#6 秘密の夕焼け
翼が学校を休んで、5日が経った。
僕の中の「心配」は、もう「確信」に変わっていた。
放課後、美術室に行くのはやめた。
代わりに向かったのは、翼の家だった。
住所は、前に宿題のノートを届けたときに聞いたことがある。駅から10分くらい歩いたところにある、
静かな住宅街の一角だ。
インターホンの前で、しばらく躊躇していた。
押してもいいのか、自分にその資格があるのか…
でも、今は確かめたかった。
あのときの笑顔の裏に、何があったのかを。
「ピンポーン」
しばらくして、玄関のドアが開いた。
出てきたのは、翼のお母さんだった。
優しそうだったけど、少し疲れた目をしていたような気がした。
「ごめんなさい…翼さんは、いますか…?翔といいます。クラスメイトです。」
僕がそう言うと、少し驚いたような顔をした。
「翔くん、ね。聞いてるわ。いつも、ありがとう。」
そう言って、翼のお母さんは家の中を1度振り返り、
そしてゆっくりとした声で続けた。
「翼は、今は入院しているの。少し大きな手術が必要みたいで。しばらく学校には行けないと思うわ。」
「入院…手術…」頭のなかで、言葉が何度も反響した。
あの窓際の笑顔、アクスタの最後の投稿、
絵を「見なくていいよ」って言ったあの言葉。
全部が、繋がったような気がした。
「…なんで、教えてくれなかったんですか?」
小さな声が、僕の口からこぼれていた。
お母さんは少しだけ微笑んだ。
「たぶん、翔くんには笑っていてほしかったのよ。
『病気の子』として見られたくなかったんだと思うわ。」その言葉に、胸がギュッとした。
帰り道、僕は空を見上げた。
くものすき間から、夕日が差しこんでいた。
まるで、あの日、美術室で翼が見ていた夕焼けみたいだった。僕は家に帰って、スケッチブックを開いた。
もう1度、翼を描こう。今度こそ、ちゃんと向き合って。"さよなら"じゃなくて、"また会おう"の気持ちで。
(#7に続く)