2.簡単な漢字と片仮名
**は勉強頑張ったのでカタコトじゃなくなってます。
目を覚ましてから博士は私とずっと一緒にいてくれている。博士が言うには今日は2日目の昼なのだそうだ。
昨日は1日中博士に絵本を読んでもらって過ごしたので、博士の喉は掠れてしまった…。どうやら音を出す回路を酷使してしまったようだった。今日は朝から絵を描いたり、新たに博士が持ってきた四角や三角のブロックで遊んで過ごした。
目的は主に、文字を覚えることと、スムーズに話ができるようになること。そして四肢の感覚の調整のためらしい。
平仮名と片仮名が読めるようになって、簡単な絵本は私だけでも読むことが出来るようになってきたので、昨日の夜には少し簡単な漢字を教えてもらっていた。
博士が昼食から帰ってきたら、漢字のテストとして私が絵本を音読することになっている。
ブロックをなんとなく重ねたり並べたりしていると、ウィーンと博士が出入りしている扉が開いて、機嫌のいい博士が初めて見る絵本の表紙を見せながら入ってきた。
「じゃじゃーん! 新しい絵本を持ってきたよ【なまやさいでダイエット】これは、痩せたい博士のためにアンドロイドの子たちが生野菜の盛り合わせを作ってダイエットのサポートをする物語だよ。じゃあ早速読んでもらっていいかな?」
コクコクと頷くと博士が私を膝に乗せて座った。ちょうど絵本と博士の間に私が入る感じだ。サイズ感ピッタリでとても落ち着きがいいような気がする。これが安心するということなのだろう。
昨日教えてもらった漢字はヒトの子どもが最初に習う漢字だそうで、80種類くらい覚えた。
博士にも私がどこを読んでいるか分かりやすいように文字を指で追いながら読み上げると、博士も笑顔で頷きながら聞いている。
「モクのぼりしているリスさん…ん? キのぼりしているリスさん…えっと、昨日読んだ本に似たような言葉があったような…?」
途中、木のぼりの漢字に苦戦しつつ何とか後半まで進んだ頃には漢字に躓くこと無くスラスラと読めるようになっていて、正直調子に乗っていた。
温野菜の盛り合わせを混ぜるところで盛大に間違った。
「さあ、スプーンを手にとってカいっぱいまぜるんだ」
博士の動きが一瞬止まる。
私は博士の膝上にのせられているので博士の動きを身体で感じていたのだが、頷く動きに合わせてゆっくりと揺れていた身体がぴたりと止まった、と思ったらカタカタとゼンマイ人形のように揺れ始めた
そして動き出すのと同時にカタカタと笑い始めた。私は膝上に座らされているので博士の笑いに合わせて身体が揺れる中、混乱しながら必死に考える。
……え、博士が故障した! …違う、笑ってる? 私何か間違えた? 一体どこを??
さあ/スプーン/を/手/に/とって/カ/いっぱい/まぜる/んだ
…間違えているとすれば「カ」か「んだ」のどちらかだと思うのに何が違うのかわからない。強いて言うならば、カいっぱいって何?ってことくらいだろうか。
考えてもわからないので諦めて博士の袖を掴んで答えを教えてもらおうと顔を見る。
「博士、昨日の記録に不備があるかもしれません。今の文章のどこが間違いなのかが分かりません。………笑いすぎです。」
「グッ…ふふふ。ごめんごめん。そうだよね、形が似ているから分かりづらいよね。」
「形が似ているって? ………あ。」
あぁ、やっと気づいた。良かった記録の不備はなかったのだ。きちんと習った漢字の中にあったのだ。
私は力いっぱいと書いてある頭を指で示し、問う。
「もしかしてこれは片仮名ではなくて漢字なのですか? ということは力?」
「正解。よく分かったね!」
博士は「よーしよーし、ご褒美だ。」と言いながら私の頭を左右前後に揺さぶる。ちょっと首のネジが緩んだ気がするのでやめてほしい。
博士から距離を取ろうとすると博士の笑顔が視界に入る。
「**は本当に優秀だね! 目覚めてまだ2日なのに漢字まで読めるようになるなんて。流石私が作ったアンドロイドなだけあるね。君が目覚めてからずっと楽しいよ。」
博士があまりにも楽しそうにいうものだから、撫でてほしくないと文句も言いづらくなってしまった。まぁ緩んだネジは博士に締めてもらうから今後も存分に撫でてもらおう。
サラダでゲンキ…知ってますか? 小1の時に音読で「力づよく」を「かづよく」と読んでクラスメイトから爆笑されて恥ずかしい思いをしました。それから発表などで人前で話そうとするとフラッシュバックするようになりました。私史上最悪のトラウマです。
皆さんも同じような経験ございますか? 気になります。