ep 23
ウェポンズマスターの初陣、アルクスの衝撃
アルクス冒険者ギルドの裏手に広がる広大な訓練場は、普段の訓練に励む冒険者たちの掛け声や武器のぶつかり合う音が嘘のように、水を打ったように静まり返っていた。その中央には、緊張した面持ちながらもどこか覚悟を決めたリュウと、その傍らに寄り添うように立つセーラの姿があった。そして、彼らを取り囲むように、アルクスギルドが誇る屈強な5人のA級冒険者が、それぞれの得物を手に、油断なくリュウとセーラを見据えている。彼らの身にまとう鎧は、陽光を反射して鈍い輝きを放ち、長年使い込まれたであろう武器には、数多の死線を潜り抜けてきた者だけが持つ、ただならぬ風格と殺気が漂っていた。
最初に重苦しい沈黙を破ったのは、A級冒険者の中でもひときわ大柄な、熊のような体躯の男だった。その背丈ほどもある巨大な両手剣を、まるで木の枝でも扱うかのように軽々と肩に担ぎ、口元には自信に満ちた、しかしどこかリュウを試すような不敵な笑みを浮かべている。
「ほう、お前さんが噂の『ウェポンズマスター』か。随分と若い小僧だが、ギルドマスターが直々に推薦するだけあって、何か特別なものを持っているんだろうな。どんな武器を、どれほど振るうのか、この俺たちに存分に見せてもらうとしようじゃないか」彼の低い、しかしよく通る声には、明らかな挑戦的な響きと、格下と見なす相手へのわずかな侮蔑すら含まれていた。他のA級冒険者たちも、同様に興味と、そしてわずかな警戒が入り混じった鋭い眼差しで、リュウの一挙手一投足を見つめている。
リュウは、彼ら歴戦の猛者たちから放たれるプレッシャーにも似た視線を、臆することなく静かに受け止め、そして軽く笑い返した。確かに、目の前の男たちは、これまで対峙してきたどの敵よりも強大で、経験も豊富だろう。肌を刺すような緊張感はありながらも、それ以上に、彼の胸には新たな力への湧き上がるような期待感があった。ウェポンズマスターとして初めての実戦。その未知数の力を、この強者たち相手に試す絶好の機会だ。彼は、ゆっくりと深く息を吸い込み、意識を自身の内に広がる、まだ見ぬ亜空間へと集中させた。
その瞬間、訓練場にいた全ての者が息を呑む、信じられない光景が現出した。リュウの周囲の空間が、陽炎のようにぐにゃりと歪み、まるで異次元への扉が突如として開いたかのように、次々と、おびただしい数の武器が虚空から姿を現したのだ。
鋭い輝きを放つ両刃の鋼の剣、重厚な轟音を立てて地面に突き刺さる巨大な戦斧、月光を浴びてしなやかな曲線を描く白銀の槍、静かに、しかし確かな威圧感を放つ黒檀の長弓、彼の手に最も馴染んだ二本の短剣、敵の骨をも砕くであろう無骨な鉄槌、そして、鎖の先に三日月型の鋭い刃を持つ変幻自在の鎖鎌……その種類と数は、瞬く間に数十種類を超え、リュウの足元から周囲の空間を満たすように、床一面に無数の武器が、まるで武器の博物館がそのまま現実世界に出現したかのように広がった。
A級冒険者たちは、目の前で起こった、まるで神話の一場面のような奇跡的な光景に言葉を完全に失い、ただ呆然と目を見開いて立ち尽くすしかなかった。「な、何だ、今の現象は!?」「一体、どういう魔法を使ったというのだ……? あれだけの数の武器を、どこから……?」彼らの顔からは、先ほどまでの余裕綽々の笑みが完全に消え失せ、理解不能な現象に対する純粋な驚愕と、未知の力への畏怖の色が濃く浮かび上がっていた。長年、様々な魔法や特殊なスキルを目の当たりにしてきた彼らでさえ、このリュウが見せた光景は、想像を遥かに、そしてあまりにも常軌を逸していたのだ。
リュウは、自身の周囲に出現した無数の武器たちに意識を向けた。それは、まるで彼の手足が無限に増えたかのように、全ての武器が彼の意思と完全に同調し、彼が命じればいつでもその力を振るう準備ができていることを示していた。彼は、最初に足元に転がっていた、オーソドックスな片手剣を音もなく手に取ると、流れるような、しかし鋭い動きで一人目の、先ほど挑発的な言葉を放った大柄なA級冒険者に斬りかかった。キンッ!という甲高い剣戟の音と共に、冒険者は咄嗟にその両手剣でリュウの一撃を受け止めるが、予想以上の剣速とその威力に完全に気圧され、数歩後退することを余儀なくされる。
