ep 16
ラッキー・ストライカーズ、勝利の宴とミートスパイス亭の夜
アルクス冒険者ギルドから、ずっしりと重い金貨20枚の報酬袋を受け取ったアレンたち「ラッキー・ストライカー」の四人は、先ほどまでの疲労もどこへやら、意気揚々と夕暮れのアルクスの街へと繰り出した。初陣を(ある意味)大成功で飾り、しかも思いがけない大金を手にしたのだ。彼らの足取りが軽くなるのも無理はなかった。
「よっしゃー! 金貨20枚だぜ! アレン、これで今日はパーッと美味いもん食いに行こうぜ!」コハクは、報酬袋をひったくらんばかりの勢いでアレンに詰め寄り、その琥珀色の瞳を爛々と輝かせている。彼女の虎耳と尻尾は、期待に打ち震えるようにピコピコと小刻みに揺れていた。
「まあまあ、コハクさん、落ち着いてくださいまし。でも、確かに、お腹は空きましたわね……。あ、あの、できれば、お野菜もたくさん食べられるようなお店だと、嬉しい…なんて」レミーラは、コハクの勢いに少し気圧されながらも、遠慮がちに、しかししっかりと自分の希望を口にした。今日の戦いで消費した魔力を回復するためにも、栄養バランスの取れた食事がしたいのだろう。
「フン、野菜なんぞ、ヤギの食いもんじゃろ。オイラは断然、肉! それも、骨付きのデカいやつがいい! …あ、いや、でもな、たまにはこう、甘ぁ~い菓子も腹一杯食ってみたいのぅ~」ボルガンは、腕を組み、普段の武骨な彼からは想像もつかないような、どこか夢見るような表情で呟いた。どうやら彼の中では、肉への欲求と甘味への渇望が激しくせめぎ合っているらしい。
肉、野菜、そして甘いもの……。三者三様の、しかしどれも切実な食への欲求。アレンは、そんな個性豊かな仲間たちの顔を順々に見渡し、やれやれと肩をすくめながらも、思わず笑みがこぼれた。
「分かった、分かった。みんなの希望が全部叶う、とっておきの店を知ってるんだ。父さんや母さんにも、小さい頃からよく連れて行ってもらった店なんだけどね」
アレンのその言葉に、三人は一斉に期待の眼差しを向けた。
「へぇ~! リュウ様とセーラ様もご贔屓のお店ですの!? きっと素敵なお店に違いありませんわ!」
「アレンの親父さんが行く店なら、間違いなく美味い肉が出てくるはずだぜ!」
「ほほう、甘い菓子も、腹一杯食えるというのか!? それは聞き捨てならんのう!」
アレンは、そんな三人の期待を一身に受けながら、アルクスの大通りから少し入った、賑やかな飲食街の一角にある、赤レンガ造りの大きな建物へと仲間たちを導いた。店の入り口には、「ミートスパイス亭」という、食欲をそそる名前が書かれた大きな木製の看板が掲げられ、中からは陽気な音楽と、肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
アレンたちが扉を開けて中に入ると、そこはまさにお祭り騒ぎのような活気に満ちていた。広い店内には、大きな木のテーブルがいくつも並び、そのほとんどが屈強な冒険者や、陽気な商人たちで埋め尽くされている。そして、各テーブルの中央には、ジュウジュウと音を立てて肉や野菜を焼くための、大きな鉄板が備え付けられていた。
「いらっしゃいませー! おや、アレン坊ちゃんじゃないか! 今日はお仲間と一緒かい?」
威勢の良い声と共に現れたのは、この「ミートスパイス亭」を取り仕切る、恰幅の良い女将のルルスだった。彼女は、リュウの古い友人の一人でもあり、アレンのことも幼い頃からよく知っている。
「ルルスさん、こんばんは! 今日はパーティーの初仕事が無事に終わったんで、打ち上げに来たんです。四人なんですけど、席は空いてますか?」
