ep 26
深淵の洞窟、ゴブリン王国の終焉、そして……
ゴブリンキングとその配下のシャーマンが潜むという討伐依頼の朝、リュウとセーラは、アルクスの街から数日離れた、陰鬱な雰囲気が漂う山岳地帯の洞窟の入り口に立っていた。空は厚い灰色の雲に覆われ、陽の光はほとんど届かず、じめじめとした湿度の高い空気が肌にまとわりつく。洞窟の周囲の岩肌には、まるで古の呪いのようにびっしりと苔が張り付き、足元には昨夜降り続いた冷たい雨の名残か、黒ずんだ小さな水たまりが点在し、不気味な光を反射していた。
「想像していた以上に……不気味な場所ですわね。空気が重く、淀んでいるような……。本当に、こんな場所に、あの恐ろしい化け物たちが潜んでいるのでしょうか……?」
セーラは、洞窟の暗い奥を見通そうとするかのように目を凝らし、周囲を警戒しながら不安げに呟いた。彼女の繊細な指先は、純白の聖杖を握る手に無意識のうちに力が込められ、その関節が白くなるほどに、わずかに震えているようにも見えた。
「ああ、間違いないだろうな。ギルドの情報によれば、この洞窟の奥深く、まるで迷宮のように複雑に入り組んだ先に、奴らの大規模な集落があるはずだ。そして、その中心にキングとシャーマンがいる」
リュウは、腰の両脇に携えた愛用の二本のナイフの柄を、無意識のうちに確かめるように握りしめ、その鋭い眼光で洞窟の闇の先を見据えた。ウェポンズマスターとして新たな力を得たことによる絶対的な自信は、確かに彼の内には漲っている。しかし、相手はかつて死闘の末に辛くも勝利した、あのゴブリンキングだ。決して油断はできない。
「油断は禁物だ、セーラ。ゴブリンキングは、ただ単に強力なだけでなく、我々が思っている以上に狡猾な知恵も持っている。そして、シャーマンは間違いなく厄介な魔法を使ってくるだろう。それに加えて、ギルドの情報では、凶暴なウルフの群れも飼い慣らしているとなると……これは、相当な手強い相手になるぞ」
「はい、分かっております、リュウ様。ですが、わたくしもこの日のために、リュウ様のお役に立てるよう、攻撃魔法を必死に覚えてまいりました! きっと、以前のわたくしよりも、もっとリュウ様のお力になれるはずですわ!」
セーラは、胸の内に渦巻く不安を押し殺すように、きりりと顔を上げ、リュウの横顔を力強く見つめた。その美しいアクアマリンの瞳には、恐怖を乗り越えた確かな決意と、唯一の仲間と共にこの試練に立ち向かうという、揺るぎない覚悟の光が宿っていた。
「ああ、頼りにしているぞ、セーラ」
リュウは、セーラのその成長した姿と、言葉に込められた強い意志に、心からの頼もしさを感じながら、小さく、しかし力強く頷いた。二人は互いに視線を交わし、無言のうちに覚悟を確かめ合うと、静かに、しかし確かな決意を胸に、まるで冥府の入り口のように暗く口を開けた洞窟の奥深くへと、慎重に足を踏み入れた。
洞窟の中は、外の僅かな光さえもほとんど届かず、息が詰まるほどにじめじめとした空気が肌にまとわりついてくる。そして、独特の、獣の体臭と腐敗した汚物が混じり合ったような、強烈な生臭い臭いが鼻腔を執拗に刺激し、セーラは思わず顔をしかめ、袖で鼻と口を覆った。
「うっ……この酷い臭い……まさか、これは……」
「ああ、間違いない。おそらく、これがゴブリンたちの巣穴の臭いだろう。奴らは基本的に不潔だからな。だが、この臭いの強さは、集落の規模が大きいことを示している。警戒を怠るなよ、セーラ」