間髪入れずに、リュウは空中にまるで意思を持っているかのように浮遊していた巨大な戦斧を右手で掴み取り、体勢を立て直そうとしていた別の、盾を構えた重装鎧の冒険者に向かって、渾身の力で薙ぎ払った。重い斧が風を切り裂く音は凄まじく、冒険者は辛うじてその大盾で攻撃を防ぐものの、盾ごと体を持っていかれるような強烈な衝撃で大きく体勢を崩し、膝をつきそうになる。
さらに、リュウはまるで瞬間移動でもしたかのように、遠距離から魔法で援護しようとしていた弓使いの懐に槍を手に飛び込み、電光石火の速さでその穂先を突き出した。予測不能な角度から繰り出された、正確無比な一撃は、弓使いが矢をつがえるよりも早く彼の胸元の鎧の隙間を捉え、その動きを完全に封じた。
一つの武器に固執することなく、リュウはまるで戦場を舞う死神のように、あるいは熟練の演者が楽器を次々と持ち替えるかのように、流麗かつ変幻自在に武器を切り替えていく。両手の短剣で嵐のような素早い連撃を繰り出し、巨大なメイスで敵の防御ごと叩き潰すような重い一撃を叩き込み、時にはトリッキーな鎖鎌を鞭のように操り、予測不可能な変幻自在の軌道で敵を翻弄する。彼の動きは、あまりにも予測不可能で、あまりにも多彩すぎた。A級冒険者たちは、次から次へと繰り出される、全く異なる特性を持つ武器による攻撃の嵐に、もはや防戦一方となるしかなかった。
セーラは、訓練場の隅から、両手を胸の前で固く握りしめ、息を呑んでリュウのその神がかり的な戦いぶりを見守っていた。彼の周囲に、まるで彼に仕える兵士のように現れた無数の武器、そしてそれらを、まるで長年連れ添った相棒のように自由自在に操る姿は、まさに圧巻の一言だった。(リュウ様、やっぱり……やっぱりもの凄いですわ! これが、ウェポンズマスターの真の力……わたくしの想像を、遥かに超えています!)彼女は、心の中で精一杯の、そして畏敬の念のこもった応援を送っていた。ほんの数日前まで、森の中でオークに苦戦していた彼が、今やギルドが誇るA級冒険者たちを相手に、これほどまでに圧倒的な戦いを繰り広げている。その驚異的な成長と、秘められた力の解放を目の当たりにし、共に旅をしてきた彼の真の姿を改めて実感していた。
セーラのその純粋な応援と信頼は、確かにリュウに届いていた。仲間の揺るぎない信頼を自らの力に変え、彼はさらに攻撃の手を緩めない。次々と虚空から新たな武器を召喚し、それぞれの武器が持つ特性と利点を瞬時に理解し、それを最大限に活かした千変万化の攻撃を繰り出すリュウに、歴戦の勇士であるはずのA級冒険者たちは、完全に自分たちの戦闘ペースを崩され、翻弄され続けていた。
そして、ついにその時は訪れた。最後まで必死に抵抗を続けていた、あの大柄な両手剣の使い手が、リュウの繰り出した槍の、まるで一点を穿つかのような鋭い一撃を受け、ついにその場にがくりと膝をついた。他のA級冒険者たちも、すでに満身創痍で、もはや立ち上がる力さえ残っていないように見えた。5人の、アルクスギルドが誇るA級冒険者全員が、リュウというたった一人の、そしてD級になったばかりの若者の前に、完全に倒れ伏したのだ。
リュウは、肩で激しく息を切らしながらも、その表情には確かな満足感を浮かべ、自身の周囲に散らばり、あるいは浮遊する無数の武器たちをゆっくりと見渡した。「これが……ウェポンズマスターの力か……恐るべし……」その静かな呟きには、自分自身の新たな力に対する純粋な驚きと、そして揺るぎない確かな手応えが込められていた。
訓練場の隅で、腕を組み、最初から最後まで静かにその戦いを見守っていたギルドマスター、バルガスは、リュウのその常軌を逸した、そしてあまりにも圧倒的な強さに、深い感銘を受けていた。予想を遥かに、そしてあまりにも大きく超えるウェポンズマスターの真の力。それは、まさに規格外であり、伝説として語り継がれるにふさわしいものだった。「……見事だ……。本当に、見事と言うほかあるまい……」彼は、静かに、しかしその声は訓練場全体に響き渡るほどの威厳をもって、高らかに宣言した。
「リュウ、そしてセーラよ。貴様たちのその比類なき実力、このバルガスがしかと見届けた。よって、本日この時より、二人を特例として、A級冒険者として認定する!」




