ep 5
アルクスの若鷲、運命の出会いと始まりの鐘 (さらなる続き)
アルクス冒険者ギルドの依頼掲示板の前。アレンとレミーラが初めての依頼を選ぼうとしているところに、嵐のように現れた虎耳族の少女コハク。彼女の底抜けの明るさと、アレンのユニークスキル「ランダムボックス」への強烈な好奇心に押し切られる形で、アレンは少し困ったような、しかしどこか楽しそうな表情で、再びその不思議なスキルを発動しようとしていた。
「よーし、アレン! アタイに、とびっきりの『何か』を見せておくれよ! 出てこい、びっくり箱~!」コハクは、子供のように目をキラキラと輝かせ、アレンの手元を食い入るように見つめている。彼女の虎耳は期待にピクピクと動き、尻尾は嬉しそうに左右に揺れていた。
「も、もう、コハクさんたら……。アレン君、無理にしなくても……」レミーラは、コハクのあまりの勢いに少し引き気味ながらも、アレンを気遣うように小声で言った。
「いや、大丈夫だよ、レミーラ。それに、僕もこのスキルにはまだ慣れてないから、何が出るか試しておきたいしね」アレンは苦笑しつつ、右手をそっと前に突き出し、意識を集中させた。「いでよ! ランダムボックス!」
アレンの掛け声に応えるように、彼の掌の上に淡い光が集まり、前回よりも少しだけ大きな、しかし相変わらず何の変哲もない木製の小箱がふわりと現れた。コハクは「おぉーっ!」と歓声を上げ、レミーラも固唾を飲んでその小箱を見守る。
パカッ。
小箱の蓋が軽やかな音と共に開き、中から出てきたのは……ピカピカに磨かれた、銀色のフォークが一本だった。
「………。」
「………。」
「………フォーク?」
アレンとレミーラは顔を見合わせ、コハクは首を傾げた。「え~? なんだ、フォークかぁ。アタイ、もっとこう、ドカーン!と爆発するような面白いものが出てくるかと思ったんだけどなー」コハクは、少しだけ残念そうに唇を尖らせた。
「ご、ごめん……。本当に何が出るか分からないんだ……」アレンは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「まあまあ、アレン君、フォークだって何かの役に立つかもしれませんよ! 例えば、とっても硬いお肉を食べる時とか……」レミーラが必死にフォローしようとするが、いまいち説得力がない。
「ふーん。じゃあ、もう一回! 次こそは、アタイをアッと言わせるようなもの、頼むぜ、アレン!」コハクは、まだ諦めていないようだ。
「う、うん……。それじゃあ、今日二回目……ランダムボックス!」
再びアレンの掌に光が集まり、今度は少し歪んだ形の革袋が現れた。アレンが恐る恐るその革袋の口を開けてみると、中から出てきたのは、色とりどりの小さなガラス玉、いわゆる「ビー玉」が数十個だった。
「……ビー玉、だね」アレンは力なく呟いた。
「キラキラしてて綺麗ですけど……これで魔物と戦うのは、ちょっと難しそうですわね……」レミーラも困ったように微笑む。
「なんだよー、アレン! もっとこう、気合入れて念じろよ! 『すごい武器出ろー!』とかさ!」コハクが、アレンの肩をバンバン叩きながら言った。
「うう、そう言われても……。じゃ、じゃあ、これが今日最後の一回だ! ええい、何か……何かすごいもの、出てこーい!」アレンは半ばヤケクソ気味に、しかし心の底では何か奇跡が起こることを願いながら、三度目のランダムボックスを発動させた。
今度は、これまでで一番大きな光の塊がアレンの掌に出現し、それが収まると、そこには鈍い金属光を放つ、奇妙な形状の鉄の塊が残されていた。それは、どこか機械の部品のようでもあり、武器の一部にも見える、何とも形容しがたい物体だった。
「おっ! 今度のはなんだか強そうだぞ!」コハクが目を輝かせる。
「これは……何かの装置の一部、でしょうか……?」レミーラが不思議そうにそれを覗き込む。
アレンも、それが何なのか見当もつかず、首を傾げるばかりだった。
「フン、そんなガラクタで一体何ができるというのだ。やはり、戦いは圧倒的な火力に限るだろうが!」