リュウは、周囲の僅かな物音、滴り落ちる水の音、あるいは遠くで響く反響音にも細心の注意を払いながら耳を澄ませ、片方の手を常に壁面にそっと添わせながら、慎重に、そして音もなく洞窟の奥へと進んでいく。足元はぬかるんで滑りやすく、時折、カサカサと得体の知れない小さな虫が壁や地面を這う音が聞こえてきて、神経を逆なでした。
やがて、息が詰まるほどに狭く、そして屈まなければ進めないような通路を抜けると、不意に視界が大きく開けた。そこは、まるで地底に隠された巨大な空洞のように広々とした空間で、天井からは鍾乳石が不気味な牙のように垂れ下がり、地面には無数の粗末な獣の皮や木材で作られた住居が、まるでキノコのように岩陰に密集して建てられ、そこにはおびただしい数のゴブリンたちが、まるで地底の虫の大群のように蠢いていた。
「あれが……ゴブリンの集落……! なんという数なのでしょう……!」
セーラは、目の前に広がるその異様な、そして圧倒的な光景に息を呑んだ。無数のゴブリンたちが、まるで地獄の釜が開いたかのようにひしめき合っている。その数、ざっと見渡しただけでも五十体を遥かに超えているだろう。中には、明らかに他のゴブリンよりも一回りも二回りも体格が大きく、鍛え上げられたように屈強なゴブリンや、粗末ながらも打ち捨てられた人間の兵士から奪ったのであろうか、革や金属の鎧を歪な形で身につけたゴブリンの姿も散見される。
そして、その異様な光景の中で、ひときわリュウたちの警戒心を煽ったのが、ゴブリンたちの間にまるで番犬のように飼い慣らされた、十匹ほどの全身が漆黒の毛で覆われた凶暴なウルフたちの存在だった。「クゥゥゥン……グルルル……」鋭い牙を剥き出しにし、低い唸り声を喉の奥で鳴らしながら、彼らは侵入者であるリュウたちに、明確な殺意と敵意を剥き出しにしていた。
「やはり、ギルドの情報通り、一筋縄ではいかない手強い相手ばかりだ……! セーラ、気を引き締めていくぞ! 一瞬たりとも油断するな!」
リュウは、改めて気を引き締め直し、腰の短剣の柄を強く握りしめた。ウェポンズマスターとしての新たな力をもってすれば、この程度の数のゴブリン、そしてウルフなど、恐れるに足らない。しかし、油断は確実に命取りになる。
「セーラ、まずはあの凶暴なウルフたちから片付けるぞ! 奴らは動きが速くて厄介だからな! 俺が引き付ける、お前は後方から援護を頼む!」
リュウは、セーラに簡潔に指示を出すと同時に、先制攻撃を仕掛けるべく、その場から音もなく、しかし電光石火の速さで地面を蹴って走り出した。
「クゥゥゥン! ガウウウッ!」
鋭い牙を剥き出しにした漆黒のウルフたちは、リュウのその俊敏な動きに即座に気づき、低い唸り声を上げながら、まるで黒い弾丸のように一斉に襲いかかる。
リュウは、眼前に迫り来る牙と爪の嵐を冷静に見極め、亜空間から瞬時に取り出した一対の短剣"疾風"で、ウルフたちの連携攻撃を、まるで水面を滑るような滑らかな動きで巧みにかわしていく。研ぎ澄まされた二本の刃が、月の光も届かない薄暗い洞窟内で、焚火の赤い光を反射して鈍く、しかし妖しくきらめいた。そして、ウルフの群れが一瞬動きを止めたその隙を突き、リュウは一頭のウルフの喉元、その最も脆弱な急所に、寸分の狂いもなく正確に短剣を突き刺した。
「キャンッ……!」
甲高い、しかし短い悲鳴を上げる間もなく、そのウルフはズルリと力なく地面に倒れ伏し、痙攣した後に動かなくなった。
リュウは、休む間もなく次々と亜空間から最適な武器を取り出し、まるで戦場を支配する指揮者のように、あるいは予測不可能な踊り手のように、縦横無尽に戦っていく。
