#4 窓際の輪郭
人物画の提出日が、とうとう明日に迫った。
僕は放課後に、いつもより早足で美術室に向かった。
ドアを開けると、もう翼はいつもの窓際のイスに座り、窓の外を見つめていた。
「今日で、仕上げるね。」
「うん」
短い返事。でも、その声にはどこか張りつめたような
空気が混じっていた。
いつもの席につき、僕は集中して線を引いていった。
これまでより、スムーズに輪郭が形になっていく。
「…できた」
そうつぶやいたときには、窓の外はすっかり
夕焼け色になっていた。翼の顔を描いた絵…
たしかに"誰か"の姿になっていた。
ただ、そこにいるのは「翼」ではあるけれど、
なぜか、どこか違う人のように思えてきた。
「ありがとう。翼。協力してくれて。」
「ううん、翔くんがちゃんと描こうとしたから、
完成したんだよ。」
翼はそう言って、微笑んだ。
でも、その微笑みが少しだけ揺らいでいるようにも見えた。
「明日、出すんだよね。その絵」
「うん。。提出したら、見せようか…?」
「…ううん。いいよ。翔くんの中に私の絵が残っているなら、それでいいの。」
「え?」
「あ、なんでもないよ。じゃあね、また明日。」
そう言って翼は、絵も見ずに帰っていった。
僕はその背中を見送りながら、スケッチブックを閉じた。完成した絵のはずなのに、どこかまだ、
大事ななにかが描ききれてないような気がした。
(#5に続く)