ep 6
ラッキー・ストライカーズ、初陣への序曲
アルクス冒険者ギルドの受付カウンターで、真新しいパーティー「ラッキー・ストライカー」の登録を終えたアレン、レミーラ、コハク、そしてボルガンの四人は、それぞれの胸に冒険者としての新たな門出への期待と、そしてほんの少しばかりの緊張感を抱きながら、顔を見合わせていた。受付嬢のルナは、そのあまりにも個性的で、そしてどこか危なっかしい4人の組み合わせに、苦笑いを浮かべながらも「ご登録、おめでとうございます! ラッキー・ストライカーの皆さんのご活躍を、ギルド一同、心より応援しております!」と、温かい祝福の言葉を送ってくれた。
「へへーん、アタイたちのパーティー名、なかなかイケてるじゃん!」コハクは、腰に手を当て、得意満面の笑みで言った。彼女の虎耳と尻尾が、嬉しそうにピコピコと揺れている。
「フン、まあ、悪くはない名前じゃな。『ラッキー』の部分はちと気に食わんが、『ストライカー』という響きは、オイラの『轟鉄 Mk-II』の雄姿にふさわしい!」ボルガンも、ぶっきらぼうな口調ながら、そのヘーゼル色の瞳には満足げな色が浮かんでいた。
「わ、わたしも、素敵なパーティー名だと思います……! なんだか、本当に幸運が舞い込んできそうですわ!」レミーラは、両手を胸の前でそっと組み、少し頬を赤らめながら嬉しそうに微笑んだ。
「よし、それじゃあ、記念すべき『ラッキー・ストライカー』としての最初の依頼を探しに行こうぜ!」アレンは、パーティーのリーダーとして(いつの間にかそんな雰囲気になっていた)、仲間たちに声をかけ、再び活気に満ちた依頼掲示板へと向かった。
四人が掲示板の前に陣取ると、その異様な組み合わせ(人間の少年、エルフの少女、虎耳族の少女、ドワーフの少年)と、特にコハクの巨大な両手剣やボルガンの背負う魔砲の威圧感に、周囲の冒険者たちも何事かと遠巻きに視線を送ってくる。
「さて、最初の依頼は何にするかな……。あまり無茶はできないけど、俺たちの実力を試せるような、ちょっと手応えのあるものがいいな」アレンは、慎重に依頼書を選び始めた。
「賛成~! やっぱり、ドカンとでっかい魔物を退治して、アタイたちの強さを街中に知らしめたいよな!」コハクは、目を輝かせながら、主に討伐系の依頼書を指差す。
「うむ、コハクの言う通りじゃ! ワシ…いや、オイラの『轟鉄 Mk-II』の初陣は、派手であればあるほど良い! 目指すは一撃必殺、素材なんぞ知ったことか!」ボルガンも、コハクに同調するように、高ランクの討伐依頼ばかりに注目している。
「ひゃっ……! お、お二人とも、もう少し安全な依頼の方が……。例えば、この『迷子のプニプニちゃん(スライムペット)を探してください』とか、可愛らしいですわよ……?」レミーラは、二人のあまりの戦闘狂ぶりに顔を青くさせながら、掲示板の一番下に貼られた、見るからに平和的な依頼書を小さな声で提案した。
「「却下!!」」コハクとボルガンの声が、綺麗にハモった。
「そんなの、アタイの『虎王』が錆びちまうぜ!」
「オイラの『轟鉄』は、そんな可愛らしいもののために火を噴くんじゃないんだ!」
アレンは、早くもバラバラになりそうな仲間たちの意見に、やれやれと肩をすくめながらも、どこかその状況を楽しんでいる自分に気づいていた。(これは……なかなか、前途多難だけど、面白くなりそうだ)
「まあまあ、みんな落ち着いて。最初の依頼だから、あまり無理はできないけど、かといって簡単すぎるのも張り合いがないよな。それなら……これはどうかな?」アレンは、一枚の依頼書を指差した。
