8.授賞式
2週間後、俺は亀井を連れて東京まで車を走らせた。
高速道路と首都高でやってきたのはお台場だ。
___お台場なんて、学生以来だ。
俺は本気で科学者を目指していた学生時代を思い出す。よく東京にもいってたっけ。
「ここらしいです。」
制服の亀井は、スマホ片手に建物を指さした。
俺のスマホのナビには、亀井の指さす建物は『科学未来展示館』と書かれている。
テレビのロケや、宇宙から持ち帰った石などがある、国内屈指の大型博物館だ。
中に入ると、関係者用受付の警備員にスマホの画面を見せた亀井が
「先生、こっちです。」
と手招きをして、関係者入口を躊躇なく進む。
…ちょっとは躊躇うだろ。ふつうは。
俺は少しだけ緊張して、関係者用通路に入りこんだ。
会場は、思ったよりも広く、どこか見慣れたような風景であった。
__学校の始業式の雰囲気に似ているな。
会場内を見渡すと、一番後ろのあたりに、夕日テレビや物売新聞など、有名なメディアの名前が書かれた腕章をつけるカメラマンがぎゅうぎゅう詰めになっていた。
生放送とかされてるんじゃないだろうか。俺は隣の亀井を盗み見る。
亀井はいたって平然としていて、バッグおいてきますね。と廊下に出て行ってしまった。
はあ…、落ち着かないな。
俺は保護者席と書かれた席に座り、慌ただしくカメラを準備するカメラマンたちを眺めていた。
亀井はすぐに戻ってきて、
「すぐ始まるらしいです。」
と俺に声をかけたら、会場の前の方に行ってしまった。
亀井の言った通り、会場は暗くなり、檀上だけが明るく照らされた。
「只今より、第89回、全国科学作品コンクール、授賞式を開会いたします。まずは会長からのお言葉です。」
「えー、みなさん。この度はコンクールに参加していただきありがとうございます。そして、この場にいるみなさんは、おめでとうございます。きっとみなさんはこの日のために…」
美人な司会のお姉さんと、下げ目でいかにも優しそうなおじいさんが壇上にあがった。
おじいさんの長々とした話のあと、下の方の賞から順番に名前が呼ばれた。
呼ばれた人は、その場で立ち上がるようだ。
物凄い緊張感が走り、会場には嗚咽や鳴き声が響く。
___地獄だな。
俺は顔をしかめた。ここで砕ける夢もあるのだろうな、_俺のように…。
「最優秀賞、長野県立梶隆高等学校、中井優生さん、茨木信康さん。」
10分ほどたち、下の方の賞から、世間から期待の目が浴びされる上の方の賞発表に移った。
名前を呼ばれたらしい二人組は、少し悔いが残っていますとでも言いたげな表情で壇上にゆっくり上った。
先ほどの地獄の雰囲気が少しだけ和らいだようだ。いや、まだ鳴き声は聞こえるのだがな。
亀井の名前はまだ呼ばれていない。一体どんな賞を取っているのだろうか、そもそも、何を出したのだろうか。いろんな気持ちや考えが、頭をよぎる。
なんだか手が気持ち悪いなと思い、俺は自分の手のひらを開くと、中は汗でびちょびちょになって、
皮膚がふやけていた。思いのほか、相当空気に充てられていたようだな。額からもたれてきた汗を手でこすって、こぶしを握りなおす。
ここから、メディアやいろいろな会長賞が発表されていった。
次々と壇上に人が上っていくが、亀井はまだ呼ばれない。
「…続いて、環境大臣賞です。」
とうとう大臣賞まできてしまった。亀井はいつ呼ばれるのだろう。ここまで来たのなら…、もしかして・・・
「環境大臣賞、私立井ノ原学園、柚木実さん、天野風さん。」
「科学技術政策担当大臣賞、青森県立秀和高等学校、小田原翔さん。」
周囲がざわめき始める、俺はチラシをカバンから取り出して、改めて賞の確認をしてみる。
あとは…、文部科学大臣賞と内閣総理大臣賞だけだ。
内閣総理大臣賞に選ばれると、国際的な科学オリンピックの出場権が得られるらしい。
__選ばれる賞がどちらかで、彼のこれからが大きく変わるってことか。
…けれど。亀井はきっと文部科学大臣賞のほうであろう。
亀井がいくら天才だからといって、バカに時間を割いていたのは痛手だ。
一応、科学部でも作品を作っていたわけだし、たとえ文部科学大臣賞であっても、亀井一人でよくやった、というより素晴らしい結果だと思うぞ。
大人を頼ればよかったな。亀井。
まだ発表すらもされてはいないが、俺は最前列付近の亀井に向けるように、頭の中でそうつぶやいた。
「では、文部科学大臣賞です。受賞者は、__柳高等学校、坂上美玖さん、矢野雄志さんです。」
どっと、会場の空気が暖かくなったような気がした。
女子の方が泣いているのか、もう一人が誘導するようにして小さな階段をのぼる。
_ってことは、亀井は、内閣…総理大臣賞!?
