ep 10
ラッキー・ストライカーズ、アルクスでの新たな朝と次なる一手
アルクスの街に朝日が昇り、ブロンズ亭の質素ながらも清潔な窓から、柔らかな光が差し込んでくる。昨夜、初陣(?)の興奮と疲労、そして個性豊かな仲間たちとの騒がしいやり取りの末に泥のように眠りについたアレンは、鳥のさえずりと、どこか香ばしいパンの焼ける匂いでゆっくりと目を覚ました。
隣の簡易ベッドでは、コハクが虎のようにお腹を出して豪快な寝息をかいており、そのまた隣では、ボルガンが「むにゃむにゃ……轟鉄……最大出力……全弾、命中……素材皆無……」などと、夢の中でも魔砲のことを考えているのか、うなされていた。反対側の隅で丸くなっていたレミーラは、すでに目を覚ましているようで、小さな寝息を立てるコハクとボルガンの顔を微笑ましそうに眺めながら、そっとベッドから抜け出し、窓辺で小さな薬草図鑑を開いていた。その真面目さと、どこか浮世離れした雰囲気が、彼女らしい。
「ん……おはよう、レミーラ。早いんだね」アレンは、まだ少しぼんやりとした頭で声をかけた。
「あ、アレン君、おはようございます! 昨日はよく眠れましたか?」レミーラは、図鑑から顔を上げ、いつものように少しはにかみながら微笑んだ。「コハクさんとボルガンさんは、まだ夢の中みたいですけど……」
やがて、宿屋の女将プチラの「朝飯できたよー! 若いの、いつまで寝てるんだい!」という威勢のいい声が階下から響いてくると、コハクとボルガンもようやく目を覚まし、四人は眠い目をこすりながら階下の食堂へと向かった。
食堂のテーブルには、プチラ特製の焼きたて黒パンと、野菜たっぷりの温かいスープ、そして自家製らしき干し肉とチーズが並んでいた。
「うっひょー! いい匂い! アタイ、腹ペコなんだ!」コハクは、目を輝かせて真っ先に席に着き、パンにかぶりつく。
「フン、質素だが、悪くない。エネルギー補給は、戦士の基本じゃからのう」ボルガンも、ぶっきらぼうに言いながら、スープを勢いよく啜り始めた。
「プチラさん、おはようございます。朝食、ありがとうございます」アレンが礼を言うと、プチラはニヤリと笑って答えた。
「おう、おはよう、アレン。それにしても、あんたたち、昨日はギルドでとんでもない騒ぎを起こしたらしいじゃないか。朝から噂になってるぞ。『レッドオーガをくしゃみで倒した新人パーティー』ってな!」
「げっ……!」アレンとレミーラは顔を見合わせ、思わず顔が赤くなる。コハクとボルガンは、どこ吹く風といった様子で食事を続けている。
「まあ、結果的に大物も倒せたんだから、悪いことばかりじゃないだろうけどね。で、今日はどうするんだい? また何か面白い依頼でも探しに行くのかい?」プチラは、興味津々といった表情で尋ねてきた。
アレンは、パンをかじりながら答えた。「ええ、そのつもりです。でも、その前に、少し街で情報収集とか、自分たちの実力を上げるための準備もしたいなって思ってるんです」
「ほう、殊勝な心がけじゃないか。若いのにしっかりしてるねぇ」
朝食を終え、四人はアルクス冒険者ギルドへと向かった。ギルドの扉を開けると、案の定、昨日よりも多くの冒険者たちが、興味深そうな、あるいはからかうような視線を彼らに向けてくるのが分かった。
「おい、あれが噂の『ラッキー・ストライカー』だぜ」
「くしゃみでレッドオーガを倒したってマジかよ? どんなパーティーだよ」
「ドワーフの魔砲はマジでやばいらしいぞ。森が一つ消し飛ぶかと思ったってよ」
コハクはそんな注目を浴びてまんざらでもない様子で胸を張り、ボルガンは「フン、オイラの『轟鉄 Mk-II』の真の力はあんなもんじゃないわい」とさらに誤解を招きそうなことを呟いている。レミーラは、申し訳なさそうにアレンの後ろに隠れるようにして歩いていた。
アレンは、苦笑いを浮かべながらも、受付カウンターにいたルナに声をかけた。「ルナさん、おはようございます。今日は、何か僕たちにできそうな依頼はありますか? それと、少し調べたいこともあるんですが……」
ルナは、四人の顔を見て、昨日の騒動を思い出したのか、くすりと笑みを漏らした。「アレン様、皆さん、おはようございます。昨日は本当にお疲れ様でした。そして……色々とお騒がせ様でした。おかげさまで、ギルドの記録に新たな珍事が一つ加わりましたわ」
その言葉に、アレンはますます肩身が狭くなる思いだった。
「それで、今日はどのようなご用件でしょう? 依頼でしたら、いくつかD級からC級向けのものが新たに入っておりますが……」
「ありがとうございます。依頼ももちろんですが、その前に、少しパーティーとしての地力を固めたいと思っているんです」アレンは言った。「例えば、僕のこの『ランダムボックス』というスキルは、まだ何が出るか分からなくて……。何か、このスキルの特性を調べる方法とか、あるいはもっと有効に使えるような情報があれば知りたいんです」
「ユニークスキル、でございますか……」ルナは少し考え込む。「確かに、前例のないスキルについては、ギルドの古書庫に何か手がかりがあるかもしれません。あるいは、特定の魔道具を鑑定できる専門家なら、何か分かることがあるかも……」
「わたしも、もっと色々な魔法を覚えたいですし、ドジをしないように、何かこう、集中力を高める訓練とか……できるでしょうか……?」レミーラがおずおずと尋ねる。
「コハクは、もっと強い奴と戦いたい! あと、美味しいお肉が食べられる店、知らない?」コハクは相変わらずだ。
「オイラは、『轟鉄 Mk-II』の改良パーツを探したい! 特に、あの『フルバースト・ロマンキャノン』のチャージ時間を短縮できて、さらに威力が上がるような、夢のパーツをな!」ボルガンも目を輝かせる。
四者四様の要望に、ルナはさすがに少し困ったような顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、いくつかの提案をしてくれた。
「でしたら、まずアレン様とレミーラ様は、ギルドの図書室で関連する文献を探してみるのはいかがでしょう? 魔法やスキルに関する古文書も多数ございます。コハク様とボルガン様は、市場の職人街や武具店を巡ってみるのも良いかもしれませんわ。掘り出し物の武器や、魔砲の部品が見つかることもございますし、腕利きの職人から情報を得ることもできるかもしれません」
「なるほど……。それが良さそうですね」アレンは頷いた。「よし、じゃあ、午前中は二手に分かれて情報収集と準備、午後にまたここで合流して、何か依頼を受ける、というのはどうかな?」
「賛成~!」
「異議なしじゃ!」
「は、はいっ!」
こうして、「ラッキー・ストライカー」の面々は、それぞれの目的を持ってアルクスの街へと散っていった。アレンは、自分のこの奇妙なユニークスキル「ランダムボックス」の謎を解き明かすため、そしてレミーラは自身の魔法の可能性を広げるため、ギルドの薄暗い図書室へと向かう。一方、コハクとボルガンは、新たな獲物(獲物とパーツ)を求めて、活気あふれる市場の喧騒の中へと消えていった。
彼らの冒険者としての本当の意味での日常は、まだ始まったばかり。そして、このアルクスの街には、彼らがまだ知らない多くの謎と、新たな出会い、そしてもちろん、波乱に満ちた出来事が待ち受けていることだろう。




