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異世界転生×ユニークスキル 武器使い ありとあらゆる武器を使いこなして無双する!?  作者: 月神世一
武器使いの勇者

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30/64

ep 30

ドラゴンの前の腹ごしらえ、アルクスに香る故郷のカレー

アルクスの宿屋「木漏れ日の宿」の、簡素ながらも清潔な自室に戻り、軋む音を立てるベッドにどっかりと腰を下ろしたリュウは、ふぅ、と大きなため息をつきながら、天井の木目をぼんやりと見上げた。S級冒険者への昇級試験、その内容がまさかドラゴン討伐とは……。先ほどまでのギルドマスター、バルガスとの緊張感に満ちたやり取りと、そのあまりにも壮大な試練の重圧が、今になってじわじわと彼の肩にのしかかってくるようだった。

「まさか、本当にドラゴンを倒すことになるなんてなぁ……。人生、何が起こるか分からんもんだ」リュウは、しみじみと、誰に言うともなく呟いた。ウェポンズマスターへのジョブチェンジという奇跡、そしてA級への特例昇格。その喜びよりも、今はその先に待ち受ける、あまりにも巨大すぎる試練の大きさに、改めて実感が湧いてきていた。

隣のベッドに同じように腰掛け、長旅とギルドでの緊張で少し疲れた表情を浮かべていたセーラも、リュウのその独り言に、深く同意するように静かに頷いた。「本当に、お話が急に飛びすぎましたわね、リュウ様。ついこの間まで、ゴブリンの集落でさえあれほど苦労していたというのに……。それが今や、伝説のドラゴン討伐だなんて、まるで夢物語のようですわ」彼女の声には、リュウと共に歩んできた目覚ましい、しかしあまりにも急激な成長への、戸惑いにも似た驚きが込められていた。

その時だった。リュウのお腹から、ぐぅぅぅううう~~~~……と、間の抜けた、しかしかなり大きな音が、静まり返った部屋に響き渡った。

「……ははっ。どうやら、ドラゴン退治のことを考えるよりも、まずは腹ごしらえの方が先決みたいだな」リュウは、ばつが悪そうに、しかしどこか吹っ切れたように苦笑しながら立ち上がった。「よし、セーラ! あの市場のおばちゃんの所に行けば、きっとまた何か美味しい物があるに違いない。今日は祝杯だ!」

セーラは、そんなリュウのあっけらかんとした食い意地には、もはや慣れたものだ。「まぁ、リュウ様ったら♡ いつもながら、お元気でいらっしゃいますのね」と、くすりと優しく微笑んだ。彼のこういう、どんな時でも前向きで、現実的なところに、彼女はいつも救われているような気がしていた。

二人は連れ立って、夕暮れ時の活気が戻り始めたアルクスの夜の市場へと向かった。様々な人種が行き交い、露店の灯りが温かく道を照らし、食欲をそそる様々な匂いが漂ってくる。

「やぁ、おばちゃん! 今日も何か良いのあるかい?」リュウは、いつもの馴染みの乾物屋の、恰幅の良い女将の店先に立つと、満面の笑みで声をかけた。

「フフフ、おや、リュウ兄ちゃんとセーラちゃんじゃないか。また来たねぇ、今日は一段と良い顔してるじゃないか」おばちゃんも、二人を認めるなり、いつものように人懐っこい笑顔で応じ、そして、なにやら店の奥からゴソゴソと小さな革袋を取り出した。それは、鮮やかな黄金色や燃えるような赤色、そして深みのある茶色の粉末が、絶妙なバランスで混ざり合った、小さな袋だった。その袋から漏れ出す、複雑で、しかしどこか懐かしい香りに、リュウは一瞬息を呑んだ。

「え!? こ、これって……もしかして、カレースパイスじゃないか!」リュウは、信じられないといった表情で目を丸くして、ほとんど叫ぶように声を上げた。まさかこんな、剣と魔法が支配する異世界で、彼がこよなく愛した故郷、日本の国民食とも言えるカレーに不可欠な、あの魔法の粉に出会えるとは、夢にも思わなかった。

「フフフ、やっぱり兄ちゃんなら、この匂いが分かると思ったよ」おばちゃんは、リュウのそのあまりの興奮ぶりに、してやったりといった得意げな表情で深く頷いた。「ほんの数日前にね、遠い東の国から来たっていう、ちょっと変わった身なりの旅の商人が、これを少しだけ置いていったんだよ。『故郷の秘伝の香辛料で、一度嗅いだら忘れられない、食欲をそそる魔法の粉さ』なんて、大袈裟なことを言ってたけどねぇ」

「買う! 買います! おばさん、これを全部買わせてください!」リュウは、もはや興奮を抑えきれず、前のめりになって、おばちゃんにほとんど懇願するように頭を下げた。

隣でその一部始終を不思議そうに見ていたセーラが、「リュウ様、その『かれーすぱいす』というのは、一体何なのでございますか? そんなにリュウ様を興奮させるものだなんて……」と、小首を傾げながら尋ねた。

リュウは、彼女の純粋な疑問に、少し困ったような、しかし嬉しさを隠しきれない顔で言った。「ああ、セーラ。これを言葉で説明するのは、すごく難しいんだが……とにかく、めちゃくちゃ美味しい物なんだ。うーん、そうだな……色々な種類のスパイスを混ぜて、肉や野菜と一緒にじっくり煮込んで作る、ちょっとピリッとして、でも奥深い味わいの煮込み料理、かな。今夜は、俺がとびっきりのご馳走を作ってやるから、楽しみにしててくれよ!」

