ep 11
ラッキー・ストライカーズ、アルクスでの新たな朝とそれぞれの探求
アルクス冒険者ギルドのホールで、アレンたち「ラッキー・ストライカー」の面々は、それぞれの目的を胸に、午後の再会を約束して二手に分かれた。太陽は中天に昇り、アルクスの街は活気に満ち溢れている。
午前:図書室の静寂と、市場の喧騒
<アレンとレミーラ:ギルド図書室にて>
アレンとレミーラが向かったのは、アルクス冒険者ギルドの奥にある、古書の匂いが漂う薄暗くも広大な図書室だった。高い天井まで届く書架には、それこそ何百年も前の羊皮紙の巻物から、比較的新しい装丁の専門書まで、ありとあらゆる知識が眠っているかのように静まり返っている。時折、他の冒険者や研究者らしき人々が、真剣な表情でページを捲る音だけが、その静寂を破っていた。
「すごい……こんなにたくさんの本があるんですね……」レミーラは、その圧倒的な蔵書量に目を輝かせ、小声で感嘆の声を漏らした。賢者見習いである彼女にとって、ここはまさに宝の山だろう。
「ああ。父さんも昔、ここで色々なことを調べたって言ってた。僕の『ランダムボックス』について、何か手がかりがあればいいんだけど……」アレンは、自分のユニークスキルの特異性を改めて感じながら、スキルや古代魔法に関する書物が並ぶ棚へと向かった。
しかし、アレンの期待とは裏腹に、「ランダムボックス」というスキルに関する直接的な記述は、どれほど分厚い書物を紐解いても見つからなかった。時折、「異界召喚」や「物質転移」といった、僅かに関連性を感じさせる記述はあったものの、アレンのスキルのような「何が出るかわからない」「一日三回」といった具体的な特性に合致するものは皆無だった。
(やっぱり、こんな前例のないスキル、そう簡単には分からないか……)アレンは、少しばかり落胆しながらも、父リュウの「どんなスキルも使い方次第だ。無駄なものなんて、そうそうない」という言葉を思い出し、気を取り直してスキル一般の特性や、ユニークスキルと呼ばれるものが発現する条件などを記した文献を読み進めた。
一方、レミーラは、古代語で書かれた難解な魔法理論書や、失われた精霊魔法に関する記述が残る古文書などを、目をキラキラさせながら読みふけっていた。普段のドジっ子ぶりが嘘のように、その表情は真剣そのもので、時折「なるほど……」「これは、もしかして……」などと小さな声で呟きながら、羊皮紙のノートに熱心に何かを書き留めている。
そんな彼女が、一冊のひときわ古びた、装丁もボロボロになった分厚い書物を書架から取り出そうとした、その時だった。
「あっ! きゃっ!」
バランスを崩したレミーラは、その大きな書物と共に、派手な音を立てて床に尻餅をついてしまった。周囲の静寂を破るその音に、他の利用者たちが一斉に眉をひそめて彼女の方を見る。
「ご、ごめんなさいぃぃ! またドジを……!」レミーラは顔を真っ赤にして縮こまる。
アレンは苦笑しながら彼女に駆け寄り、散らばったページを拾い集めるのを手伝った。
「大丈夫か、レミーラ? 怪我は?」
「は、はい……。ただ、この本、すごく古そうですのに、汚してしまって……」
その時、アレンはレミーラが落とした書物から、一枚の栞のように挟まれていた、変色した小さな羊皮紙の断片が滑り落ちたのに気づいた。そこには、かすれてほとんど読めないが、奇妙な紋様と、いくつかの古代文字が記されていた。
「ん? なんだこれ……?」アレンがそれを拾い上げると、レミーラも興味深そうに覗き込んできた。「これは……もしかしたら、何かすごく古い時代の、失われた魔法の断片かもしれませんですの……!」
二人は、その小さな羊皮紙の断片に、何か重要な秘密が隠されているような、不思議な予感を感じるのだった。
<コハクとボルガン:アルクス市場にて>
一方、コハクとボルガンは、ギルド図書室の静寂とは対照的な、活気と喧騒に満ちたアルクスの市場、特に職人たちが集まる一角を闊歩していた。
「おー! さすがアルクスの市場はでっかいなー! 美味そうな肉の匂いもするし、キラキラした武器もいっぱいだぜ!」コハクは、虎耳をピコピコさせながら、目を輝かせて周囲を見回している。彼女の興味は、もはやボルガンの魔砲の部品探しよりも、市場の屋台で売られている串焼き肉や、甘い香りを漂わせる焼き菓子の方へと移りつつあった。
「おい、虎の小娘! あまりフラフラするなと言っておるだろうが! ワシは、『轟鉄 Mk-II』を最強無敵にするための、超重要なパーツを探しに来とるんじゃ! 少しは手伝え!」ボルガンは、そんなコハクの自由奔放ぶりに呆れながらも、鍛冶屋や金属加工の店が軒を連ねる一角で、真剣な眼差しで部品を探し始めた。