俺は目を剥いた。
「内閣総理大臣賞は、滋賀県立明春高等学校、井上圭太さん、宇野一花さんです。」
わーっ!と保護者席の一部から歓声が上がり、呼ばれた二人は泣きながら立ち、壇上に向かって歩き始める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!まだ、うちの生徒が呼ばれていないぞ!!」
俺は思わず立ち上がり、大声で叫んでしまった。
場の空気がしーんと静まり返り、会場にいる大勢の視線を浴びる。
「…じつはぁ、少しばかり事情があってね。もう一つ賞を作ることにしたんですよ。」
会場の片隅に座っていた、会長のおじいさんがゆっくりとしゃべりだす。
「我々が審査を進めている中、これは、と思ってね。なんと、まだ科学界で誰も答えにたどり着けていない難問の答えを、彼らはあっさりと出していたのですよ。」
会長の言葉に会場内がざわつき始める。
うそでしょ?こんな子供の大会で?いろいろな声が聞こえるが、会長がゴホンと咳ばらいをすると、みるみる声が消えていった。
「彼らを内閣総理大臣賞にするのでも良かったのですが、私は、彼らにもっと期待をかけたかったので、__国際ルーキーズ科学賞というものを作ることに決めました。」
…国際ルーキーズ科学賞?どういうことだ?
それよりも、歴史的発見ということは、亀井は雲の実験レポートを提出したんだな!?
__まさかっ!!
俺は目を見開いた。
「国際ルーキーズ科学賞、受賞者の高橋勇気くん、亀井義之くん、前に出てきてください!」
会長の指名に、元気よく立ち上がった2人に俺は驚愕した。
な、なぜ、高橋が!!
「では、国際ルーキーズ科学賞を受賞した、高橋勇気さん、亀井義之さんから、コメントをいただきたいと思います。」
壇上に立った高橋と亀井に、司会者がマイクを向ける。
「賞を受賞出来て、とてもうれしく思います。」
亀井が司会者からマイクをもらい、
制服のポケットをごそごそと探りながら話し出した。
「僕たちが発明したのは、『人の心を聞く装置』です。」
亀井は何かを取り出して、頭の上に掲げた。
__あれはっ、亀井がよくつけていた『補聴器』じゃないかっ!!
「高橋君と初めて会ったときに、”人の思ってることってたまぁーに聞こえるよな?”と問いかけてきたんです。僕は、それに感銘を受け、脳の電気信号に、何か特殊な音が入っているのではないかと仮定して、いろいろな実験をしました。その過程でできたのが、こちらです。」
周囲がざわめき始める。
もし、本当に心の声が聞こえていたなら…、俺が高橋に言ったことも…。
俺はぎりりと奥歯をならす。
「これをつけてある人と対話したら、口も、のども動いていないその人の声が聞こえました。そのあとは高橋君と一緒に、試行錯誤し続けました。…そして、完全品を作ることが出来ました。提出したのはそちらの方です。」
ありえない、だの、本当なのか、だの…、様々な声が飛び交う。
「これは、高橋君がいないとできなかったものです。高橋君は…歴史を動かす”天才”なのだと、そう思ってます。これからも、高橋君と、たくさん実験していきたいです。」
綺麗にお辞儀をする亀井に、たくさんの拍手がおくられた。
そんな亀井を、口を開けたまんまにして凝視していた高橋は、
「…、そんなこと、初めていわれた…、あっ、ました…。お、俺も、亀…井くんと一緒にものづくりして、めっちゃ楽しかったし、亀井君はすっ…ごくいい人だったから、その…、やっぱりすっごく楽しかったです。もっとものづくりしたいなって思いましたっ!」
涙声になりながらも、最後まで言い切った高橋は、亀井と同じようにお辞儀をした。
「国際ルーキーズ科学賞は、世界科学オリンピックの出場権はもちろん、世界各国の科学者が集まる研修会にも参加することが出来ます。受賞された2人に、改めて大きな拍手をお願いします。」
会場内を埋め尽くす、大きな拍手の中で、俺は呆然としていた。




