6.夏休み初日
「先生、昨日はすみません。やはり一人では難しいので、手伝ってもらえますか?」
亀井は自分の態度を改めようと思ったらしい。実に賢明な判断だな。
「いいんだよ、じゃあ、雨を甘くするのに入れた甘味料を教えてくれるかい?」
さあて、ここからが大本命だ。さっさと全部言ってくれ。すぐにでも作って先に発表してやろう。
「……すみませんが、あれは高橋がいないとできないんです。」
亀井が補聴器に触れながら話し出す。
「…高橋君が優れているから、とでも言い出すのかい?子供にできて大人に出来ないことがあると?大丈夫だよ。きっと俺なら力になれるよ。」
「そういうことじゃなくて。えっと…、雲を入れていたビーカーに甘味料を色々入れた後に、俺は一回部室から出てしまいまして。俺が部室から離れた後、高橋は気になってビーカーを振ったり冷やしたり熱してみたり…、とにかくいろいろなことをした。と言っていましたので、高橋が何をしたかを全部試すことが出来ないので…」
「全部じゃなくてもいいだろう!?熱したり冷やしたりとかはわかっているんじゃないか。それだけでも調べてみればいいじゃないか!」
冗談じゃない。過程がどうのこうのは知らないが、俺は雲から甘い雨を降らせられることを証明出来たらいいんだ。こういうのは”結果”が大事だろう?!
「…いろんな状況がありますので。とりあえず、新しい作品を作りましょう。先生、なにがいいと思いますか?」
「ちょっとまって、雲は…」
眼光を鋭く光らせた亀井は、俺の抗議の言葉を遮った。
「雲じゃないと嫌なんですか?なぜ?」
「それは…」
新しいものを発表するほうが、注目を集めるから。当然のことだ。
けれど、そんなこと生徒には言えない。こんな向かい合ってじゃ、ひとりごとでは済まされないからな。
「いや…、そうだね。ごめん。新しいものに取り掛かろうか。」
「先生は、雲がお好きなようですから、空にまつわることを研究してみるのもいいですね。」
「そうだね。…じゃあ空気について…」
俺がぼそぼそと呟くのを、満面の笑みで亀井は見つめてくる。
「いいですね!じゃあ、早速校庭の空気取ってきます!」
亀井は普段ではありえないにこにこ笑顔で部室から飛び出す。
__いやなガキだ。
そうして俺はやむなく、亀井の空気の検証に付き合わされた。