ゴブリンたちが密集する狭い通路での乱戦では、両手持ちの巨大な戦斧を、まるで竜巻のように振り回し、ゴブリンたちの粗末な木の盾や革鎧ごと、その肉体を叩き割り、骨を断つ。重い戦斧が唸りを上げ、周囲の岩壁に激しくぶつかる音は、洞窟内に不気味な轟音となって響き渡り、ゴブリンたちの戦意を削いでいく。
少し開けた場所では、鎖の先に三日月型の鋭い刃を持つ鎖鎌を、まるで生きている鞭のように操り、予測不能な軌道で複数のゴブリンを同時に薙ぎ払い、あるいはその首を絡め取って引き倒す。鎖鎌は、リュウの意のままに空間を舞い、ゴブリンたちの体を容赦なく切り裂き、阿鼻叫喚の悲鳴を上げさせた。
そして、洞窟の奥、少し距離のある場所から弓矢で攻撃してくるゴブリンに対しては、背に負った漆黒の長弓を瞬時に取り出し、鍛え上げられた腕力で、まるで雷光のような速さで矢を放つ。その矢は、風を切り裂く鋭い音と共に、一体一体のゴブリンの額や胸の中心を、吸い込まれるように正確に射抜き、確実にその命を奪っていく。矢が風を切る音と、ゴブリンたちの断末魔の短い叫びが、広大な洞窟内に不気味に響き渡った。
リュウのその変幻自在で、そしてあまりにも圧倒的な戦い方に、密集して数を頼みにしていたゴブリンたちは完全に翻弄され、恐慌状態に陥り、次々と緑色の血煙を上げて倒れていく。
「キシャアアアア! 小賢しい人間どもめが!」
その時、ゴブリンたちの後方から、ひときわ異様な、鳥の羽根や獣の骨で飾り付けられた汚れたローブを身にまとった小柄なゴブリンが、禍々しい紋様の刻まれた木の杖を高く掲げ、甲高い声で何やら怪しげな呪文を唱え始めた。ゴブリンシャーマンだ。
「燃え盛る怒りの炎よ、敵を焼き尽くせ! ファイアーボール!」
シャーマンの杖の先から、赤黒く燃え盛る巨大な炎の塊が、まるで意思を持つ凶暴な生き物のようにリュウに向かって高速で飛んでくる。
リュウは、眼前に迫り来るその灼熱の炎を冷静に見据え、亜空間から瞬時に取り出した、表面に魔法防御のルーンが刻まれた頑丈な鉄製の円盾で、その炎の塊を正面から受け止めた。ゴウッ!という凄まじい轟音と共に、炎は盾の表面で激しく弾け、周囲に強烈な熱風と火の粉が吹き荒れる。
そして、リュウはファイアーボールの衝撃で体勢をわずかに崩したゴブリンシャーマンの隙を見逃さなかった。手にしていた鉄盾を、まるで円盤投げのように勢いよく投げつけ、シャーマンの華奢な体を打ち据え、その体勢をさらに大きく崩す。怯んで動きが止まったその一瞬の隙に、一気に距離を詰め、抜き身のナイフで、もはや抵抗する術もないシャーマンの喉元を、躊躇うことなく深く切り裂いた。
「キシャアアア……ガハッ……」
断末魔の短い悲鳴と、血の泡を吹く音を最後に、ゴブリンシャーマンはその場に崩れ落ち、二度と動かなくなった。
リュウは、シャーマンを失い統率を欠いた残りのゴブリンたちを、まるで雑草でも刈り取るかのように蹴散らし、最後に残った、ひときわ屈強な体格をしたホブゴブリンらしき個体に、氷のように冷たい視線を向けた。
「グルルル……ヒィィ……」
そのホブゴブリンは、仲間たちが目の前で次々と、まるで赤子の手をひねるように倒されていく様を目の当たりにし、完全に戦意を喪失し、恐怖に全身をわなわなと震わせ、その大きな体をできる限り小さく縮こまらせていた。
リュウは、ゆっくりと、しかし確かな足取りでそのホブゴブリンに近づき、血に濡れたナイフの冷たい切っ先を、その太い喉元に音もなく突きつけた。
「お前の相手は、もうこの集落にはいない。観念しろ。キングの居場所を言え」
「ヒッ……! た、助け……」
ホブゴブリンは、もはや抵抗する気力もなく、その場にがっくりと膝をついた。
リュウは、周囲を見渡し、ゴブリンたちが全て無力化されたことを確認すると、セーラの方へと静かに歩み寄った。