その時だった。三人の背後から、不意に、少ししゃがれた、しかしどこか少年らしい張りのある声が響いた。振り返ると、そこには、自分の背丈ほどもある巨大なバズーカのような金属製の筒を肩に担いだ、赤茶色の髪のドワーフの少年が、腕を組んで仁王立ちしていた。額には作業用ゴーグルを乗せ、腰には工具入れをぶら下げている。その瞳は、アレンたちの持つ奇妙な鉄塊を、値踏みするようにじっと見つめていた。
「お、お前は……?」アレンが尋ねる。
「オイラはボルガン! ボルガン・アイアンハンマーだ! 見ての通り、しがない魔砲技師さ! それより、お前たち、なかなか面白そうなことをしてるじゃないか。その箱から変なもん出すスキル、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ興味あるぜ!」ボルガンは、ぶっきらぼうな口調ながらも、そのヘーゼル色の瞳は好奇心で輝いていた。
コハクは、ボルガンのその巨大な魔砲に目を輝かせた。「うおー! なんだそのでっかい筒は!? すっげーカッコいいじゃんか! それ、武器なのか!?」
「フフン、いかにも! これこそ、オイラが魂を込めて作り上げた最強最高の魔砲、『轟鉄 Mk-II』よ! こいつの一撃にかかれば、どんな魔物も木っ端微塵だぜ!」ボルガンは、自慢の魔砲をドンと床に突き立て、胸を張った。
「木っ端微塵……いい響きだねぇ! アタイと考えが合いそうだ!」コハクはニシシと笑う。
レミーラは、その物騒な会話に少し顔を引きつらせている。
「実はな……」ボルガンは、少しだけバツが悪そうに視線を逸らしながら言った。「オイラ、ちょっと前にいたパーティーをクビになっちまってな。なんでも、オイラの『轟鉄』が強すぎて、素材が取れなくなるから、だとよ。ケチな奴らだぜ、全く。で、新しいパーティーを探してたんだけど……お前ら、もしかして、その変な箱から武器とかも出せるのか? それなら、オイラの魔砲と組み合わせたら、最強のパーティーになれると思わないか!?」
アレンは、ボルガンのその言葉に、彼の「一撃必殺」への純粋な情熱と、同時に仲間を求めている切実な気持ちを感じ取った。それに、彼の魔砲の火力は確かに魅力的だ。
「武器が出るかは分からないけど……でも、僕たちもまだパーティーメンバーを募集してたところなんだ。ボルガンさえ良ければ、一緒にやってみないか? 素材のことは……まあ、何とかなるよ、きっと!」アレンは、笑顔で手を差し出した。
「ほ、本当か!? やったぜ! オイラ、お前らとなら、きっと伝説に残るような冒険ができる気がするんだ!」ボルガンは、アレンの手を力強く握り返し、子供のように顔を輝かせた。
こうして、アレン、レミーラ、コハク、そしてドワーフの魔砲使いボルガンという、なんとも個性的で、そしてどこか危なっかしい4人の若き冒険者たちが、運命の糸に導かれるようにして集結した。
「よし、それじゃあ早速、パーティー登録をしようぜ!」アレンが提案する。
「賛成~! パーティー名はどうする? やっぱ、『爆裂虎軍団』とか、カッコいいのがいいよな!」コハクが早速名乗りを上げる。
「えええ!? もっとこう、知的で、こう、アカデミックな名前が良いと思うぜ! 例えば、『万象究明魔砲隊』とか!」ボルガンも負けじと提案する。
「ふ、二人とも、もう少し可愛らしい名前の方が……その、『四つ葉のクローバー』とか……」レミーラが小声で控えめに言う。
アレンは、三人のそのあまりにもバラバラな意見に苦笑しながらも、一つの名前を思いついた。
「それじゃあ、こうするのはどうかな? 僕のスキルは運任せだし、レミーラのドジも時々すごい幸運を呼ぶ。そして、コハクとボルガンは、まさに強力な一撃を叩き込むストライカーだ。だから……『ラッキー・ストライカー』っていうのは?」
「「「それだー!!」」」
意外にも、三人の意見は一致した。
そして、4人は意気揚々と受付カウンターへと向かい、ルナに少し呆れられながらも、無事に新しいパーティー「ラッキー・ストライカー」の登録を済ませた。銅製の冒険者カードに刻まれた、それぞれの名前と、新たに結成されたパーティー名。それは、彼らの長く、そしてきっと波乱万丈な冒険の、輝かしい始まりを告げるファンファーレのようだった。