そこには、『アルクス近郊の森に出現した凶暴なワイルドボア(野生の大猪)の群れの討伐。注意:農作物への被害甚大。ただし、可能な限り素材(牙、毛皮)は傷つけずに持ち帰ること。特に良質な牙には追加報酬あり』と書かれていた。危険度はD級上位からC級下位といったところで、今の彼らにとって、まさに腕試しにはうってつけの依頼に思えた。
「大猪か……。まあ、薬草よりはマシだけど、ちょっと地味じゃないか?」コハクは少し不満そうだ。
「フン、牙や毛皮を傷つけずに、だと? ちっ、面倒な条件をつけおって。オイラの『轟鉄』の威力を存分に発揮できんではないか」ボルガンも、追加報酬の部分には少し興味を示しつつも、不満げに鼻を鳴らした。
「だ、大猪……。突進してきたら、怖そうですわ……」レミーラは、少し顔を青くさせている。
「でも、見てくれ。この依頼、最近被害が増えてて、困ってる農家の人も多いみたいだ。それに、群れってことは、連携の練習にもなると思うんだ。ボルガンの魔砲で先制して、コハクが前衛で暴れて、レミーラは後方から魔法で援護と回復、そして僕が全体を見ながら遊撃と指示を出す。どうかな?」アレンは、それぞれの役割をイメージしながら、仲間たちに提案した。
「うーん……まあ、アレンがそう言うなら、アタイは別にいいけどさ。でも、一匹くらいは、アタイの『虎王』で真っ二つにさせてもらうぜ!」コハクは、少しだけ譲歩したようだ。
「……まあ、いいだろう。ただし、一発くらいは『フルバースト・ロマンキャノン』の試射をさせてもらうぞ。素材のことなんぞ、その時は知らん!」ボルガンも、渋々ながら同意した。
「わ、わたしも、頑張って皆さんをサポートしますですの!」レミーラも、アレンの具体的な作戦を聞いて、少しだけ不安が和らいだようだ。
「よし、決まりだな!」アレンは、三人の(一応の)合意を得て、その依頼書を手に取り、受付カウンターへと向かった。「ルナさん、このワイルドボア討伐の依頼、僕たちのパーティー『ラッキー・ストライカー』で受けさせてもらいます!」
ルナは、4人の顔を改めて見渡し、その若さと、しかしそれぞれの瞳に宿る確かな決意の光を感じ取り、にっこりと微笑んだ。「はい、承知いたしました、アレン様。ワイルドボアは、時に群れで行動し、その突進力は侮れません。くれぐれも油断なさらないように。ご武運をお祈りしております!」
こうして、「ラッキー・ストライカー」としての記念すべき最初の依頼が決まった。四人は、ギルドで簡単な準備を整えると、意気揚々と、しかしどこかぎこちない足取りで、アルクスの街の西門をくぐり、ワイルドボアが出現するという近郊の森へと向かった。
道中、コハクはその有り余る元気で周囲の蝶を追いかけ回したり、ボルガンは背負った「轟鉄 Mk-II」の砲身を何度も磨いては「こいつの本当の力を早く見せてやりたいぜ……」とぶつぶつ呟いたり、レミーラは森の珍しい草花を見つけてはしゃがみ込み、薬草辞典を取り出して熱心に調べ始めたりと、早くもパーティーの統率は前途多難な様相を呈していた。
アレンは、そんな三人の様子に苦笑しながらも、不思議と嫌な気はしなかった。むしろ、この個性豊かな仲間たちと、これからどんな冒険が待っているのだろうかと、胸の奥が高鳴るのを感じていた。
(よし、まずはこのワイルドボア討伐を成功させて、俺たちのパーティーの第一歩を、しっかりと刻み込むんだ!)
アレンは、腰の片手剣の柄を握りしめ、新たな決意を胸に、森の奥へと続く道を進んでいく。彼の、そして「ラッキー・ストライカー」の、波乱に満ちた冒険の物語は、今、まさにその第一ページが開かれようとしていた。




