ep 17
ラッキー・ストライカーズ、幸運の飴玉と始まりのポーチ
アルクスの宿屋「ブロンズ亭」の一室。昨夜の勝利の宴の熱気と、ガルムとの激闘の疲労がまだ残る中、柔らかな朝の光が窓から差し込み、部屋の埃をきらきらと照らし出していた。
一番に目を覚ましたのは、やはり生真面目なレミーラだった。彼女はそっとベッドから抜け出すと、窓辺で小さな薬草図鑑を開き、静かな時間を過ごしていた。しかし、その視線は時折、まだ深い眠りの中にいる仲間たちへと、微笑ましそうに向けられていた。
「ふふっ……」
それもそのはず。一部屋を四人で借りているため、部屋の中はなかなかにカオスな状態だった。コハクは虎のように手足を投げ出し、アレンのベッドの半分を占領して豪快な寝息をかいている。ボルガンは自分のベッドから転がり落ちそうになりながら、壁際で「むにゃむにゃ……轟鉄…最大出力……素材皆無……」と、夢の中でも魔砲のことでうなされていた。
「アレン君、コハクさん、ボルガンさん、起きてください。朝ですよ」
レミーラの優しく、しかし芯の通った声が部屋に響く。ボルガンはうめき声を上げて寝返りを打ったが、コハクとアレンはまだ起きる気配がない。
「もう、アレン君たら、起きないんですから……」レミーラが困ったようにアレンのベッドを覗き込むと、隣で寝ていたはずのコハクが、むくりと上半身を起こした。
「んん~……アレンの奴、すっげー寝相悪いな~。アタイのベッドまで転がってきやがって」コハクは、大きなあくびをしながら言った。
「人の事が言えるのか、この虎娘が!?」いつの間にか起きていたボルガンが、床から睨みつけるように鋭く突っ込む。「貴様の寝相のせいで、オイラはベッドから追い出されたんじゃぞ!」
そんな二人の騒がしい声で、アレンもようやく意識が浮上してきた。
「う~ん……ムニャムニャ……」
まだ夢うつつで、瞼が重い。しかし、何かすぐ近くに複数の気配を感じる。アレンが重い瞼をなんとかこじ開けると、そこには……。
「……え? 何で三人共、僕のベッドに集まってるの?」
レミーラ、コハク、ボルガンの三人が、自分の顔を至近距離で覗き込んでいるという、非常に圧の強い光景が広がっていた。
「おめ~が起きね~からだよ!」
コハクはニシシといたずらっぽく笑うと、そのしなやかな指で、アレンの鼻先に狙いを定めた。
ピシッ!
「イッテェ~!」
小気味よい音と共に、強烈なデコピンがクリーンヒット。アレンは完全に覚醒し、涙目で鼻を押さえた。
階下の食堂では、女将プチラ特製の焼きたてパンと温かいスープの香ばしい匂いが漂っていた。眠い目をこすりながら席に着いた四人は、それぞれのやり方で朝食を平らげていく。
「それで、レミーラ。今日はどうしますか?」食後の一息つきながら、レミーラが切り出した。
「そうだなー。昨日は金も入ったし、なんかデカいモンスターでも討伐して、もっと稼ぐのも良いな!」コハクが、肉の骨をしゃぶりながら言う。
「いや、オイラは今日こそ『轟鉄 Mk-II』の強化に着手する! あの『魔鋼オリハルコン』を組み込むための設計図を練らねばならんのじゃ!」ボルガンは、鼻息荒く熱弁する。
三者三様の意見に、アレンは苦笑しながら口を開いた。「まあまあ、落ち着いて。その前に、一つやっておきたいことがあるんだ」
アレンはそう言うと、右手をそっと前に突き出した。
「あ、そうだ。今日のランダムボックス、まだ使ってなかった」
その言葉に、コハクとレミーラの目がキラリと輝いた。
「おっ! 出たな、アレンのびっくり箱!」
「今日は何がでるんでしょうか……ドキドキしますですの!」
「何か良いの出ろ!」アレンは、仲間たちの期待を一身に受けながら、強く念じてスキルを発動させた。
淡い光がアレンの掌に集まり、三つの小さな物体が、ぽん、ぽん、ぽぽん、と軽やかな音と共に現れた。
一つは、真っ赤な色が可愛らしい、甘い香りのする棒付きの飴玉。
一つは、丈夫そうな革で作られた、手のひらサイズの小さなポーチ。
そして最後の一つは、くねくねと曲がった、ただの針金。
「苺飴と……収納ポーチ!?」アレンは、その意外な、しかし大当たりと言える組み合わせに目を見開いた。
「やったな! アレン!」コハクは、アレンが驚いている隙に、素早く苺飴をひったくると、ぺろりと舐め始めた。「ん~! 甘酸っぱくてうめー!」
「あ、コハクさん、ずるいですわ! わ、わたしも……!」レミーラも、もう一本の苺飴(どうやら二本あったらしい)を手に取り、小さな口で幸せそうに味わっている。
「アレン君、すご~い! こんなに美味しいものを出せるなんて!」レミーラが、満面の笑みでアレンを称賛する。
その間、ボルガンは革のポーチを手に取り、職人の目でじっくりと鑑定していた。「ほう……このポーチ、見た目は小さいが、内部に空間拡張の魔法が付与されとるな。かなりの量が収納できるぞ。これは上物じゃ」
ボルガンのその言葉に、アレンは自分のスキルがもたらした「当たり」を改めて実感した。これがあれば、冒険中の荷物問題がかなり解決されるだろう。針金は……まあ、何かの修理に使えるかもしれない。
「やったな、アレン!」
「アレン君、すごいですわ!」
苺飴を頬張りながら自分を称えるコハクとレミーラ、そして実用的なアイテムの出現に満足げなボルガン。そして、このパーティーに最も必要だったかもしれない収納ポーチを手に入れた自分。
アレンは、朝の騒がしい一幕に、このパーティーの未来が少しだけ明るく見えたような気がして、思わず笑みがこぼれるのだった。




