ep 13
ラッキー・ストライカーズ、双頭の凶狼、ガルムとの初陣
月の光もほとんど届かない、アルクス西の森の最も深い開けた場所。二体の巨大な漆黒の狼、ガルムが、その血のように赤い双眸をアレンたち四人に向け、地を這うような低い唸り声を上げていた。それは、まさに狩りの始まりを告げる、不気味な合図だった。
「ボルガン、先手必勝だ! あのデカい図体じゃ、的も大きい! 初弾、頼むぞ!」アレンは、腰の片手剣を抜き放ちながら、後方のボルガンに鋭く指示を飛ばした。
「おう、任せとけ、アレン! オイラの『轟鉄 Mk-II』の餌食にしてくれるわ! 今日こそ、完璧な一撃必殺を……!」ボルガンは、ゴーグルをカチャリと下げ、巨大な魔砲の照準を、二体のガルムのうち、わずかに前に出て威嚇してきている一体にピタリと合わせた。彼のヘーゼル色の瞳が、興奮と集中で爛々と輝く。
「フルバースト・ロマンキャノン、チャージ開始! エネルギー充填、80……90……98……今だ! 発射ァァァァァ!!」
ボルガンの勇ましい掛け声と共に、「轟鉄 Mk-II」の砲口から、圧縮された魔力が眩い光の奔流となって、轟音と共に射出された! しかし――
「なっ!?」
その極太の魔力光線は、ガルムの俊敏な動きを予測しきれなかったのか、あるいは発射の瞬間にボルガンが力みすぎたのか、ガルムの鼻先を掠め、遥か後方の岩壁に直撃し、凄まじい爆発音と共に岩を砕け散らせただけだった。幸い、先日のレッドオーガ騒動のような、予期せぬ二次被害はなさそうだが、肝心のガルムには全くダメージを与えられていない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ーっ! またしても、オイラのロマンがぁーっ!」ボルガンが頭を抱えて叫ぶ。
「くっ、やっぱり初弾はそう簡単には当たらないか! コハク! 向こうのガルムは任せた! こっちは僕が引き受ける!」アレンは、ボルガンの失敗にもはや驚くこともなく、即座に状況を判断し、コハクに指示を飛ばした。
「おう、任せな、アレン! いっちょう、派手に可愛がってやるぜ! おらあああああっ!」コハクは、その小柄な体に不釣り合いな巨大両手剣「虎王」を軽々と振り上げ、まるで弾丸のように、もう一体のガルムへと猛然と突進していく。その姿は、まさに獲物を見つけた雌虎そのものだった。
アレンもまた、ボルガンが狙いを外した方のガルムへと疾走する。ガルムは、先ほどの魔砲の爆風に一瞬怯んだものの、すぐに体勢を立て直し、鋭い牙を剥き出しにしてアレンに襲いかかってきた。鋭い爪が、アレンの顔面めがけて振り下ろされる。
「させるか!」アレンは、左腕に装備したラウンドシールドで、ガルムの爪撃を的確に受け流す。ガギン!という硬い音と共に、盾の表面に火花が散る。ガルムの攻撃は、見た目以上に重く、そして速い。アレンは、盾で攻撃を防ぎつつ、片手剣でガルムの足元や脇腹を狙って的確に斬りつけていくが、ガルムの素早い動きと硬い毛皮に阻まれ、なかなか深手を負わせることができない。
「えっと、えっとぉ~! アレン君が危ないですの! わ、わたしも何か……! そうだ! 緑の恵みよ、大地の足枷となりて、彼の者の自由を奪いたまえ! 植物よ、地より生い出て、かの獣を絡めとれ! バインド・ウィップ!」
後方で戦況を見守っていたレミーラが、アレンの苦戦を見て、震える声ながらも必死に魔法の詠唱を始めた。彼女の掲げた白樺の杖の先から、淡い緑色の光が放たれると、アレンと戦うガルムの足元の地面から、まるで意思を持ったかのように、太くしなやかな蔦が何本も勢いよく伸び上がり、ガルムの四肢に絡みついた!
「グルルルッ!? グゥン!?」
ガルムは、予期せぬ足枷に動きを封じられ、バランスを崩してその場に大きくよろめいた。
「ナイスだ、レミーラ! その調子!」アレンは、レミーラの的確な援護に感謝しつつ、この好機を逃さず、ガルムの無防備になった首筋めがけて鋭い一撃を叩き込む。
一方、コハクもまた、もう一体のガルムと激しい攻防を繰り広げていた。ガルムの俊敏な動きと鋭い牙に苦戦しながらも、コハクは虎我流の体捌きで巧みにかわし、両手剣「虎王」で一進一退の攻防を続けている。
「ちまちまと、うっとうしい奴だな! そろそろ、アタイの本気、見せてやるぜ!」コハクは、一旦ガルムとの距離を取ると、両手剣の柄を強く握りしめ、その全身から淡いオレンジ色の闘気を立ち昇らせ始めた。
「よっしゃあ! 喰らいやがれ! 虎我流奥義ぃぃぃ……虎・王・斬!!」
コハクの咆哮と共に、闘気を纏い、黄金色のオーラを放つ「虎王」が、ガルムの巨体めがけて凄まじい勢いで振り下ろされた。ズバァァァン!という、肉を断ち切る鈍い音と共に、ガルムの肩口から脇腹にかけて、深い斬撃が刻み込まれ、大量の血飛沫が舞い上がる。
「ギャウウウウウンン!!」ガルムは、これまでにないほどの苦痛に満ちた悲鳴を上げ、大きく後退した。
「くっそー! もうちょいで仕留められたのに、硬ぇな、こいつ!」コハクは、息を切らせながらも、悔しそうに呟いた。
その時、後方からボルガンの焦ったような声が響いた。
「おい、アレン! 『轟鉄』の再チャージ、思ったより時間がかかりそうだぞ! 魔力の再充填と、砲身の冷却に、もうしばらくかかる!」
「分かった、ボルガン! それまで、こっちで何とか持ちこたえる!」アレンは、レミーラの植物魔法で動きの鈍っているガルムに、休む間もなく連続で斬りかかりながら答えた。「レミーラ、もう一度、あの魔法を頼めるか!? コハク、そっちのガルムの動きを止められるか!?」
アレンは、ボルガンの魔砲が再び火を噴くまで、仲間たちと連携し、この二頭の凶狼を食い止めるべく、必死に剣を振るい続けるのだった。
「ラッキー・ストライカー」の初陣は、早くもそれぞれの個性がぶつかり合い、そして支え合う、波乱に満ちた展開となっていた。