「セーラ、もう大丈夫だ。怪我はないか?」
「はい、リュウ様。わたくしは大丈夫でございます。リュウ様のあの素晴らしい戦いぶり……本当に、本当に、言葉もございません!」
セーラは、リュウのその目にも留まらぬ速さの、そしてあまりにも変幻自在な戦いぶりに、心の底から感嘆し、尊敬の念を込めて、満面の笑みを浮かべて答えた。彼女もまた、習得したばかりの攻撃魔法を使う機会を虎視眈々と窺っていたのだが、リュウがあまりにも早く、そして効率的に敵を殲滅してしまったため、結局一度もその魔法を披露する出番がなかったのだ。
二人は、倒れたゴブリンたちの死体から、クエストの達成証明となるであろうシャーマンの杖や、あるいは何か価値のあるものがないかと手早く確認し、そして、ホブゴブリンから聞き出したゴブリンキングがいるはずの、洞窟のさらに奥深くへと、慎重に、しかし迷うことなく進んでいった。
洞窟の最深部は、これまでの通路とは異なり、ひときわ広く、そして高い天井を持つ広大な空間となっていた。そして、その中央の、まるで玉座のように積み上げられた岩の上に、これまで見てきたどのゴブリンたちとも明らかに異なる、絶望的なまでに巨大な影が、不気味な静寂の中で待ち構えていた。
「グルルル……来たか、人間ども……」
全身を黒光りする分厚い鉄鎧で覆い、その手には人間では到底扱えそうもない、巨大な両刃の戦斧を携えたゴブリンキングは、圧倒的な威圧感を放ちながら、その血走った赤い双眸でリュウたちを鋭く睨みつけた。その巨躯は、他のゴブリンの数倍は優にあり、その立ち姿は、まさしくこのゴブリンたちの王国の支配者にふさわしい風格を漂わせている。
「人間ども……よくも我が可愛い部下たちを、ここまでいたぶってくれたな……! その罪、万死に値するぞ! 八つ裂きにしてくれるわ!」
ゴブリンキングは、怒りにその醜悪な顔を歪ませ、その巨大な戦斧を地面に叩きつけた。ゴウンッ!という凄まじい衝撃音と共に、周囲の地面が僅かに揺れた。
「お前がゴブリンキングか……! 多くの村を襲い、人々を恐怖に陥れてきたお前の好き勝手は、この俺が、ここで終わらせてやる!」
リュウは、亜空間から瞬時に取り出した、刀身に龍の紋様が刻まれた漆黒の鋼でできた両手剣を、その両手でしっかりと構え、ゴブリンキングのその圧倒的なプレッシャーに一歩も引くことなく、敢然と立ち向かう。ウェポンズマスターとして、そしてA級冒険者として、この程度の相手に怯むわけにはいかない。
「グルアアアアアアアアアッ!」
怒りの咆哮と共に、ゴブリンキングはその巨大な戦斧を、まるで嵐のように凄まじい勢いで振り回した。その一撃は、風を切り裂く轟音だけでも凄まじく、もしもまともに受ければ、リュウの体など一瞬にして骨ごと叩き潰されてしまうだろう。
リュウは、ウェポンズマスターとしての超人的な反射神経と、研ぎ澄まされた両手剣の技で、ゴブリンキングのその振り下ろす戦斧の攻撃を、火花を散らしながらも正面から受け止めた。金属と金属が激しくぶつかり合い、耳をつんざくような衝撃音が、広大な洞窟内にけたたましく響き渡る。「クッ……! なんというパワーだ……!」ゴブリンキングのその想像を遥かに超える圧倒的なパワーに、リュウは両腕が痺れるのを感じ、思わず舌を巻いた。
しかし、リュウは決して諦めなかった。ウェポンズマスターとしての卓越した熟練の技で、重い両手剣を、まるで自分の体の一部であるかのように巧みに操り、ゴブリンキングの繰り出す荒々しい攻撃の数々を、紙一重でかわし、あるいは受け流していく。そして、ほんの一瞬だけ生まれる敵の隙を突き、両手剣をゴブリンキングの分厚い鎧の僅かな隙間、関節部分などの弱点へと、正確無比に突き刺していった。