「へい、そこのドワーフの坊主! 何かお探しで?」声をかけてきたのは、いかにも頑固そうな、しかし腕は確かそうな初老のドワーフの鍛冶屋だった。
「むう! ちょうど良いところに! オイラはボルガン! 魔砲技師だ! オイラの愛機『轟鉄 Mk-II』の出力を格段に上げる、特殊な魔力伝導効率を持つ金属か、あるいは高圧縮魔力チャンバーの部品を探しておるのだが、心当たりはないか!」ボルガンは、初対面の相手にも臆することなく、自分の要求を堂々と告げた。
老ドワーフは、ボルガンのその言葉と、彼が背負う巨大な魔砲を見て、少しばかり眉をひそめた。「魔砲だと? フン、そんな子供の玩具みてぇなもんに使う金属なぞ、うちにはねぇな。それよりも、もっとこう、魂のこもった剣や斧に興味はねぇのか?」
「な、なんだとー! オイラの『轟鉄』を玩具扱いするとは、聞き捨てならんぞ、この頑固爺! 今すぐその言葉を取り消せ! さもなくば……!」ボルガンは、カッとなって言い返そうとした。
「まあまあ、二人とも落ち着けって!」その時、いつの間にか大きな串焼き肉を両手に持って頬張っていたコハクが、二人の間に割って入った。「おっちゃんもさー、そんな意地悪言わないで、何かこう、ピカピカしてて強そうな金属、見せてやってよ! そしたら、アタイがこの美味い肉、一口分けてやってもいいぜ?」
老ドワーフは、コハクのその天真爛漫な態度と、彼女が差し出す肉のあまりの美味そうな匂いに、少しだけ毒気を抜かれたようだ。「……フン。まあ、見ていくだけならタダだ。奥に、少しばかり変わった鉱石のクズ鉄ならあるかもしれん」
そう言って案内された店の奥には、確かに様々な金属片や、用途不明の機械部品のようなものが山積みになっていた。ボルガンは、目を輝かせてそのガラクタの山を漁り始め、コハクは「おっちゃん、この肉、マジでうめーな!」と、老ドワーフとすっかり打ち解けていた。
そして、ボルガンはガラクタの山の中から、一つだけ異質な輝きを放つ、手のひらサイズの黒い金属塊を見つけ出した。それは、叩いても焼いても変形しないほど硬質で、そして微かに魔力を帯びているようだった。
「こ、これは……! 間違いない! 古代ドワーフの失われた鍛造技術で作られた、『魔鋼オリハルコン』の欠片じゃ……! これがあれば、オイラの『轟鉄 Mk-II』は、さらにとんでもない進化を遂げるかもしれんぞ!」ボルガンは、その黒い金属塊を、まるで宝物でも見つけたかのように、興奮で震える手で握りしめた。
午後の合流、そして新たな予感
昼過ぎ、アルクス冒険者ギルドの酒場で、四人は再び顔を合わせた。
アレンとレミーラは、図書室で見つけた謎の羊皮紙の断片について話し合い、コハクとボルガンは、市場でのそれぞれの「戦果」(コハクは大量の食べ歩きと新しい髪飾り、ボルガンはオリハルコンの欠片)を自慢げに報告し合っていた。
「それで、アレン君、結局『ランダムボックス』のことは何か分かったんですか?」レミーラが尋ねる。
「うーん、直接的な情報はなかったけど……。でも、ユニークスキルっていうのは、持ち主の魂とか、運命とか、そういうものと深く関わっているらしいんだ。だから、きっと僕にしか引き出せない何かがあるんだと思う。諦めずに、色々試してみるよ」アレンは、少しだけ前向きな表情で答えた。
「フン、そんな当てにならないスキルより、やはりオイラの『轟鉄』が一番じゃ! この『魔鋼オリハルコン』さえあれば、次こそは完璧な『フルバースト・ロマンキャノン』を……!」ボルガンが熱弁を振るい始めると、コハクが「それより、そのオリハルコンって、食べられるのか?」と、全く見当違いな質問を投げかける。
そんな賑やかなやり取りを微笑ましく見ていたレミーラが、ふと、図書室で見つけた羊皮紙の断片を取り出し、アレンに見せた。「あの、アレン君。これ、やっぱり気になります。この紋様と文字、どこかで見たことがあるような……」
アレンも、その羊皮紙に再び目を落とした。確かに、奇妙な紋様だ。何かの地図の一部だろうか? それとも、何かの呪文か……?
その時だった。ギルドの扉が勢いよく開き、一人の若い冒険者が血相を変えて駆け込んできた。
「た、大変だ! アルクスの西の森で、見たこともないような巨大な影が……! あれは、間違いなく強力な魔物だ!」
その言葉に、ギルド内の空気が一変する。
アレンたち「ラッキー・ストライカー」の、本当の意味での最初の試練が、早くも訪れようとしていた。




