 足を止めて森狼(フォレストウルフ)から顔を背けるようにエリナは上半身を左に捻る。

 回避行動が早かったのか、飛びかかってきた森狼は、エリナの右腕をかすめるように彼女の横を通り過ぎた。すれ違う瞬間に森狼の左手がかすったのか、袖口の辺りが大きく裂けている。

 裂けた服の下に見える白い肌には赤い筋が見え、服の避けた部分に血が付着しているのが見えた。咄嗟のことにエリナは森狼の攻撃を避けきれなかったようだ。

 足を止めたエリナの進行方向を塞ぐように、後から付いてきていた森狼がエリナの前に立ちふさがる。

「下がれ!」

「う、うん!」

 慌ててエリナが数歩下がり、入れ替わるようにルカが前に出る。 

 ルカはすでにショートソードを抜剣して身構えていた。エリナもすぐにダガーを手にする。

「……最悪だ。」

 ルカの表情が歪んでいる。森狼(フォレストウルフ)数匹であれば、道すがら何度か戦って来たし、言ってしまえば楽勝だった。戦うためのスペースが十分にあり、一直線上に並んでいないという二点以外はこれまでの戦闘と違いは無いはずだが、それにしてもルカの表情は暗い。

 何か違うのだろうか? とエリナが訝しんでいると、ルカが小さく呟く。

森大熊(フォレストグリズリー)もいる。」

 ルカが顎先で森狼(フォレストウルフ)の来た方を指し示す。

 エリナがそちらへ視線を向けると、さらに三匹の森狼(フォレストウルフ)と共に、バキバキと草木をへし折りながら茂みから巨体が顔を出した。足を踏み出す度に地面が小さく揺れているのではないかと錯覚するほどの大きさと威圧感。

 落ち着いた暗い茶色の毛皮をまとい、エリナの身体ほどはあろうかという太さ腕からは太く鋭い爪が伸びている。その辺りに生えている細い木や人の腕くらいであれば、あの爪を無造作に振るうだけで十分切り落とすことができるだろう。

 それがなくとも分厚い筋肉で覆われた腕があれば、人間など撲殺でも圧殺でも自由にできると見ていい。

「……こいつら、なんで共存してんだよ。本来敵対関係だろ……」

 ルカが歯噛みしながら吐き捨てるように呟いた。

 そう。本来森狼(フォレストウルフ)森大熊(フォレストグリズリー)は共存関係には無く、縄張りや獲物を巡って敵対的な関係であることが知られていた。敵対しないまでも縄張りを分けてお互いに接触を避けることはあっても共存し協力して狩りや襲撃を行うなど、ルカの知識には無い。

 だが、目の前の現実は違っていた。お互いに警戒したり牽制しあってる様子は無く、何なら後から出てきた森狼(フォレストウルフ)三匹は森大熊(フォレストグリズリー)の周囲に(はべ)るようですらある。

 離脱のタイミングを逸し、猛獣の集団に見つかり、退路を塞がれ、彼我戦力差は二対七。そのうち一頭は確実に一撃で人間を(ほふ)ることができる怪力の持ち主だ。

 ルカだけならうまく立ち回って戦況を維持できる可能性はあるが、エリナは森狼(フォレストウルフ)と一対一で向き合うのが限界だ。二匹以上を相手とすることになれば、ひたすら回避に専念するしか無い。

 何とかルカに注目するよう引き付けて、エリナを逃がせないかと逡巡するも、そのプランの達成も難しそうだ。退路を確保するために進路を妨害している3匹を相手にしているうちに、他が来てしまう。その時点で森大熊(フォレストグリズリー)が相手に加わり、エリナへの支援は絶望的だ。

 どう動くことが最善なのか。ルカは必死に考えを巡らせる。

 時間はない。森狼(フォレストウルフ)たちは低く唸り声をあげながら、今にも飛びかかってきそうな勢いだ。森大熊(フォレストグリズリー)もゆっくりだが、距離を詰めてきている。

 背後のエリナはダガーを手に表情を引きつらせたまま立ち尽くしていた。ダガーの切っ先が小さく震えているのがわかる。

 ルカは一つだけ深く深呼吸をして、視線を猛獣たちに向けたまま、左手に持っていたバッグを後ろに差し出した。

「エリナ、ダガーは(さや)に仕舞え。戦闘開始と同時に二人分の荷物を持ってひたすら距離をとって回避に専念するんだ。できるだけ全体を視界に捉えられる位置を確保しろ。特に森大熊(フォレストグリズリー)からは絶対に目を離すな。《敏捷性強化(アジリティ)》は使えるな? 他の感応術は一旦全部忘れるんだ。」

「え? あ、うん。わ、わかった。」

 指示は戦闘ではなく退避だった。エリナは震える手でダガーを(さや)に戻し、ルカのバッグを受け取ると、自分のバッグとひとまとめにして抱え直した。

 震えは収まらないが、明確な指示のおかげでやるべきことだけははっきり理解できている。その瞬間が来ても動けるように、エリナは感応術の発動にむけて集中力を高めていく。

「行くぞ!」

「うん!」

「「《敏捷性強化(アジリティ)》!!」」

 二人は同時に感応術を発動し、戦闘を開始したのだった。

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