ep 15
ラッキー・ストライカーズ、爆煙の戦利品とギルドの喝采
凄まじい爆発音と衝撃波がようやく収まり、もうもうと立ち込めていた土煙がゆっくりと晴れていく。後に残されたのは、大地に深く刻まれた巨大なクレーターと、焼け焦げた木々の残骸、そして…ガルムの痕だったはずの場所に散らばる、黒い毛皮の焼け焦げた切れ端や、砕けた骨片らしきものだった。
アレンは、まだ耳の奥でキーンと鳴り響く爆発音の余韻を感じながら、呆然と立ち尽くす仲間たちに声をかけた。
「……と、とにかく、ガルムは……倒せた、みたいだな。みんな、怪我はないか?」
「へ、平気だぜ、アレン! いやー、ボルガンのあの筒っぽ、マジでやっベー威力だな!」コハクは、目をキラキラさせながら、興奮冷めやらぬといった様子でボルガンに駆け寄る。
「ふ、ふん! これがオイラの『轟鉄 Mk-II』と、『魔鋼オリハルコン』の力(まだ組み込んでいないが、気分の問題だ)を合わせた『フルバースト・ロマンキャノン』の真髄よ! 敵は木っ端微塵じゃ!」ボルガンは、胸を張り、得意満面の笑みを浮かべているが、その顔は砲撃の煤で真っ黒だ。
「わ、わたしは……大丈夫ですの……。ただ、少し腰が抜けてしまって……。でも、ボルガンさんの魔法、本当にすごかったですわ……!」レミーラは、まだへたり込んだまま、それでもボルガンに称賛の言葉を送っていた。
「はぁ……。まあ、勝てたのは良かったけど……」アレンは、大きくため息をつきながら、爆心地へと恐る恐る近づいた。「問題は、素材だな。依頼書には、可能な限り良質なものをって書いてあったけど……これじゃあ……」
アレンの言葉通り、ボルガンの「一撃必殺砲」はあまりにも強力すぎた。ガルムの姿はほとんど原型を留めておらず、辛うじて焼け焦げた牙や爪、そして一部の比較的損傷の少ない毛皮が見つかる程度だった。
「ま、まぁ、これだけあれば、少しはまともな素材が取れた…かな?」アレンは、苦笑いを浮かべながら、比較的状態の良いガルムの牙を拾い上げた。
「あぁ、ほとんど焦げ焦げだけどな。でも、この牙とか爪は、結構硬くて鋭いから、何かの武器にはなりそうだぜ!」コハクも、焼け残ったガルムの爪を興味深そうにいじっている。
「ガッハッハッ! 流石はオイラのロマン砲よ! 威力が規格外すぎて、素材のことなんぞ些細なことじゃ!」ボルガンは、相変わらず悪びれる様子もなく豪快に笑い飛ばす。
「よいしょ、よいしょ……。こ、この毛皮の切れ端も、何かの役には立つかもしれませんですの……」レミーラは、小さな体で、焼け焦げたガルムの毛皮の比較的大きな部分を一生懸命運ぼうとしていた。その健気な姿に、アレンは思わず手を貸そうとする。
「レミーラ、そんな重いもの、僕が持つって。大丈夫か?」
「あ、アレン君……♡ ありがとうございます、お優しいのですね」レミーラは、頬をほんのり赤らめてアレンを見上げた。
その微笑ましい光景を横目に、コハクがすかさずアレンに声をかける。
「おーい、アレン! アタイのこの『虎王』も、さっきの戦いで結構振り回したから重いんだぜ? ちょっと持ってくれよー」
「なっ!? オイラの『轟鉄 Mk-II』だって、発射後は冷却と整備が必要で、運ぶのが大変なんだ! アレン、貴様が運べ!」ボルガンも便乗する。
「オイイィィィーーーッ! ふざけるな、お前ら! なんで僕が全員の荷物持ちなんだよ! 自分の武器くらい自分で持てーっ!」
アレンの悲痛な叫びが、静かになったはずの森に虚しく響き渡った。
なんだかんだと騒ぎながらも、四人はわずかながらの戦利品(と呼べるのか怪しい代物)をリュックに詰め込み、疲労困憊の体を引きずりながら、夕闇が迫るアルクスの街へと帰還した。
冒険者ギルドの扉を開けると、いつものように受付カウンターにいたルナが、四人の姿を認めて笑顔で迎えてくれた。
「あら、アレン様、皆さん、お帰りなさいませ! ……って、まあ、そのお姿は一体……? かなり激しい戦いだったようですわね」ルナは、四人の煤と泥と、そしてどこか諦観の漂う表情を見て、少し心配そうに眉をひそめた。
アレンは、大きくため息をつきながら報告した。「ルナさん、ただいま戻りました。依頼の……ガルム二体の討伐ですが……その、一応、完了、しました……」
「まあ! 本当ですの!? あの凶悪なガルム二体を、あなたたちだけで!? さすがですわ、『ラッキー・ストライカー』の皆さん!」ルナは、手を叩いて喜びの声を上げた。
「あ、ありがとうございます……。それで、報酬の件なのですが……」アレンは、少し言いにくそうに言葉を濁す。
ルナは、アレンのその様子と、彼らが差し出したお世辞にも状態が良いとは言えないガルムの素材を見て、全てを察したようだった。
「……なるほど。ボルガン様の『轟鉄 Mk-II』が、またしても素晴らしいご活躍をなさったようですわね」その言葉には、称賛と、ほんの少しの呆れと、そして確かな諦めが込められていた。
「グフッ……! い、いや、その、今回は狙い通り、ガルムを確実に仕留めた結果であってだな……決して、その、暴発とか、そういうのでは……」ボルガンが、焦ったように弁解する。
「まあまあ、ボルガン様。結果的にガルム二体を討伐できたのは、素晴らしい成果ですわ。素材の状態は……ええ、ギルドの方で最大限善処させていただきます」ルナは、苦笑いを浮かべながらも、手際よく書類を作成し始めた。「ラッキー・ストライカーの皆様、緊急依頼『双頭の凶狼ガルム討伐』、見事達成です! 報酬として、金貨20枚をお支払いいたします!」
「「「やったー!!」」」
アレン、コハク、ボルガンは、その言葉を聞いて、思わず歓声を上げた。(レミーラは、まだ少し申し訳なさそうに俯いている)
金貨20枚! 新米パーティーにとっては、破格の報酬だ。これまでの苦労(主にアレンの)が、一気に報われたような気がした。
「よーし! この金で、まずは街一番の肉料理屋で、腹いっぱい肉を食うぜ!」コハクが雄叫びを上げる。
「うむ! そして残りは、『轟鉄 Mk-II』のさらなる改良資金じゃ! 目指すは、大陸最強の魔砲よ!」ボルガンも鼻息が荒い。
「わ、わたしは……今日の夕食は、アレン君の好きなもので良いですの……。その、お詫びと言ってはなんですけど……」レミーラが、ようやく顔を上げて、小さな声で言った。
アレンは、そんな仲間たちの姿を見て、再び大きなため息をつきそうになったが、手にした報酬の重みに、確かな達成感と、そしてこの個性豊かな仲間たちとなら、どんな困難な冒険も乗り越えていけるかもしれないという、不思議な高揚感を感じていた。
「ラッキー・ストライカー」の、波乱に満ちた、そしてどこかコミカルな冒険は、こうしてアルクスの街で、また一つ、新たな伝説(主に珍事として)を刻み込んだのだった。彼らの明日は、一体どんな「幸運」と「騒動」が待ち受けているのだろうか。