「おやおや、そりゃあおめでたいね! もちろんだよ、こっちの奥のテーブルへどうぞ!」ルルスは、アレンたちを愛想良く奥の比較的静かなテーブルへと案内してくれた。
席に着くと、アレンは少し得意げに仲間たちに説明した。
「ここはね、肉も、新鮮な野菜も、そして食後のデザートや果物も、全部食べ放題なんだ。しかも、自分たちでこの鉄板で好きなように焼いて食べられる。実はこの店、昔、父さんが『異世界の故郷には、こんな感じの楽しい店がたくさんあったんだよなぁ』ってルルスさんに話したのがきっかけで出来たらしいんだ」
「へえええ! 食べ放題!? しかも自分で焼くのか! なんだか面白そうじゃん!」コハクは、目をキラキラさせて鉄板を覗き込んでいる。
「お肉もお野菜も、好きなだけ……! 夢のようですわ……!」レミーラも、頬を上気させて嬉しそうだ。
「なんと! 甘い菓子も食べ放題じゃと!? 今日は『轟鉄』の改良計画は一時中断じゃ! 食って食って食いまくってやるぞい!」ボルガンも、もはや理性のタガが外れたかのように興奮している。
「ご注文はお決まりで?」ルルスが、にこやかに注文を取りに来た。
「はい! まずは塩タンを5人前、それからカルビも5人前! あと、野菜の盛り合わせもどっさり! それから……デザートは、後でまた改めて頼みます!」アレンは、仲間たちの食欲を考慮し、威勢よく注文した。
「はいよ、かしこまりました! すぐにお持ちしますね!」
しばらくして、山のような肉と、色とりどりの新鮮な野菜が、大きな皿に盛られて運ばれてきた。アレンが手慣れた様子で鉄板に火をつけ、油をひくと、ジュウウウウウッという食欲をそそる音と共に、肉の焼ける香ばしい匂いが立ち昇る。
「うわー! なんだか、お祭りみたいで面白いなぁ、これ!」コハクは、トングを片手に、目を輝かせながら肉を鉄板に乗せていく。
「本当ですわね! 自分たちでお料理するみたいで、とっても楽しいです!」レミーラも、野菜を丁寧に焼きながら、満面の笑みを浮かべている。ボルガンは、既に焼きあがった肉に我慢できず、フーフーと息を吹きかけながらかぶりつこうとしていた。
アレンは、そんな仲間たちの賑やかな様子を微笑ましく眺めながら、まずは焼き立ての塩タンを、特製のレモンだれにつけて一口頬張った。
「んんんーーーーっ! 美味しいいいいーーーっ!」
香ばしく焼けた肉の旨味と、絶妙な塩加減、そして爽やかなレモンの風味が口の中いっぱいに広がり、初陣の疲労も吹き飛ぶような、至福の味わいだった。
「本当だ! なんだこれ、ちょー美味いじゃんか!」
「このタレも、お肉とすごく合いますですの!」
「むっはー! このカルビの脂身、たまらんわい!」
コハクも、レミーラも、そしてボルガンも、次々と焼きあがる肉と野菜を、夢中になって頬張り、そのあまりの美味しさに感嘆の声を上げ続けている。鉄板を囲む四人の周りには、陽気な笑い声と、美味しいものを共有する幸せな空気が満ち溢れていた。
アレンは、この個性豊かで、どこか騒がしいけれど、かけがえのない仲間たちと、こうして美味しいものを囲んで笑い合えるこの瞬間を、心の底から大切にしたいと思った。S級冒険者への道、この仲間たちとなら、きっとどんな困難も乗り越えていける。そんな確かな予感を胸に、アレンもまた、目の前の美味しい肉を、満面の笑みで頬張るのだった。
「ラッキー・ストライカー」の、賑やかで美味しい打ち上げの夜は、アルクスの街の喧騒と共に、まだまだ続いていく。