セーラは、リュウのその自信に満ちた言葉と、彼の瞳の奥に宿る故郷への懐かしさのようなものに、目をキラキラと輝かせた。「まぁ、嬉しいですわ! リュウ様のお料理は、先日いただいた海鮮味噌鍋も、本当に天にも昇るようなお味でしたから、きっと今夜も素敵なご馳走なのでしょうね! わたくし、とっても楽しみです!」

さっそくリュウたちは、カレースパイスと共に、鍋に入れるための新鮮な肉や野菜、そして何よりも欠かせない米を市場で手際よく買い求めると、意気揚々と宿屋へと戻り、女将に事情を話して特別に厨房を借り受けた。リュウは、まるで熟練の料理人のように手際よく米を研ぎ始め、セーラも、その隣でリュウの指示を受けながら、市場で買ったばかりの新鮮な肉や玉ねぎ、人参、じゃがいもなどを、丁寧に、そして楽しそうに切り分けていく。

調理が進むにつれて、宿屋の厨房からは、これまで誰も嗅いだことのないような、複雑で、芳醇で、そして強烈に食欲をそそるスパイシーな香りが、宿屋全体に漂い始めた。

「おお……これは一体、何の匂いじゃろうか? こんなにも腹の虫を刺激する香りは、生まれて初めてじゃわい」

「こりゃあ、たまらん香りじゃなぁ。どこの国の料理じゃろうか? 厨房の方からじゃぞ!」

普段は夕食時以外は比較的静かな宿屋の廊下に、その未知なる魅惑的な香りに誘われた女将や、他の宿泊客たちが、何事かと次々と顔を覗かせてきた。彼らは皆、嗅ぎ慣れない、しかし本能的に美味しいと感じるエキゾチックな香りに興味津々の様子で、厨房の入り口に小さな人だかりができていた。

リュウは、そんな人だかりの様子を見て、少し照れながらも、しかしどこか誇らしげに笑った。「ハハハ、どうやらカレーの香りは、この異世界でも威力絶大みたいだな。皆さん、すみません、ちょっと珍しい料理を作ってるもので。もしよかったら、少しですがお味見もありますから、ぜひ食べてみてください」

やがて、大きな鍋の中では、肉と野菜がスパイスと共に見事な調和を奏で、とろりとした黄金色のカレーが完成し、同時に飯盒で炊き上げた、ふっくらと艶やかな炊き立てのご飯も用意された。リュウ特製の、異世界初の本格的なカレーライスが、その場にいた全ての人々に振る舞われたのだ。

「んぐっ! んー! こ、これは……美味い! なんという複雑で、深みのある味わいじゃ!」

「最高だ! こんな美味しい物を食べるのは、生まれて初めてだぞ! スパイスの辛さと、野菜の甘み、そして肉の旨味が、口の中で踊っているようだ!」

カレーを一口、また一口と口にした人々は、その未知なる、しかし一口食べれば誰もが虜になる複雑なスパイスの風味と、じっくりと煮込まれた肉や野菜の旨みが完璧に溶け合った奥深い味わいに、一様に目を丸くして驚嘆の声を上げ、そして誰もが夢中でそのスプーンを動かし続けた。

宿屋の女将は、そのあまりの美味しさに目を輝かせながら、興奮気味にリュウに言った。「リュウさん、これは……これは本当に、本当に素晴らしいお料理だよ! もしよかったら、このカレーの作り方を教えてもらって、うちの宿屋の看板メニューにさせてもらえないかしら!?」

こうして、リュウが故郷を想いながら作った愛情たっぷりのカレーは、その日のうちに瞬く間にアルクスの街で大きな評判を呼び、伝説の料理として語り継がれることになったのだった。

数日後、その噂はついに冒険者ギルドにまで届き、ギルドの食堂でも、リュウ直伝のレシピによるカレーが特別メニューとして提供されることになった。昼食時になると、ギルドの食堂は、その噂のカレーを求める屈強な冒険者たちで、連日溢れかえるほどの盛況ぶりとなった。

ギルドマスターのバルガスもまた、その噂を聞きつけ、珍しく自ら食堂に足を運んだ、そんな一人だった。彼は、大きな皿に山のように盛られたカレーライスを、まるで子供のように目を輝かせながら受け取ると、周囲の目も気にせず、一心不乱に、そして実に美味そうに頬張っていた。

「むぅ……こりゃあ……こりゃあ、確かに美味い! む、おかわりだ! 大盛りで頼む!」

普段は威厳に満ち、アルクスの冒険者ギルドの頂点に立つ彼の顔には、カレーのその抗いがたい美味しさにすっかり夢中になった、まるで無邪気な子供のような満面の笑顔が浮かんでいた。

リュウとセーラは、そんな人々の幸せそうな笑顔と、活気に満ちたギルドの食堂の光景を眺めながら、自分たちの作った料理が、こうして異世界の人々の心を掴み、ささやかな幸せを届けることができたことを、心の底から喜び合った。

S級昇級試験、ドラゴン退治への道のりは、まだ始まったばかりで、その前途は計り知れないほどに険しく、そして危険に満ちているだろう。しかし、彼らの冒険は、この美味しく、そして心温まるカレーの思い出と共に、これからも力強く、そして希望に満ちて続いていくのだった。

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