「グルギャアアアアアアアッ!」
これまで聞いたどのゴブリンの悲鳴よりも大きく、そして苦悶に満ちた絶叫が洞窟内に響き渡り、ゴブリンキングは大きくよろめいた。しかし、そのあまりにも巨大な体躯は、簡単には倒れない。その赤い瞳は、なおもリュウへの憎悪と殺意に燃え盛っている。
「セーラ! 今だ! アレを頼む!」
リュウは、ゴブリンキングが体勢を立て直すよりも早く、最後の攻撃をセーラに託した。
「はい、リュウ様!」
セーラは、リュウのその言葉に応え、これまでのどの魔法よりも強く、そして多くの魔力を込めて、渾身の力を込めて魔法の詠唱を開始した。彼女の小さな体から放たれる聖なる魔力は、洞窟内の淀んだ空気を浄化し、そして凍てつかせるほどに、冷たく、そして強力なものだった。
「聖なる氷の吐息よ、邪悪なる者を打ち砕け! ブリザード・ランス!」
セーラの掲げた聖杖の先端から、強烈な冷気を纏った、鋭く尖った巨大な氷の槍が、まるで意思を持ったかのように形成され、よろめくゴブリンキングの巨体目掛けて、凄まじい勢いで射出された。
ゴブリンキングは、その氷の槍を戦斧で防ごうとしたが、あまりの勢いと冷気に動きを封じられ、その胸の中心を深々と貫かれた。全身が瞬く間に白い氷に覆われ、巨大な氷像と化し、完全にその動きを封じられた。
リュウは、その千載一遇の好機を、決して見逃さなかった。両手剣を頭上に大きく掲げ、残された最後の力を振り絞り、氷漬けとなったゴブリンキングに向かって猛然と突進する。
そして、渾身の力を込めて、その漆黒の両手剣を、力任せに振り下ろした。
バキィィィィンッ!という、氷が砕け散る甲高い音と共に、漆黒の刃は、凍てつき、脆くなったゴブリンキングの巨体を、まるで熟れた果実を切り裂くかのように、鎧ごと真っ二つに両断した。
「グル……ア……」
ゴブリンキングは、もはや声にならない最後の呻きを上げ、その巨体は二つに分かたれたまま、砕け散った氷の塊と共に、轟音を立てて地面に崩れ伏した。
リュウとセーラは、互いに肩を寄せ合い、激しい戦いの余韻に浸りながら、荒い息をついていた。広大な洞窟内には、完全な静寂が戻り、先ほどまでリュウの剣技とセーラの魔法が作り出した、砕け散った氷の破片だけが、焚火の残り火に照らされて、キラキラと微かに光を反射している。
「やりましたね、リュウ様! ついに……ついに、ゴブリンキングを倒しましたわ!」
セーラは、満面の笑みを浮かべ、喜びを爆発させた。その美しい目には、困難な戦いを乗り越えた達成感と、心の底からの安堵の色が滲んでいる。
「ああ、セーラのおかげだ。最後のあのブリザード・ランスがなければ、もっと長引いていたか、あるいは危なかったかもしれない。本当に、ありがとう」
リュウは、セーラに心からの感謝の言葉を述べた。彼女の目覚ましい成長と、的確なサポートが、今回の困難な勝利に大きく貢献したことは、紛れもない事実だった。
二人は、ゴブリンキングの巨体の残骸から、今回のクエストの達成証明となるであろう、禍々しい気を放つ巨大な角や、あるいは何か他に価値のある戦利品がないかと慎重に回収しようとした。
その時、、だった。リュウの背後、先ほどまで静寂に包まれていたはずの洞窟のさらに奥深くから、突如として、地響きと共に、新たな、そしてゴブリンキングのそれとは比較にならないほど深く、重く、そして絶望的なまでの威圧感を伴う、巨大な何かの咆哮が轟いた。
死闘は、まだ、終わってはいなかったのだ。




