5.夏休み前日
「高橋が、やめる?なんでですか。」
「彼の意向だよ。もともと、科学はからっきしだったらしいしね。」
俺は放課後、亀井と話をするために、亀井を部室に呼び出した。
「…信じられません。今から話を__」
「ちょっとまって!彼は勇気を振り絞って、僕に話してくれたんだ。君とは、あまり顔を合わせたくないんじゃないかな。」
「……そうですか。わかりました。じゃあ俺は家に帰りますね。」
亀井は眉をひそめて、廊下へUターンをかまそうとする。
___まずいっ!
「まってまって!いま、助っ人がいないでしょ?僕が協力するよ。きっと役に立つよ。」
どうだい、いい案だろう。バカよりは大人がもっとましな案をだせるぞ。
すると亀井はなぜか片耳を片手で覆うようにして隠した。
__うん?なにかつけてるな。補聴器か?
「…お言葉ですが、俺は高橋以外に助っ人を頼むつもりはありません。彼はとても優秀ですから、先生でも、彼以上の仕事はできないかと。」
はい?俺があのバカよりも役立たずだと言いたいのか?
俺は思わず顔をしかめる。
「では、失礼します。」
亀井はきっと俺を睨んでドアに手をかける。
「……はぁ、天才というのも落ちぶれるものだな。経験豊富な大人よりも、バカのほうが優れていると…。もう少し常識を覚えないと、世界では通用しないからな。」
俺は亀井にちょうど聞こえるぐらいの声量でひとりごとをぼやく。
亀井は俺のひとりごとが終わるまでその場に立ち尽くしていたが、ぼやきをやめるとすぐに部室から出て行った。ふん、大人を舐めるなよ。もっと敬えばいい。
「………バカとは、心外だな。」
亀井のひとりごとは、田中よりも小さな声で発せられていた。




